魔術学園
山向こうにあるラール魔術学園は、隣国のテドラ王国内にある。クレイトン伯爵領は、グロース帝国の辺境の地にあり、隣接している山向こうのテドラ王国と海向こうにあるエスターク公国に隣接している帝国内にある領地である。
テドラ王国は全国土の3分の1の面積が鉱山を含む山であり、多くの魔石が取れることで有名な国である。人口の約半分が魔術師となり、その多くが戦闘系の職に就くと言われている。
国が運営するラール魔術学園は、テドラ王国のピオーネ山脈に隣接するグロース帝国のクレイトン伯爵領の山と山の間にあった。山に囲まれているため、安全性が高いこと、教育水準が高いこと、鉱山が近くにあるので魔石が安価で手に入りやすいことが、学園の売りになっていた。
「それなら、どうして魔術学園に行くことになんて……」
「魔術学園には、アリエッタ嬢の病を治す手がかりがあると私は思っている」
「そんな話、聞いたことがありませんが……。もしかして、そういう噂があるのですか?」
「テドラ国に嫁いだ知り合いの知り合いから聞いた話じゃ。魔素過剰蓄積型の病気だった人が、急によくなったと聞いたのじゃ。まあ、本当の話かどうかは分からないが、魔術学園へ行って調べてみても損はないだろう、知識は宝だ」
「でも、私は全くと言っていいほど魔術が使えません。剣術なら出来ますが……」
私がそう言うとクレイトン伯爵は顎に手を当て、考え込むようにして言った。
「筆記試験のみで合否を決めていると聞いたし、実は魔術学園の校長は私の知り合いで、こちらの事情は話してある――だが、そんなに心配なら、やはり私の契約精霊を貸そう」
「ローズ、おいで」
「はあい」
空中から舞い降りた妖精は、私の前でお辞儀をすると目の前で飛んでいた。見た目は小さく、白い服を着た妖精の背中には透明な羽が生えていた。
「風の妖精、ローズだ。学園にいる間、貸し出そう」
「かわいい」
私が見惚れていると、ローズは私にお尻を向けていた。
「あなたは誰なのよ?」
「申し遅れました。私はアリエッタ・ヴォーゲルと申します。以後お見知りおきを」
「分かったわ。しばらくあなたに力を貸してあげる!」
「ローズ、アリエッタは魔術が使えない。何かあるといけないから、普段はこのペンダントに隠れてるんだ」
「分かったわ、カーター」
(伯爵を呼び捨て?)
風の妖精ローズは、空中で一回転するとペンダントの中へ入っていった。
「妖精は気まぐれなんじゃ。ついうっかり出来ない約束をすると後で痛い目に合う。気をつけるんじゃ」
「そのペンダントは魔石ですか?」
「さよう。このペンダントは魔石で出来た魔術具じゃ。空間魔術の役割も備えておるから、収納ボックスとしても使えるし、持っていると便利だろう。本来なら妖精に魔石は必要ないんじゃが、使えない魔力が妖精にどんな影響を与えるか分からない。このペンダントの中にいれば、ローズやアリエッタ嬢も安心だろう?」
「はい。ありがとうございます」




