幻覚
寮の敷地内にあった花は、作り物のように美しかった。中庭とは反対方向にあるこの庭は、中庭に比べて小さく、バルコニーのスペース分くらいしかなかった。ベンチなどの休憩スペースもないため、よっぽどのことがない限り、ここへ来る人は、ほとんどいないだろう。
「綺麗ですね……。本当にある花なのでしょうか?」
「調べてみよう」
私が殿下に話しかけると、殿下は持っていた図鑑を開いて同じ花を探していた。
「ないね……」
「作りものでしょうか?」
「待って。後ろの方に別に記載されている花があるみたいだ――毒花?」
「え?」
殿下が見ていた本を借りて見ると、そこには毒を持った危険な花が紹介されていた。ジルが私の見ていた本の手元を覗き込んでいた。
「アリー、俺にも見せて――へぇ、一番後ろの特集ページに危険な花がまとめて載っているんだね」
「ええ。幻影染花と言って、この花を見た人の視覚を狂わせるんですって」
「見た人を狂わせる? 俺達まずくないか?」
「非常にまずい。というか、この花がここにあること自体が、おかしいと思う――ひとまず、ここから離れようか」
殿下の言葉に私達は逃げるようにして、そこから走り去ったのだった。
※※※※※
殿下の食堂へ三人で逃げ込むと、そこにはイーリスさんがいた。椅子に座ると、私は本を開いて毒花のページを見ていた。
「この花は、見てから惑わされるまで少し時間がかかるみたい」
「なんだ。三人とも幻覚を見るようになってしまったらどうしようって思ってたけど、あの場所に少ししかいなかったから平気なのか……」
「しかも、この花の毒は効く人と効かない人がいるみたい。原因は分かっていないみたいなんだけど……」
「先輩は、あの花を見た後におかしくなってしまったのかな?」
「自作自演ってこと? でも、自分で自分を封印することは出来ないわ。誰か他に犯人がいるはずよ」
ジルの言葉に私がそう言うと、ジルは考え込んでしまった。
「どちらにせよ、犯人は二人以上いると考えた方がよさそうだ」
殿下の言葉に私達がうなずいていると、ドアの前に立っていたイーリスさんが、こちらへ来て言った。
「殿下、花の件は私から校長先生に言っておきましょうか?」
「ああ、助かるよイーリス。よろしく頼む」
明日の放課後に集まる約束をして、その日は解散となったのだった。




