自習時間
週末に近づくにつれて、地響きのする日が増えていった。授業中に怖がる子もいたが、慣れとは恐ろしいもので、だんだん揺れに慣れて来て響きに合わせて先生の授業を聞けるようになっていた。
金曜日の午後は、実際に魔術を使ってみる授業だったが、練習場が崩落事故に近いという理由で中止になり、今日は自習時間となっていた。
「アーサー殿下、現場のことが気になりますか?」
「ああ。誰か巻き添えになったりしていなければいいが……」
アーサー殿下は窓の外を眺めながら、ため息をついていた。
「そのさ……。崩落事故って、こんなに長引くものなのかな?」
「え?」
後ろから聞こえたジルの言葉に、私と殿下は首を傾げた。言っている意味がいまいち分からない。
「俺が街で暮らしていた時に聞いたことがあるんだけど、崩落事故って長引いたりしないもんなんだよ。事故が起きた後に、二次災害みたいなのはあるみたいなんだけどさ。話を聞いた限りでは、こんな感じゃなかった。でも、帝国での話だからさ。場所が違えば、何かが違ったりするものなのかな、なんて思ったりもするし……」
ジルは平民でいた時のくせが抜けないのか、たまに『俺』と言ってしまうことがある。貴族であるジルが『俺』と言っていることに親近感を覚えたのか、他のクラスメイト達はあっという間にジルと打ち解けていた。
「ケント! ちょっと来てくれないか」
他の男子と話していたケントという青年は、そばかすが印象的な青年で、恥ずかしいのか、照れ笑いをしながら彼はジルへ聞き返していた。
「ジル、なに?」
「この前言ってた、あの話もう一度してくれない? 殿下にも聞いてもらいんだ」
「別に、それは構わないが……。たいした話じゃないぞ?」
「構わない。えっと、ケントのおじいさんから聞いた話だったよな?」
「うん」
話が長くなりそうだと思ったのか、ケントは近くに置いてあった椅子に座ると話はじめた。
「俺のじいちゃんは、崩落事故があった時、近くの山で山菜取りをしていたんだ。でも、採掘場から少し離れた位置にいたから少し地面が揺れたのを感じたくらいで、音の方が大きかったって言ってた」
「揺れより音?」
「そう。そのあと、地面が揺れたりとか、そういう話はなかったから、おかしいよねってさっき、あいつらとも話してたんだ」
「あいつらって、あそこにいる友達のこと?」
私が聞くと、ケントは彼らを手招きしてこちらへ呼んでいた。
「こっちがハンスで向こうがジョージ」
「はじめまして。グロース帝国のアリエッタ・ヴォーゲルです」
「お嬢様、挨拶はいいので話を聞いてやってください」
「え? ええ」




