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第十章【プリズムナイトの屈折】

洞窟の床は惨状だった。深紅の結晶の破片が石の間に散乱し、煙がなおも空気を詰まらせる。中央には第15階層の魔物の死骸が横たわっていた。


ユウは体を引きずりながら近づき、血の筋を床に残す。


[スキル:量子治癒] を適用した。

激しい痛みは後退したが、骨折した肋骨や内臓の損傷は、彼の魔力貯蔵量では即座には修復されない。



「治癒スキルでせいぜい30分稼いだだけだ。食って死ぬか、食わずに確実に死ぬか。最悪の選択肢だ!」



彼は魔物の死骸に膝を立て、折れたナイフを突き立てる。鋼が装甲板に軋み、ようやく食い込んだ。体重をかけて切り裂きながら悪態をつく。



「まだ抵抗するつもりか。もう仕事は終わった、さっさと協力しろ!」



数分の苦痛な鋸引きを経て、ようやく外皮が裂ける。蒸気がユウの顔に噴き出す。匂いは最悪だった。



【アーキヴム:警告。生物組織内に残留魔力循環を確認。摂食リスク因子:高。摂食直後の[量子治癒]適用を強く推奨。】


「ありがたい忠告だが、無駄だ!」ユウは吐き気を堪えながら吐き捨てた。

「もう引き返せないんだ。グルメ基準なんてとっくに停止した!」



彼はさらに深く切り込み、腕ほどの肉塊をこじ開けた。深紅の肉片は彼の掌で一度蠢いた。


「動くな! 俺を塵に変えようとした時点で、お前には身悶える権利はねぇ。」




彼は肉塊を平らな石に叩きつけ、熱を漏らす溶岩の裂け目に押しつけた。魔物の脂と魔力が焼ける音が洞窟に響く。


【アーキヴム:推奨。完全に焼却せよ。継続的な加熱により、魔力不安定化と毒素リスクが67%減少。】

「『慎重な行動』ってのは、即死せずに済むって意味だろ。上等だ。」



彼は甲羅の破片を使って肉をひっくり返す。端が即座に黒焦げになり、青い膿が火の中に滴り落ちる。ユウは完璧を待たず、肉に食らいついた。


味は匂いよりもさらに酷い。彼は嘔吐をこらえ、最後に残った対抗策を発動させて、無理やり肉塊を飲み込んだ。


[スキル:量子治癒] 起動。


胃は直ちに毒素と治癒魔力の激しい衝突を感じた。ユウは顔を歪めたが、最悪の毒は無効化された。彼は勝利の笑いを漏らした。



「ハッ! お前、絶対的な敗北の味がするぜ、相棒!」彼は血を飲み込んだ。

「最悪の食事だ。だが、お前は実際に効果があった、おめでとう!」


ユウは考え込みながら肉を咀嚼した。


「俺がこれまで食った中で最も吐き気のするものが、俺の必須スーパーフードってわけか。この世界で超能力を得るってのは、こういうことなんだろうな。」


「残飯を片付ける羽目になりそうだ」

と、彼は死骸に告げた。光る肉塊をきちんと積み重ねる。



「安心しろ、お前が美味だったなんて誰にも言わない。さて、もう無駄な時間はない、次のフロアへ行くぞ。」




第16階層




ユウは次のフロアへのゲートを探し、ついにそれを見つけた。クリスタルの門は暴力的な鼓動と共に脈動し、ガラスが切り裂かれるような音とともに開いた。冷たい金属的な空気が突風のように流れ込み、鋭いオゾン臭を運んできた。


ユウは暁影ドーンラインの柄を固く握りしめた。



「よし、新しいフロア、新しい悪夢だ。このダンジョン設計者がどんな地獄を用意したか、見てやろう。」


「……また始まったか、フロア16」

彼は一歩を踏み出す。



彼のブーツの下の地面は、不安定な浮遊クリスタルの岩盤であり、混沌とした嵐雲の虚無の中に吊るされていた。無音の稲妻が黒い空を何度も走り、断片化した風景を照らした。



「最高だ」

ユウは吐く息が瞬時に曇らせながら言った。

「完全に物理法則無視だな。」


【アーキヴム:観測 — 重力異常を検出。環境ハザード:足場の不安定さ、予測不能な移動。脅威分類:高。】


「全くだ、アーキヴム」

彼は身をかがめ、近くの足場が突如として崩れ、奈落へと落ちていくのを視線で追った。

「……で、このパーティーの主役はどこだ?」


低く振動する唸りが虚空に反響する。ゆっくりと、一つの影が嵐雲の上から降下してきた。黒い黒曜石の装甲を纏った異形の姿。背中からはトゲが突き出し、浮遊する足場に着地すると、その目はアシッドグリーンに燃え上がり、周囲のクリスタル破片をガタつかせるような嘶きを上げた。


【アーキヴム:エンティティ識別 — 指定:“プリズムナイト”。ランク:A+。魔力密度:約310,000。スキル:[重力崩壊グラビティ・レンド]、[深淵の翼刃アビサル・ウィングブレード]、[腐食性ブレス(コロッシブ・ブレス)]。脅威優先度:即時交戦を推奨。】


ユウはデータを咀嚼しながら顎を引いた。

「重力ハック能力持ちの飛行野郎か……魔力30万。」

彼は乾いた笑いを漏らした。


「さすが俺の運命。」

彼の目だけがアドレナリンで輝いていた。

「上等だ。コイツが死ぬより上手く飛べるか、見てみようじゃねぇか!」



プリズムナイトはギザギザの翼を広げた。体から重い魔力の脈動が放たれ、周囲の空気そのものが内側にねじ曲がる。ユウは一歩たたらを踏んだ。胸が締め付けられ、治りかけの肋骨が見えない重圧の下で軋んだ。


「チッ……ああ、間違いない。完全に重力魔法だ」

彼は視線を鋭くした。

「最高だ。このフロアのボスは、翼の生えた空飛ぶブラックホールってわけか。」



【アーキヴム:訂正 — エンティティの能力は擬似重力場。局所的な高密度圧縮フィールドを検出。推定引っ張り強度:コア半径で42G。】

「……42Gだと?! 一歩間違えたら俺は一瞬でペーストになる! ありがとな、先生、元気が出たぜ。」


魔物の目はアシッドグリーンに閃光を放ち、ユウに最も近いクリスタル破片の一つが瞬時に崩壊し、塵になった。ユウは震える息を吸い込み、剣の構えを安定させた。


「アイツは空中だ。俺は崩れる足場の上。アイツの専門は重力。俺のも重力だ。つまり俺は、フル課金された自分のバージョンと戦っているわけだ。」


【アーキヴム:戦術分析 — 直接的な空中戦は推奨されない。対抗策の提案:重力場における慣性ラグの利用。予備案:浮遊足場を不安定化させ、破片を投射兵器として利用。】



「つまり、」

彼は簡潔に要約した。

「バカみたいに飛び跳ねるな。アイツが窒息するまで岩を投げつけろってことか。」


【アーキヴム:簡易解釈 — 正解。】


魔物は金切り声を上げ、翼を切り裂くように振り下ろした。目に見えない圧力がユウに激突し、彼を片膝につかせた。



「上等だ……重力で遊びたいってか。」


彼の声は突如として危険な激しさを帯びた。

「どっちの引力が強いか、勝負しようじゃねぇか。」


彼はフリーの手をクリスタル足場に叩きつけ、彼の闘気が荒々しく明滅した。不安定な微細なブラックホールが足元に瞬時に出現し、近くの破片を暴力的な回転に巻き込みながらむさぼり食う。



[スキル:ブラックホール — マイクロ重力]

初動展開を確認。


足場は歪み、激しく傾いた。空気はねじれ、二つの重力場の激しい衝突で火花を散らす。



【アーキヴム:警告。魔力消費率が急速に加速。コア崩壊までの推定持続時間:42秒。】


「42秒、か?」

ユウは獰猛な笑みを浮かべた。


「十分すぎる! 俺はてめぇより長持ちする必要はねぇ—あの黒曜石の翼を折るための、たった一つの隙がありゃいい!」


魔物は再び金切り声を上げ、黒曜石の羽根の嵐を放出した。それぞれの刃は落下するギロチンのように唸り、ユウに向かって切り裂いてくる。


「ここで弾幕地獄か。」


彼は手を突き出し、魔力を一点に集中させた。



[スキル:ブラックホール — オーブ重力]



彼の目の前で高密度の球体が出現し、迫りくる羽根のいくつかを暴力的に飲み込んだ。羽根は悲鳴を上げ、その軌道を激しく曲げられ、虚空へと吹き飛んだ。


【アーキヴム:迎撃効率38%。残りの投射物が依然として接近中。角度修正を強く推奨。】


「角度修正—計算してる暇はねぇ!」

ユウは横に転がり、羽根が足場に突き刺さり、破片が彼の腕に熱い筋を刻んだ。


彼は血まみれになりながらも体を押し上げた。



「重力ナイフでのキャッチボールは通用しない。新しい作戦だ—ナイフを所有者に当てる、古典的なリバウンド技術だ。」



彼は残った石の中に暁影ドーンラインを深く押し込み、その闘気を結晶の亀裂に急速に染み込ませる。


[スキル生成:量子圧縮 — ベクトル再誘導]

浮遊足場は激しく揺れ、傾いた。


足場に埋まっていた黒曜石の羽根は弾け飛び、無秩序な散弾となって魔物に向かって打ち返された。魔物は金切り声を上げ、数枚の破片がその翼膜を削り取り、血が虚空に噴出した。


【アーキヴム:分析 — 貫通を確認。エンティティの耐久性は翼膜構造で最も低い。戦術的優先度:左翼。】


「ようやく良いニュースだ。」彼は笑う。

「コイツを殺す必要はない。翼をクリップすればいい!」


魔物は急降下した。その重力場が目に見える衝撃波のように波及する。浮遊島の塊が空中でねじ曲がり、ユウに向かって崩壊した。


「ああ、最悪だ。当然のように『環境削除ボタン』を持っているわけか。」


彼は疾走し、崩壊する破片の道へとまっすぐ飛び出した。


【アーキヴム:軌道計算によると、即座に肉体が消滅する確率が高い。非致死ベクトルへの即時進路修正を推奨。】


「黙ってろ! スリングショットの仕組みは宇宙映画で見てきた!」


魔物は初めて心底驚いたように目を見開いた。ユウは回転する瓦礫の中から爆発的に飛び出し、暁影ドーンラインを高く掲げた。彼のオーラは、刃の周囲の空気が悲鳴を上げるまで圧縮された。


プリズムナイトは金切り声を上げ、骨格の翼を内側に折り畳んだ。重力が崩壊する星のように急上昇し、ユウを足場に叩きつけ、クリスタルの床に血を噴き出させた。



【アーキヴム:警告。骨格強度が限界を超過。肺破裂が切迫。生存確率:12%。】




「ああ、ありがとう—自分の胸が内側に潰れてるのに気づいてた!」




魔物の顎が大きく開き、エメラルドの光がその牙の間で渦巻いた。




【アーキヴム:スキル検出 — [特異点摂食シンギュラリティ・マウ]。対抗策:同等の反発共鳴を強制するための二重特異点の生成。】


「最高だ。お前の作戦はブラックホール相撲か。完璧だな。」


[スキル:ブラックホール — オーブ重力 ×2]


双子の虚無が轟音と共に出現し、石と光がそれにねじ曲げられた。安定性は瞬時に崩壊し、その引力は周囲の世界だけでなく、互いをも引き裂いた。


【アーキヴム:安定性14%。壊滅的なフィードバックが差し迫っています。】


「差し迫ってる、高い確率、どうでもいい—物理学ルーレットだ!」


エメラルドの顎は、ユウの双子の特異点と激突した。空間は歪み、空気はリボン状に引き裂かれ、足場はありえない重圧の下で悲鳴を上げた。



そして—大爆発。



曲がった光の衝撃波は、魔物を浮遊島の連鎖の遥か彼方へと吹き飛ばし、クリスタルの橋は蜘蛛の巣状に砕け散った。


プリズムナイトは空中で体勢を立て直し、骨格の翼を雷鳴の轟きとともに展開した。エメラルドの炎が溶けた鎖のように肋骨の周りを渦巻く。



【アーキヴム:魔力サージを検出。敵はセカンドプロトコルに移行中。スキル識別 — [深淵の風切羽アビサル・ピニオン]。効果:崩壊ベクトルを注入された翼の羽根型投射物。標準防御の300%を超える貫通力。】


羽根が点火し、引き剥がされ、隕石のように発射される。


「羽根マシンガン……公正とは程遠いな。」


[スキル:オーブ重力 — マイクロレンズ]


彼は重力を薄い弧状に圧縮し、投射物を軌道から逸らす。羽根は近くの浮遊島に激突し、エメラルドの爆発で炸裂した。


【アーキヴム:偏向効率:61%。不十分。追加の遮蔽が必要。】


「なら重ねろ—ダブルで賭ける。」


[スキル:イベントホライズン・フィールド]

薄い闇のベールが彼の周りに広がる。次の羽根の斉射が障壁に命中すると、横に曲げられ、塵に変わった。


魔物は苛立ちの叫びを上げ、急降下した。

その翼が再び折り畳まれ、骨とエメラルドの渦のドリルを形成する。



【アーキヴム:軌道ロックを確認。予測着弾時間:2.3秒。対抗策:運動ベクトルの再誘導。推奨手法:重力スリングショット。】


「スリングショット……? よし、骨を折ろうぜ。」


[スキル:オーブ重力 — ベクター反転]


重力が横にねじれ、魔物の急降下は角度を逸らされた。そのドリル形態は代わりに近くの島に激突し、クリスタルの塊を瓦礫の雲に変えた。



【アーキヴム:隙を検出。弱点露出 — 胸部クリスタルコア。打撃成功確率:41%。】

「41%? へっ、大学の物理学なら合格点だ。」


[スキル:オーブ重力 — アクリエーション・スピア]

彼は瓦礫を高密度の黒い槍に圧縮し、魔物の露出した肋骨へと発射した。

槍は光るコアに激突—亀裂が走り、エメラルドの光がスパッタリングする。



魔物は悲鳴を上げ、翼を激しく振り乱し、エメラルドの炎がさらに燃え上がった。



【アーキヴム:警告。コア不安定化を検出。敵は究極プロトコルを準備中。】


「……ああ、最高だ。これでボス戦のフェーズ2か。」



魔物の肋骨が大きく裂け、エメラルドのコアが死にゆく星のように燃え上がる。



【アーキヴム:警告。スキル [忘却崩壊オブリビオン・コラプス] 起動。効果:300m圏内の完全な重力インプロージョン。生存確率:5%未満。】


「5%? 実質的な勝利条件じゃねぇか。」


[スキル:オーブ重力 — ツイン・シンギュラリティ・チェーン]

ねじれた空間の糸で繋がれた二つのブラックホールが、魔物の胸を閉鎖した。

魔物のインプロージョンは、ユウの崩壊するチェーンと激突—コアと特異点がお互いを喰らい合う、光の嵐が吹き荒れた。


光が消えたとき、魔物の骨格は崩壊し、エメラルドの破片がガラスのように降り注いだ。



【アーキヴム:目標排除完了。コアフラグメントを吸収。スキルを獲得:[ベクターベクター・ウィング]。機能:骨格共鳴による局所的な重力飛行。】


「……新しい翼、か? 最高だ。」


ユウはニンマリと笑い、破片が体内に渦巻くのを感じた。幻のベクターの翼が背中に明滅してから消えた。



【アーキヴム:システムアップデート。】


[レベルアップ:17 → 18]

[HP +320 / MP +540 / 筋力 +42 / 敏捷 +61 / 耐久 +38]

[スキル習得:ベクター翼 — 方向性のある力操作による限定的な空中機動を付与。]

[スキル強化:オーブ重力 → 安定性が向上。壊滅的崩壊確率が11%減少。]



「飛行、か。どうやらこのダンジョンも、俺が毎フロア顔面から突っ込むのに飽きたらしいな……17階層、次はどうやって俺を殺そうとするか、見せてもらおうか。」

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