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私の未来の旦那様

「奥様は私が嫁いできたことを……」


「それも、知らない」


 私は初めて会った伯爵の前で頭を抱えた。いきなり違うことを言われて混乱するのは、人として当然のことである。


「すーはー」


 私は深呼吸をして脳に酸素を送ると、クレイトン伯爵へ再び質問した。


「伯爵様。伯爵様に婚外子がいらっしゃることは、承知しました。その方との婚約も……。奥様に伯爵のご子息様と私の存在を秘密にしたいという内容も、ご事情は理解しました」


「うむ、話が早くて助かるの。サミエル、呼んでくれ」


「承知しました」


 伯爵のすぐ傍に控えていた執事はサミエルというらしく、彼は頭を下げると部屋を出て行った。


「それでその、伯爵様……。いくらなんでも、同じ屋敷に住んでいる人間に存在を隠し通すことは難しいと思っておりますの」


「うむ。それについては、妻のミシェルは離れにある屋敷からほとんど出ないし、問題ないと思うのじゃ」


「えっと、その――奥様には、私のことを何とおっしゃって……」


 昨日はかなりの大人数で屋敷へ来ていた。よほど鈍感でなければ、気がついているはずだ。


「子爵家から勉強に来た、使用人見習いだと伝えてある」


「……」


「大丈夫じゃ。ミシェルは良くも悪くも天然じゃ。具合が悪くて、あまり動き回れないのじゃよ」


「えっと、その……」


「失礼いたします。ジルベルト様をお連れしました」


「入れ」


 先ほどの執事が、小柄な青年を連れて中へ入ってきた。身長は私とたいして変わらなかったが、黒髪に緑色の瞳をしており、瘦せていて平民が着るようなシャツとズボンを身に着けていた。


「ジルベルト様。こちらが婚約者のアリエッタ・ヴォーゲル公爵令嬢です」


「……」


「ご紹介に与りました、アリエッタ・ヴォーゲルです。以後お見知りおきを」


「身体は?」


「え?」


「大丈夫なの?」


「……私の病気のことをご存じなのですね。普段の生活程度なら問題ありません」


「そう」


 (伯爵様と余命が同じ――では、ないじゃないの。同い年で、私と結婚するつもりの先週まで平民だったって、どういうこと?)


 急に現れた青年に見つめられて、私は混乱していた。


「でも、私の余命はあと2年と言われております。こちらで治療を受けさせていただいて、良くなればいいのですが……。すみません、助けていただいた伯爵家へのご恩は忘れません。命があるかぎり、恩を返すつもりで伯爵家に尽くします」


「恩なんて返さなくていいから、無理しないで。僕は誰にも死んで欲しくないだけだから」


 それだけ言うと、彼は部屋を出て行った。


「えっ、ジルベルト様!」


「すまん。教育が行き届いておらんのだ。あいつは──息子は、未成年だったから引き取った。国へは届け出たが、他の貴族にはまだ知らせていない。母親を亡くして塞ぎ込んでいるみたいでな……。しばらくは、放っておこうかと思っての」


「婚約のことは、ご存じだったのですか?」


「ああ。はじめは乗り気じゃなかったんだが、アリエッタの病気のことを聞いて、気が変わったらしくてな。自分の力で助けられる命があれば救いたいと言い出したのじゃよ。息子に伯爵家を継がせるかどうかは様子見じゃな」


「……それでは、ジルベルト様のことも引き続き奥様には秘密になさるおつもりですか?」


「そうして欲しい。もし、外に子供を作ったことが妻にばれたら、わしはただでは済まないし、ミシェルの具合も悪くなってしまうかもしれないからの」


「かしこまりました。それでは、私とジルベルト様はしばらくの間、屋敷の使用人として過ごせばよろしいでしょうか?」


「いや、それは難しいじゃろう。君たちには来月から山向こうの魔術学園へ通ってもらう」


「魔術学園? 待ってください、クレイトン伯爵。私は魔術が使えないんです」


「知っておる」




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