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無詠唱魔術

「ジルベルト様? 朝食がまだだとお聞きしました。一緒にリンゴを食べませんか?」


 私が木の上で読書をしていた青年に声をかけると、彼は2メートル以上ある木の上から降りてくると、私が手にしていたリンゴを手に取り、空中に浮かべた状態で皮をむいていた。


「すごいですね。まさか、無詠唱魔術ですか?」


 グロース帝国では、無詠唱魔術が使える魔術師はほとんどいない。聞いた話では、宮廷魔術師に出来る人が一人いるとかいないとか……。そんな魔術を、いきなり間近で見せられて、私は興奮していた。


「たいしたことないよ。母さんが隠せって言ってたから、他の人は誰も知らないけどさ。知ってるのは伯爵とお前だけだ」


「……アリエッタです」


「長くて言いづらい」


「では、アリーと……」


「分かった。アリー、これでいい?」


「ありがとうございます」


「別に。礼を言われることじゃない。無詠唱魔術なんて、イメージが出来れば簡単なのに、何でみんな出来ないんだ?」


「分かりません。私は魔術を使うことが出来ませんので……」


「あっ、そうか。ごめん……。体調はいいの?」


「おかげさまで。伯爵様のご好意で、こちらで治療を受けさせてもらえると聞いています」


「そっか。俺なんかでいいの?」


「貴族社会では親同士が決めた相手と結婚するのが定石です」


「俺は伯爵になるか決めてない」


「え?」


「親父に言ったんだ。いきなり現れて伯爵を継げだなんて理不尽だって。俺に職業を選ばせてくれないかって言ったんだ。今まで放置してたんだ、当然の権利だろう?」


「それで、クレイトン伯爵は何と?」


「好きにしろって……。でもって、学園を卒業するまでにどうするか決めろって言ってた。アリーも病気が治ったら好きにしていいからね。俺と結婚なんかしなくていいし」


 結局――私は、この人と結婚しないのだろうか? 結婚しないまま、人生を終える。それは、すごく悲しいことだと思った。何も出来なくても精一杯生きたい。後悔なんて絶対にしたくないと思った。


「嫌です」


「ん?」


「結婚してください」


「え、なんで? 今日、会ったばかりだよね?」


「よく分かりませんが、私はあなたとお会いして結婚してみたいと思いました。伯爵の地位を継がなくても構いません。駄目ですか?」


「駄目というかなんというか……。ちょっと考えさせてくれる?」


 この時、自分がなんでこんなことを言ってしまったのか、あとになってもよく分からなかった。もしかしたら、彼の魔術に魅了されてしまっていたのかもしれない。


「私は初対面の人に何を言っているのでしょう――ごめんなさい」


 我に返った私は、彼へ頭を下げると来た方向とは反対方向へ走った。恥ずかしくなった私は、そのまま部屋に帰って自分のベッドへ潜り込んだ。


「何やってんのよ、私……」


 彼の笑顔を思い出しながらため息をついた私は、食べることも忘れて、いつの間にかそのまま眠ってしまっていた。




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