救助活動
「えっと、どちらさま?」
「われはクラヴィス。アリエッタに仕えるものだ」
金髪の青年はそう言うと、私を抱きしめてキスをした。
「ん゛――――」
口から何かを吸い込むようにキスをしているから、おそらく魔力を吸い出しているのだろうが、勘弁して欲しい。
「おい、お前っ。やめろ」
ジルが私を金髪の青年から引き剥がした。
「ふー、生き返った。うっ……」
ドラゴンと思われる青年は、ジルの鉄拳を食らって床にうずくまっていた。先ほどは何も着ていなかったのに、ドラゴンは平民が着るような服を着ている。
「おい、おまえ……。俺の婚約者に勝手にキスするな」
ジルは、床に倒れた青年を踏みつけた後に蹴っていた。
「これは人命救助だっ……」
「なにこれ? 身体がさっきよりだいぶ軽くなったわ」
「魔力を吸い上げたんだ」
そう言ったドラゴンは、得意げだった。火は吐いたりしなさそうだが、警戒しておいたほうがいいだろう。
「あれ? さっきは洋服なんて着ていなかったのに……」
私がそう言うと、ドラゴンは素早く立ち上がり得意げに語りだした。
「これは、闇魔術の幻影カモフラージュだ。実際には何も着ていない。以前に見たことのある平民の洋服を再現しているんだ。裸のままだと、アリエッタが驚くと思ってな。古竜種にしか出来ないことだ」
「クラヴィスといったか? キス以外の方法はないのか?」
「うーん。抱きしめ合って、肌を密着させることで魔力を吸収することも出来るが、丸一日はかかるかな」
「丸一日?」
「うん。しかも、我はもともと水竜だ。表面は冷たいから、少し微妙かも」
クラヴィスは元の姿に戻ると、私の近くへ来て身体を差し出した。
「本当だ。冷たい……」
私がドラゴンの皮膚と思われる表面を触ると、氷のように冷たかった。ドラゴンは気持ちがよさそうに鳴いる。
「うーん。魔力が気持ちいい」
「ほんとうに触るだけで流れるのね。もしかして、私って魔力を垂れ流しているの?」
「そんなことはない。われが勝手に吸い取ってるだけだ」
「へぇ。あなたの名前、クラヴィスって言うの?」
「そうだ」
「クララって呼んでいい?」
「ぶっ……」
私がそう言うと、後ろで殿下とジルが吹いていた。
「それは……。ちょっと、どうかと」
「じゃあ、ヴィー?」
「……ああ、いいな」
「ヴィー、よろしくね」
私がそう言うと、ヴィーはドラゴンの姿のまま嬉しそうに笑っていた。
「ジル。もしかして、やきもち妬いてる?」
「うるさい、黙ってて」
アーサー殿下は赤くなっているジルを見て揶揄っているようだった。




