稀少価値のあるもの
「それにしても、ジルは無詠唱で魔術が使えるんだね。知らなかったよ」
「あ……」
アーサー殿下の言葉に、ジルは固まっていた。そう言えば、ヴィーに魔術を使った時に無詠唱で魔術を使っていた。
私がジルの無詠唱魔術に見慣れてしまったのと、アーサー殿下がそばにいるのが、当たり前になってしまったのとで、そこまで頭が回っていなかったのだ。
「テドラ国では使えるのは、無詠唱が使えるのは数名なんだ」
「殿下。グロース帝国にもあまりいません。申し訳ありませんが、このことは秘密にしいていただけると――」
「なんで?」
アーサー殿下に言われて、たじろぎながらもジルは、殿下の質問に答えていた。
「俺は正式に伯爵家を継ぐと決まったわけではありません……。それで、身分が『侍従』となっているのです」
それだけではなく、クレイトン伯爵夫人のミシェル様に秘密にするためではあったが、それは今ここで言わなくてもいいだろう。
「分かった。でも、授業はどうするんだ?」
「魔術を唱えたふりをして、やり過ごしますよ」
「なんて奴だ。授業はどうなる? そうだ、イーリス。分かってはいるとは思うが、ここでの話は他言無用だ」
「はっ」
騎士のイーリスに言うと、イーリスは手に胸を当てて敬礼していた。ドラゴンのヴィーは、部屋の隅で私達の話を聞いていたが、私のそばへ来るとペンダントを見つめていた。
「なるほど、普段はここにいればいいか――アリー、そのペンダントは収納ボックスの魔術具?」
「ええ、そうよ」
「待って。ここは私の寝床よ」
ペンダントへ戻っていたローズが、再びペンダントから出て来てヴィーを威嚇していた。
「そうだが――空間魔術だし、中は広いだろ?」
「そうね。でも貴方は嫌」
「え?」
「ローズ、お願いよ……」
「嫌なものは嫌なの」
私がローズにお願いしていると、ヴィーはジルに言った。
「たぶん、ペンダントにいれば、アリーの肌に触れられると思うんだ。そしたら、それで魔力を吸い上げられると思う」
「本当か? ローズ、ちょっとくらいいいじゃないか。部屋を貸してやってくれ」
「しょうがないわね。何か変なことしたら、すぐに追い出してやるんだから。このペンダントはカーターが私のために用意してくれたものなのよ。あんたみたいなのを中に入れたと知ったら、どう思われるかしら」
「ローズ、このことはクレイトン伯爵に内緒にしておきましょう。ね、ジル」
「お、おう」
「分かった。来なさい。ペンダント内での過ごし方を、みっちり教えてあげるから」
(ペンダント内での過ごし方って、なに?)
「はい、よろしくお願いします」
ヴィーはローズにいびられながら、ペンダントへ入っていった。
「ふふっ、仲いいね。瓶の件は分からなかったけど、今日はもう解散しようか。何だか疲れてしまったし」
「賛成です――ジル、どうかしました?」
「え? いや、なんでもない。少し疲れたのかもしれないな」




