星読みの授業
魔術学園では、1限目と2限目の後に昼休みがあって、午後に三限目がある。月曜日から金曜日まで授業があるが、基本的に土日はお休みだ。
授業初日が水曜日だったため、私達は一限目の後に屋上へ来ていた。2限目は星読みの授業――3クラス合同で屋上にある天文台で授業を受けることになっていた。屋上の天文台の中にある椅子に座ると、明かりが消えて天井に星空が広がる。
「うわっ……」
球体の天井に映しだされた星々は、本物より輝いて見えた。
「星読みの授業は、未来を予測する授業になります。申し遅れました、私はラール魔術学園の教師でロゼッタと申します」
近くに立っている眼鏡をかけた金髪の先生が、どうやら星読みの先生らしい。音声拡声器のようなもので音を出している。
「星読みは簡単なようで難しいものです。星の動きを正しく読み取り、正しく計算しなければ、この先の未来は読み取れません。また、星の動きは変わることもあります。誰かが未来を読み取り、星が変われば未来は変わる。その動きを正確に読み取れてこそ、偉大な魔術師になれます」
「星読みが出来ないと、偉大な魔術師になれないのか?」
「そんなことないと思うわ」
ジルが顔を近づけて小声で話していた。ジルの瞳が夜空と同じくらい光って見えて、私はドキドキしながら答えた。
「そうだよね」
「私語は慎むように」
私たちの会話が聞こえたのか、ロゼッタ先生はこちらを見ながら言っていた。専門用語がよく分からなかったが、夜空に見立てた星が美しかった。先生の話では、昨日の夜の星を書き写したものを天井に映しだしているということだった。
「ねえ、曇りの日が続いたらどうするのかな?」
反対側に座っていたアーサー殿下がそう言ったので、私は慌てた。
「うーん……。晴れになるようにお祈りするとか?」
「アーサー様、何か質問はございますか?」
私達は教科書に載っていた星読み手順に従って星読みを進めていたが、アーサー殿下は教科書を閉じていた。
「曇りや雨の日が続いたら、星読みは出来ないだろう? その場合は、どうするんですか?」
「星読み師は晴れの日に備える必要がございます。正確に読み取れなければ、未来を視ることは出来ません」
(つまり、曇りが続いたら何も出来ないってことね)
「先生、出来ました!」
「どれどれ……」
同じクラスの生徒が、星の動きの計算を終えて教科書の表に当てはまるものを指さしていた。
「星の動きから、読み取れるのは“厄災”です。近い内に災いが起きるでしょう――だそうです」
「厄災? そんなはずは――」
教科書を読んだ生徒の言葉に、部屋の中にはざわめきが起こった。
「先生、私も厄災がでました」
「先生、私もです」
次々と上がる声に、ロゼッタ先生は狼狽えていた。
「静粛に! 私が星を書き写し間違えた可能性があります。今回の結果は、私の方でもう一度詳細に結果を出し直します。少し早いですが、皆さんはお昼休みにしてください」
先生がそう言った後に会場は明るくなり、生徒たちはぞろぞろと天文台を出て行った。外は晴れていて、風が吹いて気持ちよかった。これから厄災が起きるような気配は微塵も感じられない。
「君達は、どこでお昼食べるの?」
「えっと、私達は食堂で食べようかと思っていて……」
「よかったら、一緒に食べない?」
殿下の申し出は嬉しいが、ジルは身分を隠している。ジルからしてみたら、気兼ねなく一緒に食べるということは難しいだろう。私がジルを見ると、何故かうなずいていた。
「いいですわね。どこで食べますか?」
「お昼を食べるスペースがあるんだ。ついて来て」
殿下は嬉しそうに微笑むと屋上から1階へ降りた。そこから殿下と一緒に食堂の隣にある校舎の階段を上って行ったのだった。




