臨時休校
スタンピードが終息した次の日から学校は臨時休校となった。その間、近くの村に住む生徒は実家へ帰り、お互いの無事を確認し合ったという。
幸いにも、今回のスタンピードで死傷者は出なかったのことだった。村や町には避難所があり、そこへ避難してスタンピードが去るまで、やり過ごしたという――学園の内外は混乱していたが、5日後には授業が再開された。
「殿下、町に被害がなくてよかったですね」
「ああ、みんな無事だったと聞いて安心したよ。もっとも、他の国で魔獣が発生していると聞いて、肝が冷えたが、そちらも各国の部隊が対処したと聞いて安心したよ」
「殿下が素早く陛下へ報告して、各国へ伝達したから被害は最小限で済んだんじゃないんですか?」
ジルの言葉にアーサー殿下は首を横に振っていた。
「私は父上への連絡手段があったというだけだ。各国への連携から後の対応は、その国の迅速な対応によるものだから、私の手柄などではないよ」
「でも、本当に被害者が出なくてよかったです」
「アリー、どうしたんだ? 元気ないね」
アーサー殿下の言葉に私は俯いた。
「いえ、私は……」
「さては、ジルとケンカしたね?」
「……」
「アリー、君は我が国にとってなくてはならない存在だ。どうだい? テドラ国へ嫁に来る気になったかな?」
「殿下、それはっ……。アリーは俺の婚約者です」
「でもアリーには、選ぶ権利があると思うよ」
「……考えておきます」
「!!」
「うん。アリーには私のこと、好きになってもらいたいと思ってるんだ」
「アリー」
ジルの唸るような声に、どうしたらいいか困っていたが、彼は私の手を掴むと殿下の食堂を飛び出した。
「アリー、どういうつもり?」
少し先の廊下で立ち止まると、彼は傷ついたような顔で私を見ていた。
「だって、私――せっかく魔術が使えるようになったのに、ジルは私のこと好きじゃないっていうか……」
(違う。こんなことを言いたかったわけじゃない)
「ごめんなさい。何でもないの」
私は溢れてくる涙をとめられなくて、その場を立ち去ろうとした――その時、ジルは私の手を引くと、自分の方へ引き寄せて強く抱きしめた。
「アリー、好きだ。でも、本当の婚約者になるかどうかは考えさせてほしい。伯爵の地位を継ぐには未熟で、俺はあまりにも何も知らなさすぎる」
「……」
「アリーを守れる覚悟が出来るまで待っていて欲しい」
「……うん」
(私を守る覚悟ってなんだろう――それはいつのこと?)
ふと沸き上がった疑問を口にすることは出来なかった。寿命は延びたはずなのに、私の心は何だか落ち着かない。彼の覚悟が決まるまで、私はいつまで待つべきなのだろうか? 学園を卒業して国へ帰ったら18歳。公爵令嬢としての婚姻適齢期はとっくに過ぎている。
(いいえ。私は彼のことを好きなんだもの。そんなことを気にするべきじゃないわ。もっとしっかりしないと、彼に嫌われてしまうかもしれないわ)
「アリー?」
私はジルへ微笑むと、涙を拭いたのだった。




