黄色い花
私達は借りた本を片手に校舎の中を歩いていた。
「殿下、本を確認するなら殿下の食堂へ行きますか?」
私が尋ねると、殿下はこちらを見て、少し意地悪そうな笑顔をこちらへ見せていた。手には、どこかの鍵が握られている。
「これから、ルパート先輩の部屋へ行ってみようと思う」
「まさか、マスターキーですか?」
「まさか。そんなものはないと思うよ。これは校長先生に借りたルパート先輩の部屋の鍵。先輩の部屋に何かあるかもしれないし」
「そんな、勝手に見ても大丈夫なんですか?」
私がそう言うと、殿下は肩をすくめていた。
「大丈夫。本人から了承は得ているから」
「私、殿下が怖くなってきました。鍵とか同意とか、抜かりないですね」
「そう? 学園では結構リラックスして過ごせているから、適当に過ごしているんだけどね」
「適当? 刺客がいるのに、適当に過ごしているのか?」
ジルの言葉に殿下は、何を言われているのか分からないようであった。
「それが当たり前の毎日だったからね。命を狙われるのは王族として生まれた以上、仕方がないとは思う」
「……」
「さあ、着いたよ。ルパート先輩の部屋」
アーサー殿下にそう言われて、私達はルパート先輩の部屋へ入った。先輩の部屋は整頓されていて、特に変わったところは確認できなかった。
「あった。これか」
アーサー殿下は本棚に置いてあった昆虫図鑑を取り出すと、それを眺めていた。
「殿下、図書館で言っていた本ですか?」
ジルの質問に、殿下は図鑑を捲りながら答えていた。
「ああ。先輩に代わりに返しておいてもらえないかと言われてね――なんの変哲もない、普通の図鑑だね」
「ルパート先輩は何で昆虫図鑑や花の図鑑を借りたのでしょうか?」
「何だかよくわからなかったけど、領地経営に関係しているとか何とか言ってたね。それから、寮の敷地内に面白い花を見つけたとか何とか……」
「なんという花なんですか?」
私が質問すると、殿下は肩をすくめていた。
「それが、事件の直前のことは、あまり思い出せないらしいんだよ。かなり元気になったとは思うんだけど、事件のことがショックだったのか、記憶が曖昧になっている部分があるみたいなんだ。確か、黄色い花を見つけて綺麗だと思って図鑑を借りに行ったところまではお覚えてるんだけど――って、言ってたね」
「殿下、行ってみますか?」
「そうだね」
ジルの言葉に待ってましたとばかりに殿下は笑ったのだった。




