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心配ごと

「殿下、どうされたのですか?」


「勉強の息抜きにね――ちょっと散歩」


 殿下が来た瞬間、ローズとヴィーは何故かペンダントへ帰っていた。


「ごめんね。魔力のこと──協力するって言っておいて、何も出来てない」


「そんなことは……。殿下は、やはり魔獣のことが気になっているのですか?」


「ああ。校長先生が帰ってきたら、聞いてみようと思う。いくら何でも、もう戻ってくるんじゃないかな」


 アーサー殿下は私の隣に腰かけると、こちらを見ずに自分で自分の手を握っていた。


「殿下?」


「ああ、すまない……。アリーは、その、やはりジルと結婚するのか?」


「え? ええ、まあ……」


「でも伯爵家を継ぐのか分からないんだろう? 少し調べさせてもらったが、もし継がなかった場合は、クレイトン伯爵のところへ嫁ぐのか?」


「それは……」


 クレイトン伯爵は奥様を大切にしている。もしジルと結婚しないとなれば、嫁入りは難しいかもしれない。


「テドラ国へ嫁に来ないか?」


「え?」


「王子の妻なら、最先端の治療が受けられる」


「それは、ありがたい話ですが……」


 私はこの日初めて、アーサー殿下の目を見た。すると、彼はまっすぐな瞳でこちらを見ていた。


「君のことが気になっている。たぶん好きなんだと思う」


「……」


「ジルではなくて、私と結婚して欲しい。駄目かな?」


「アーサー殿下は素晴らしい方だと思います。ですが、帝国の婚約は簡単に断れるものではありませんので……」


 私はアーサー殿下の矜持を折らずに断れる言い分を必死に探していた。私が断れば、外交問題に発展する可能性もあるのではないかなどと考えてしまう。


「そうか……。分かった。私の気持ちを知ってもらえただけでも嬉しい」


「え?」


 あっさりと引き下がったアーサー殿下の態度を不思議に思った。本当に私と結婚したかったのだろうか? 果たして次期国王かもしれない人間が、治るか分からない病を抱えている他国の人間を妻に迎え入れたいと思うだろうか?


(まさか、王国では魔力を持った人間の人体実験が……)


「今日のことは忘れてもらって構わない。でも、何かあったときは思い出して欲しいんだ。私は君の味方だよ」


 そう言った殿下は、私を抱きしめて私の頭を撫でていた。しばらくそうしていると、中庭に風が吹き始めた。その風は段々と強くなり、強風となる。顔を上げると、そこにはジルが立っていた。


「ジル……」


「殿下、アリーから離れろ。いくら殿下でも許さない」


 風はジルが起こしている風のようだった。無詠唱で巻き起こる風は、怖ろしく冷たかった。




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