火魔術基礎
火魔術の初級魔術を教えてくれる先生は、エドワード先生といった。子爵家出身の先生で火の魔術を得意としているらしく、初めての授業で自己紹介の時には、火魔術は上級魔術の上である特例魔術まで使えると言っていた。
「ハンス、教科書の12ページ、1行目から読んでください」
「はい」
火魔術基礎の授業では初めに教科書を読んで、魔術を理解したうえで初級魔法を実践する。呪文とイメージが大切だという内容が3ページに渡って教科書に書かれていた。それをハンスがつかえることなく読み上げると、先生は満足そうな顔で頷いていた。
「ありがとう、ハンス。とても分かりやすかったよ」
ハンスが教科書を読み終えると、先生はハンスを褒めちぎった。どうやら褒めて生徒を伸ばすタイプの先生らしい。背は高くはないが、筋肉のついたがっちりとした体形をしている、表情が穏やかでとても優しい先生の一人である。
「さて、今日は実践に移ろうと思う。みんな、初級魔術で一番簡単な魔術は何だと思う?」
「ファイ・フランメ!」
ケントは手を上げると元気よく答えた。彼は火魔術の時間が好きらしく、先生が何か質問すると率先して答えていた。
「正解。火を起こしたいとき、ちょっとだけ火を使いたいときに指先にともす魔術だ。この魔術を使う特は、半径1メートル以内に人がいないか確認してから魔術を行うんだ。やけどしてからでは遅いからね」
「はい、先生」
「それでは、実践に移ってみよう。みんな、いいかい?」
生徒の手には杖が握られていた。イメージと杖。これが現代魔術に必要不可欠な2つの要素となっている。杖を使わなくていいのは私が知っている限りジルだけであるし、さらに無詠唱で魔術を使えるのは、ジルとごく一部の人間だけである。
「それでは杖を握ってください」
先生にそう言われて、私は右手に杖を持ち、左手の人差し指を立てた。どの指でもいいらしいが、人差し指が一番イメージしやすいらしいので、私も先生と同じように人差し指を出していた。
「……」
隣にいるジルも手に杖を握っていた。入学準備品のリストの中に入っていたので、事前に伯爵家が購入したものであったが、ジルにとっては不要のものである。
「では、私の後に続けてください――ファイ・フランメ」
「ファイ・フランメ」
先週中庭で魔術が使えなかったことを思い出していた。どうせ使えないだろうと、残念な気持ちで指先に火をイメージしながら呪文を唱えると、火はどこからかやってきて指先に火がついた。
「え?」
「さすがみなさん高等科に入学されただけのことはありますね。お上手です」
先生は生徒が全員火をつけられたことに安堵したのか微笑んでいた。
「火の加減は難しいので、Aクラスでは毎年、魔術を操りきれずに大きな炎を出してしまう人がいるのです――けれど、今年は違った。みなさん優秀ですね」
私は自分の指先を見つめながら、ジル様とアーサー殿下を振り返って見ていた。すると、彼らも同じように驚いていたのである。




