石像とオブジェ
図書館を出て、中庭を歩いて行くとそこにはバラ園があった。噴水の周りには、バラが咲き誇りその噴水を取り囲むようにして四阿とベンチが置かれていた。読書以外にも、ランチを楽しむことが出来そうだ。
「すてきな庭ですね」
「だろう? 今度、ここで一緒にランチでもどうかな?」
「え?」
アーサー殿下がそう言った瞬間、周囲の気温が1度下がった気がした。気がつけば私の前へ出ていたジルは、両手を広げてアーサー殿下を威嚇していた。
「お嬢様には、婚約者がおりますので」
「すまない。そんなつもりは、なかったんだが……。せっかくできた友達だし、グロース帝国のことを聞いてみたかったんだが……」
殿下の傷ついた様子に、本当にそんなことは思っていなかったのだろうと思えた。貴族である私が、今ここで辞退したら、グロース帝国の印象も悪くなるかもしれない。
「ジル、大丈夫よ」
「し、しかし……」
「心配してくれてありがとう」
ジルが引き下がると、私は殿下に微笑んだ。
「申し訳ありませんでした。私も王国の魔術について興味がありますわ。今度、お話を聞かせてください」
「……楽しみにしておくよ。次は屋上へ行ってみようか」
そう言ったアーサー殿下は、校舎へ戻り階段を上っていた。後について行くと、階段を上りきったところにドアがあり、ドアを開けると屋上へ出た。
屋上からは横に建物の白い壁が見えるため、2階の屋根部分にでたようである。端っこには、小さな動物を飼育している小屋があり、正面には丸い石像とオブジェが建っていた。
「エーテ神ですか?」
「知ってるの?」
「信徒ではありませんが、前にテドラ国で事件があったのは覚えています」
「あれは――ひどかったね」
10年前、テドラ国にはエーテ神をあがめるリュディア教の信者がほとんどであった。法の神の象徴とされ、国民に愛されていた。一方、エスターク公国から広まったスターン教を信仰するものも少なくはなかった。
ところが、スターン教の一部の信徒が、リュディア教から被害を受けたと言って、リュディア教の信徒を攫っては、復讐だと言って他国へ奴隷として売りさばいていた。反抗するものは皆殺しにし、同じ宗派であっても、従わないものは監禁したりしていた。それを制圧したのが、アーサー殿下の父上である現国王のアラヌス・テドラである。
「アーサー殿下、この丸いオブジェは何ですか?」
「これかい? これは『祈りの石』と呼ばれている」
「祈りの石?」




