第三章【捕食者の記録】
ユウが門をくぐった瞬間、雰囲気が一変した。ダンジョンの内部は、赤いクリスタルで満たされ、壁は岩石でできており、まるで巨大な獣の胃の中にいるかのように赤い血管が走っていた。石はひび割れ、ユウの肺に重くのしかかるような空気。湿気と重圧、そして血のような金属的な匂いが鼻にまとわりついた。剣の鞘が冷たい壁に擦れる音が周囲に響き渡った。鍾乳石から滴る水滴が、不吉な予兆のように響き合い、ダンジョンの心臓の鼓動のような音を立てていた。
ユウはまるで神々の視線が遠くから自分を見ているような感覚に襲われた。体内の圧迫感と震える足を感じながらも、勇気を振り絞って歩みを進めた。
「これがダンジョンか。」
ユウは皮肉な笑みを浮かべてつぶやいた。
恐怖を振り払い、錆びた剣を握りしめ、前へ進んだ。背後で扉が重い音を立てて閉まり、闇が彼を飲み込んだ。
第一階層:紅の裂け目
第一階層の洞窟は、ギザギザの裂け目が広がり、壁には脈打つ赤い水晶の血管が走っていた。地獄のような赤い輝きを放つ鍾乳石は牙のようで、粘つく赤い滴が落ち、触れるたびにシューッと音を立てて蒸気となる。洞窟にその音が反響した。空気は湿り、肌にチクチクとした感覚を与えた。
影から現れたのは、紅の鎧をまとったシルダークス——全長10メートルを超える巨大なムカデだった。その光沢のある鎧は血のタイルのようで、剣のような鱗が重なり合い、数百の足が岩を擦る音を立て、鋭い顎が貪欲にカチカチと鳴った。毒々しい緑の目がユウを捉え、咆哮が洞窟を揺さぶった。
【モンスター:紅の鎧 シルダークス】
ランク:F
【特殊能力:地震の爪——地面を叩き、軽いダメージと小さな亀裂を生む地震波を発生させる。】
「優しいチュートリアルじゃないな。」
ユウは剣を構えながら言った。シルダークスが突進し、爪が地面に振り下ろされ、床が爆発し、ユウの足元が揺れた。岩の破片が飛び、左腕に軽い傷を負わせた。
素早くユウは集中し、ブラックホールを発動。指先に月なき夜のような黒い円が現れた。暗黒のエネルギーが渦巻き、ユウが指先から放つと、その速度は時空や光そのものを超えた。渦はシルダークスの鎧に食い込み、鱗を砕き、生命力を吸い取った。モンスターは最後の震えを起こし、ブラックホールがその体の半分を喰らい、魔力を吸収した。ユウは剣を高く掲げ、一撃で首を切り落とした。赤い液体が流れ出し、モンスターは崩れ落ちた。
「最初の獲物だ!」
ユウは顔の血を拭い、勝利の笑みを浮かべた。
【通知音】
【新スキル:虚空牙——黒い核から形成される暗黒の牙が剣を包み、敵のHPを吸収する。】
「こんなチートスキル手に入れるなんて! どうやらこのダンジョンでモンスターを倒すとレベルが上がるらしい。黒いスライムを倒したときはスキル獲得の通知なんてなかった。弱すぎたからか? 知るべきことはまだ多いけど、今は関係ない。これがこの世界で最強になる第一歩だ!」
第二階層:奈落の巣
ユウは次の階層へ進んだ。螺旋階段を登ると、第二階層が開けた。第一階層とは全く異なり、広大なホールが影に覆われていた。風で摩耗した彫刻が壁に刻まれ、冷たい光がその間を通り抜けた。空気は幽霊のような嵐で唸り、上方から威圧的な存在感が漂った。
巨大な影がユウの上を通過した——
奈落の鷹、翼幅15メートルの巨大な猛禽。羽は夜の油のように輝き、氷のような青い目が獲物を捉えた。鉄のような爪が光り、叫び声がホールを突き刺した。裂ける風の音が近づき、ユウの髪をかき乱した。
【モンスター:奈落の鷹 シャヒーン】
ランク:E
【特殊能力:風刃——複数の風の刃を放ち、中程度のダメージを与える。】
「飛行型の敵? 安っぽい策略だな…」
ユウは舌打ちしながらつぶやき、鷹が突進してきた。鉄の爪が肩を裂き、血が流れ出した。痛みに耐え、体勢を立て直し、指先に黒い核を向けた。黒いエネルギーが手に広がり、鷹の青い風の刃を虚空が吸収した。
【新スキル:風刃——指先の黒い核が青い風の刃を召喚し、剣を包んで切断攻撃を行う。】
剣に融合した。
鷹が再び急降下し、風の刃がユウの顔を擦ったが、ユウは虚空牙で反撃。暗黒の牙が羽を裂き、エネルギーを吸収。ユウのHPが一部回復し、剣は風のエネルギーで覆われた。ユウの斬撃でシャヒーンは翼を失い、地面に墜落。ユウは素早く首を切り落とした。
「空から落とすのは妙に楽しいな。」
ユウは獰猛に笑った。
第三階層:陰鬱な影の庭
第三階層は黒曜石の木々がねじれた森で、枝から毒のような暗い樹脂が滴り、地面は霧に覆われていた。ユウは決意を持って進んだ。低いうなり声が空気を震わせ、足元の影が動いた。
そこから現れたのは、鞭尾のグルームキャット——豹のようなモンスターで、光沢のある黒い毛皮が夜のようだった。3本の鞭のような尾には棘が垂れ下がり、病的な黒い目がユウを捉えた。爪は石に焦げた跡を残し、尾の裂ける音が緊張を高めた。
【モンスター:鞭尾 グルームキャット】
ランク:E
【特殊能力:毒撃——3本の毒尾で連続攻撃し、持続的なHP減少を引き起こす。】
「猫? いや…毛皮をまとった悪魔だ。」
ユウは突進する爪を防ぎながら言った。モンスターが咆哮し、3本の尾でユウを攻撃。肩を掠め、ユウはかろうじて回避した。恐怖が忍び寄ったが、ユウは両手に黒い核を放ち、虚空の衣を展開——姿をぼかす暗い霧で攻撃を回避。黒い核でモンスターのスキルを奪い、毒の刺を吸収し、剣に緑の毒の輝きをまとわせた。
【新スキル:毒撃——両手の黒い核が毒の鞭を形成し、剣を包んで持続ダメージを与える。】
【新スキル:虚空衣】
猫が再び跳びかかり、爪が振り下ろされた。ユウは剣を振り回し、毒の刃で反撃。モンスターは吠え、剣が胸に突き刺さり、毒が内臓を蝕み、崩れ落ちた。
「もう一撃食らったら、俺が終わってた。」
ユウは疲れ果て、囁いた。
第四階層:血の帷子の間
第四階層は羽音が響く広大なホールだった——血の仮面の蛾が舞い降りた。巨大な蛾で、翼には笑い泣く血の顔が描かれ、赤い粉塵がホールを満たし、幻覚を誘う囁きが響いた。空気は重く、呼吸が困難だった。
【モンスター:血の仮面の蛾 レッドヴェイル】
ランク:E+
【特殊能力:幻覚粉塵——幻覚を生み、命中率と反応速度を下げる。】
「幻覚…ほんとに厄介だな。」
ユウは歯を食いしばった。母の叫び声とミサキの「オニイチャン、助けて!」という声が耳を引き裂いた。視界が歪み、偽の攻撃が彼を襲ったが、怒りが爆発した。
「幻で泣いたりしない!」
ユウは叫び、虚空牙と虚空衣を組み合わせ、指先のブラックホールを銃弾のように放ち、赤い粉塵を吸収。幻覚粉塵の力を取り込み、紅の霧を生み、敵を惑わす幻を操る力を得た。
【新スキル:幻覚粉塵——剣から紅の霧を放ち、敵を惑わす幻を生む。】
蛾が突進し、粉塵を撒き散らしたが、ユウは剣を振り、幻の刃を放った。モンスターは混乱し、翼を失い、首を一撃で切られた。
「終わりだ!」
ユウは息を切らしながら叫んだ。
第五階層:残焔の大聖堂
崩れた門の向こうには、焼け焦げた塔が天を突く大聖堂の廃墟が広がっていた。黒焦げの骨の玉座に、アーハン、残焔の狼がうずくまっていた——紫の炎で輝く巨大な狼。燃える赤い目、裂ける咆哮。牙から溶けた悪意が滴り、毛皮は魔力の爆発を放った。地面が震え、紫の炎が玉座を焼き尽くした。その周りには、暗紫色の狼の群れが主に仕えているかのようだった。リーダーは動かず、群れが次々とユウに襲いかかったが、ユウは風刃で群れを切り裂き、巣全体を殲滅。リーダーは咆哮し、まるでユウの勇気を称えるかのようだった。
【モンスター:残焔の狼 アーハン(リーダー)】
ランク:D
【特殊能力】
・残焔の嵐——紫の炎の嵐を放ち、広範囲の燃焼ダメージを与える。
・破滅の咆哮——地面を砕く音波を放ち、敵を気絶させ追加ダメージを与える。
戦闘は混沌の極みに達した。残焔の嵐が爆発し、紫の炎がユウの腕を焼いた。熱が顔を焼き、破滅の咆哮が地面を砕き、石が飛び散り混乱させた。
「お前が炎なら…俺は虚空だ!」
ユウは叫び、虚空牙を発動。巨大な暗黒の牙がアーハンの一部を喰らい、だがアーハンは諦めなかった。
「その執念…気に入ったぜ。でも俺は負けない!」
狼が牙を剥き、炎を吐いたが、ユウは剣を振り、ブラックホールで炎を吸収し、跳ね返す。モンスターが突進し、爪が切り裂いたが、ユウは両手に黒い核を広げ、剣を渦で包み、究極技「暗黒地獄」を放つ——闇と紫の炎が融合した一撃が戦場を一掃。狼は叫び、胸を貫かれ、炎と灰に変わった。
【新スキル:炎翠——敵の炎を吸収し、剣を紫の炎で包んで反撃する。】
【新スキル:暗黒地獄——闇と紫の炎を融合させ、壊滅的な最終一撃を放つ。】
戦利品が輝いた——炎の狼の牙(炎の剣)、溶けた残焔の核(魔力強化石)、紫炎のマント(防御レリック)。
「やっと…終わった。」
ユウは膝をつき、血を吐いた。
【ステータス:第三章終了】
名前:シロガネ・ユウ
レベル:3
HP:8/100(瀕死状態)
MP:不安定(黒い核が覚醒中)
力:2
耐久:2
スピード:2
知能:∞(計測不能、天才レベル)
意志:6
夜のそよ風がユウの顔を撫でた。彼は外の空気へと這い出し、岩の上に倒れ込んだ。休息をとりながら、第五階層の赤い地平のような空を見上げ、つぶやいた。
「ミサキ…父さん…母さん…必ず取り戻す。誓うよ。」
声は震えたが、悲しみの下には巨大な闇が燃えていた——神々すら飲み込む力を持つ闇。
ユウは疲労のあまり眠りに落ちた。
翌日、ユウは目覚め、空腹を感じた。第五階層で食べ物を探したが、狼の群れの死体しか見つけられなかった。彼は死体の一部を取り、炎を召喚して調理し、飢えで倒れそうな体を養った。