実験室へ
教員室へ行くと、前に掃除をした時に忘れ物をしたと言って鍵を借り、実験室へ向かった。
「何か寒いですね。冷気が……」
「そうだな。寒いな……」
部屋の中へ入ると、以前に来た時とほとんど変わらなかった。掃除した床もそのままだし、誰かが何かを置いて行ったような形跡もない。
「殿下、何もないですね。帰りましょうか?」
「ああ。でも、なんだか違和感があるな……」
部屋へ入った時から、殿下は何か腑に落ちない顔をしていた。部屋の中を見ても、特に変わった様子は見受けられなかった。
「違和感?」
「そうだ、寒い……。風が吹いているのか?」
殿下がそう言った瞬間、獣の唸り声のような低い音が、微かに聞こえた気がした。
「殿下、帰りましょう。何だか気味が悪いです」
「そうだな……。あれ?」
「なんですか、殿下。何か見つけちゃったんですか? 何もありませんよ、帰りましょう」
ジルは、不気味な鳴き声に怯えているのか、しきりに殿下へ帰るように促していた。また、イーリスもジルの言動に賛同するかのようにうなずいていた。
「もしかして、地下に下へ続く階段があるのか?」
殿下が調理台の下にある床下収納の扉を開けていた。床の下には殿下の言ったとおり階段があり、唸り声はその階段の下から聞こえてくるようだった。
「噂に聞く魔獣でしょうか?」
イーリスの言葉に、殿下は首を傾げていた。
「どうだろう? もし魔獣だとしても、どれくらい危険なのか分からないな。一度、部屋へ戻ろうか」
殿下がそう言った瞬間、部屋に光が溢れ、床下から小さなドラゴンのような動物が出てきた――ちなみにドラゴンは伝説上の生き物のため、私は絵本でしか見たことがない。
「われは、古竜である。長き眠りより目覚めたが、魔力が尽きかけ消滅しかかっている」
「なんだ、夢を見ているのか?」
殿下は尻もちをついて、空中に浮かぶ水色の竜を眺めていた。




