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本当の名前

「ジルベルト様、ローズはクレイトン伯爵の契約精霊です。私が魔力が使えなくて魔術学園へ行くことを躊躇(ためら)っていたら、貸してくださったのです」


「ふーん、親父にもいいとこあるんじゃないか」


「親父じゃなくて、クレイトン伯爵って呼びなさいよ!」


「いいじゃん別に……」


 ローズは自分がクレイトン伯爵と呼ばないことを棚上げしてジルベルト様へ注意していた。ジルベルト様がクレイトン伯爵と呼ばないことに、かなり苛立っているようだ。


「ローズだってカーターって呼んでるじゃないの」


「私はいいのよ」


「――そんなことより、お願いしてることが正しいって、何?」


「人間が魔術を使う時、周りにいる精霊が力を貸していることが多いのよ。それには祈りが必要なの。正しい祈りは魔術を使うときに効果を倍増させるのよ」


「祈りか……。いつも、祈ってるんだけどね。魔術が使えるようになりますようにって」


 私がそう言うと、ローズは私の周りをくるくると飛びながら私へ言った。


「アリーのは、身体の問題。魔素神経が機能していないよ。もともと魔力量が多いのに使えないから、命を縮めてしまっているの」


「どうしたら治るの?」


「私は医者じゃないから分からないわよ。身体の中に魔力が溜まって固まってるのは分かるけど、どうにも出来ないわ」


「その治療法を見つけるために学園へ行くんだろ?」


「うん」


「一緒に見つけようぜ! 学園にある書物を全部読んで、いいと思えることは全部試してみよう」


「ありがとうございます。ジルベルト様」


 ジルベルト様の気持ちが嬉しくて泣きそうになっていた。


「ジルでいいよ。言いづらいだろ? 侍従として学園へ行くんだし、ジルベルトはやっぱり長いから」


「え? 名前が長い?」


「ジルが本名。母親がつけた名前がジルなんだ。貴族名はジルベルトだけど」


「じゃあ、ジルが本当の名前?」


「そう」


「じゃあ、本当の名前で呼んだ方がいいわね」


「そうして。その方が何だかしっくりくるし」


「ジル、ありがとう」


「どういたしましてって、何が?」


「ううん。何でもないの」


「変なやつ」


 思ったより、ジルと話せることに私は安堵していた。学園へ行って、ろくに顔も合わせない日々が続いたらどうしようかと、ずっと心配していたのだ。ジルは不思議な顔をしていたが、桶を持つと私に手を差し出した。


「行こう。次のマナー講座、アリーも一緒に受けるんだろ?」


「ええ、行きましょう」


 私はジルの手を取って芝生から立ち上がった。ローズは何も言わずに風を巻き起こすと、ペンダントの中へ戻っていったのだった。




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