売店
アーサー殿下に言われた通り、校舎を真っすぐに進むと食堂へ出た。今は営業していないが、たくさんのテーブルと椅子が置いてある。
アーサー殿下の話によると、たまに先生がここで時間を潰しているという。
私は食堂の横にある売店を見つけて、走って行った。噂の魔術具が置いてある売店だろう。
「お嬢様、走らないでください」
「ジル、売店があるわ!」
「うん、分かったから落ち着こう」
誰もいなかったので、つい走ってしまった。歩いて行くと、売店に人影が見えて私は慌てた。
「校長先生?」
校長先生は、売店でフィギュアを見ていた。小さな人形だったが、校長が手にしているのは、校長先生本人のフィギュアだった。
「君たちはオリエンテーションに参加したのか?」
「はい。校長先生、そのフィギュアは……」
「わしのミニチュア版じゃ。幸運が訪れると言われている」
「魔術具ですか?」
「いや、ただの人形じゃ。これが、ほとんど売れてないらしいんじゃ。他の文具や魔術具は売れてるのじゃが……。このフィギュアが作られるようになって、5個しか売れてないらしい。今度、廃止になると聞いて見に来たんじゃ」
「私、買います」
「いや、生徒に気を遣わせるわけには……」
「校長先生――ぜひ、買わせてください。この学園で学んだ記念に致しますわ」
「うむ? そうか……。ありがとう。アリエッタさんのご好意に甘えるとするかのう」
「ええ、そうしてください。ところで、校長先生。お願いがあるのですが……」
「なんじゃ?」
「私達を寮へ案内していただきたいのです」
「容易いことじゃ。案内しよう」
「ありがとうございます」
私は売店で人形を買うと、校長先生の後をついていった。
「わしはアーサー殿下が案内していると思っていたんじゃが……」
「先ほどまで案内していただいていたのですが……。用があるからといって、別の場所へ向かわれました」
「ああ、今日は特別に委員会がある日だったか」
「委員会?」
「アーサー殿下から聞かなかったか? 魔術学園では生徒が、委員会を立ち上げている。アーサー殿下が既に入っている学年委員の他に、図書、園芸、広報、動物、管理、の全部で6つの委員があるんじゃ。有志で行っているんじゃが、あまりにもやる人がいない場合、どうするか先生が話し合って決めることになっている」
「校長先生、私とジルは書記になりました」
「おお、よかったではないか。アーサー殿下は見どころのある男じゃ。仲良くしてやってくれ」
「はい」
「着いた、ここじゃよ」
食堂から渡り廊下を渡ったところにある建物が寮らしかった。別棟へ来ると、公爵邸にあった従業員用の宿舎と同じで廊下にドアがたくさん並んでいた。
「ここじゃよ。ジルの部屋は隣にしておいた」
「ありがとうございます」
「明日は、今日と同じ場所で魔力測定が行われる。ゆっくり休むんじゃよ」
「はい」
「ジルも、ゆっくり休むんじゃよ」
「え? はい、ありがとうございます」
校長はそう言うと、笑いながら去って行った。
「校長先生は、ジルが侍従じゃないって知っているのかしら?」
「どうだろう。クレイトン伯爵が知り合いって言ってたけど、分からないね」
「とにかく、明日へ向けて準備をしましょう。お嬢様、また明日」
「うん、また明日。よろしく」
私が手を振ると、ジルは隣の部屋へ入って行ったのだった。




