学年委員
「丸い石の真ん中に穴が開いているだろう?」
「ええ」
「願い事を心の中で言いながら、その中をくぐるんだ。そうすると、願いが叶うと言われている」
「学校にこんなものがあるなんて面白いですね。やってみていいですか?」
「どうぞ」
私は願いを心の中で唱えながら、石をくぐった。後からジルもついてきて一緒に同じようにくぐっている。
「願いが叶うといいね」
「はい、ありがとうございます」
その後、動物の飼育小屋と天文台、薬学の教室と格闘実技を行うアリーナをアーサー殿下に案内してもらうと、日が傾きかけていた。
「アーサー殿下、今日はありがとうございました」
「すまない。今日はこれから人と会う約束があってまだ帰れないんだ。誰か先生を見つけたら寮へ案内してもらって。迷わないとは思うんだけど……」
テドラ魔術学園は全寮制である。近隣の村から通っている人もいるが、特別な事情がない限り、生徒は寮に住むことになっている。
「構いませんわ。こちらで探しながら行ってみます。アーサー殿下、今日は何から何までありがとうございました」
「いや、新入生代表として当然のことをしたまでだよ」
「ありがとうございます」
私が殿下の心配りに感動していると、殿下は何故か右手を差し出していた。
「実は、君たちにお願いがあるんだ」
アーサー殿下の笑みに、私はしまったと思ってしまった。頼みごとを断れない――思わずそう思ってしまうくらい、親しみの感じられる笑顔だった。
「なんでしょうか?」
「私は学年代表として学年委員をやることが決まっている。学年委員は、書記を二人指名できるんだけど……。君たち二人にやってもらえないかなと思って」
私は入学式にオリエンテーションへ参加せずにみんなが会場を去っていったことを思い出していた。おそらく学年委員のことで、声を掛けられたくなかったのだろう。
「ジル、どうする?」
「お嬢様に合わせますよ」
「分かったわ。アーサー殿下、お引き受けいたしますわ」
「よかった、ありがとう」
私が差し出された手を掴んで握手を交わすと、殿下は泣きそうになりながら喜んでいた。




