第一章【光の崩壊と復讐の種 】
東京、渋谷。
夜の喧騒はまるで生き物の鼓動だ。ネオンの光が交差点を虹色に染め、無数の人々が笑い、叫び、歩き続ける。
ビルの巨大スクリーンからはJポップのメロディが流れ、広告のアニメキャラクターがキラキラと輝く。雑踏の中、焼きそばの香りとタバコの煙が混ざり合い、街のエネルギーが空気を震わせる。
美しく、混沌としたこの都市は、まるで星々が地上に降り注いだかのようだ。
白銀ユウはそんな渋谷の中心を歩いていた。大学の参考書を抱え、眼鏡の奥の鋭い目が疲れを隠している。20歳の物理学オタク、天文学に心奪われた大学生。彼の頭の中はブラックホールや銀河の軌道でいっぱいだった。
「ふう…また徹夜だな」
とユウは呟き、軽い笑みを浮かべる。
「でも、星の謎は待ってくれねえしな。」
彼の声は雑踏に飲み込まれ、誰も気づかない。彼はただの学生、だがその知性は無限――まるで宇宙そのものを解き明かせるかのようだった。
暖かな家、愛の絆 渋谷の喧騒を抜け、ユウは静かな住宅街へたどり着く。彼の実家は小さく、古びた一軒家。木の門をくぐると、温かい光が窓から漏れ、母の料理の香りが漂う。ユウの心は一瞬で軽くなる。
「ただいま」と声をかけ、靴を脱ぐ。リビングでは、家族が彼を待っていた。 ダイニングテーブルには、母の手作りハンバーグと味噌汁が並ぶ。父は新聞を読みながら笑顔で
「遅かったな、ユウ。星の話でもしてたか?」とからかう。母はエプロンを外しながら
「ほら、冷める前に食べなさい」と優しく促す。妹の美咲、10歳の小さな天使は、ユウの横に飛びつき、目をキラキラさせて言う。
「お兄ちゃん!今日、学校で宇宙の話したら、みんなビックリしてたよ!お兄ちゃん、ほんとカッコいい!私のヒーロー!」
ユウは照れくさそうに笑い、美咲の頭を撫でる。
「ヒーローねえ?ただのオタクだろ、俺は。」
だが、心の中は温かさに満ちていた。家族の絆、この穏やかな時間が、彼の全てだった。父はユウの成績を誇らしげに語り、母は静かに微笑む。
「ユウ、あなたの頭脳は本当にすごいわ。いつか世界を変えるんだから。」
夕食後、ユウは自室に戻る。机には物理学と天文学の本が山積みだ。ブラックホールの数式、銀河の形成理論、星の死――彼の情熱が詰まったページたち。だが、母の声が階下から響く。
「ユウ!勉強もいいけど、ちゃんと寝なさいよ!」
ユウは笑い、
「はいはい、分かったよ、母さん」と返事する。彼の優しい一面が、家族への深い愛に滲み出ていた。
その夜、すべてが変わった。 突然、家が揺れた。ガラスが震え、食器が床に落ちて砕ける。
「地震!?」
父が叫び、家族をテーブル下に集める。だが、これは地震ではなかった。リビングの中心に、光が裂ける。
白い輝きが空間を切り開き、そこから現れたのは
――女神。
彼女は息を呑むほど美しかった。長い銀白色の髪が夜の星のように輝き、純白のドレスは神々の手で織られたかのよう。目には絹の目隠し、肌は透けるように白く、まるで天使の化身。彼女は空を階段のように歩み、優雅に座る。
その微笑みは、慈愛に満ちているように見えた。
――だが、どこか狡猾な影を隠していた。
「白銀の家族よ」
と、彼女の声は鈴のように響く。
「我は神々の使者。汝らに祝福を与えん。」
ユウの父は立ち上がり、警戒しながら問う。
「何だ…お前は?何の祝福だ?」
母は美咲を背に庇い、ユウは妹の手を握りしめる。女神は微笑みを深め、目隠し越しに彼らを見つめる。
「試練だよ。汝らの魂を試す、七柱の神からの聖なる試練だ。」
その瞬間、彼女の微笑みが崩れた。狡猾な笑みに変わり、部屋が凍りつく。 虐殺の幕開け 女神が指を鳴らすと、細い絹の糸が空気中に現れた。まるで光そのものが刃と化し、鋭く、冷たく、容赦なく。父が叫び、ユウと美咲を庇おうと前に出る。
「ユウ、美咲、逃げろ!」
だが、糸が一閃。父の体が二つに裂け、血が壁を染めた。母の悲鳴が響くが、彼女も次の瞬間に糸に貫かれ、倒れる。血の海が床を覆う。 ユウは凍りついた。恐怖が彼の心を締め付け、言葉が出ない。美咲が彼の腕にしがみつき、震える声で泣く。
「お兄ちゃん…怖いよ…!」
ユウは震える手で妹を抱きしめ、必死に声を絞り出す。
「大丈夫だ、美咲…俺がいる…絶対守るから…」
だが、背後で絹の糸が再び動いた。美咲の小さな体がユウの腕の中で硬直し、血が彼の服を濡らす。彼女の瞳がゆっくりと閉じ、命の光が消えた。ユウの叫びが部屋を裂く。
「美咲!いやあああ!」
復活と繰り返される死、時間が歪んだ。ユウの目の前で、家族が生き返った。父が立ち上がり、母が美咲を抱き、まるで何もなかったかのように微笑む。だが、喜びは一瞬だった。女神が笑い、再び糸が舞う。父の首が落ち、母の胸が貫かれ、美咲の小さな体が粉々に裂けた。ユウの叫びは止まらない。
「やめろ!やめてくれ!」
何度も、何度も。家族が生き返り、殺される。女神は高笑いし、手を叩く。
「素晴らしい!この絶望、この苦痛!最高の娯楽だよ!」
彼女は無数のスキルを使い、家族を何度も殺した。炎で焼き、闇で飲み込み、氷で砕き、雷で焦がす。ユウはただ見ていることしかできなかった。恐怖と無力感が彼の心を粉々に砕く。
「なぜ…なぜだ!?」
ユウは叫び、血と涙にまみれた。
「何を望むんだ!?」
女神は優雅に立ち上がり、目隠しの下で微笑む。
「我々に娯楽を、ユウ。もう一つの世界で戦い、苦しみ、輝け。もし我々を楽しませれば…家族を返してやろう。」
ユウの目が燃えた。無限の憎しみが胸に芽生える。
「お前を…神々を…七柱の神を、俺は皆殺しにする。」
彼の声は低く、震えながらも決意に満ちていた。
「俺の家族を返せ。そのために、どんな地獄でも潜り抜ける。」
女神は笑い、指を鳴らす。
「いいだろう。楽しませてくれるならな。」
光がユウを飲み込み、すべてが暗転した。
ユウが目を開けると、彼は呪われた森の中にいた。歪んだ木々が黒い粘液を滴らせ、紫の空が脈打つ。家族の血、妹の最後の微笑み、女神の嘲笑
――それらが彼の心に焼き付いていた。だが、ユウは立ち上がる。無限の知性と燃える憎しみを胸に、彼は呟く。
「お前たち神を…必ずぶち殺す。」
ここから、白銀ユウの物語が始まる。弱い体、無力な少年が、七柱の神を屠る伝説の第一歩を踏み出す。
神々が退屈するとき
――天を震わせるのは祈りではなく、ただの退屈。
第二神・オクサリス
「クシャミ一発で山が三つ消えたんだが? 参拝客どもが『ご神気だ〜!』って喜んでたぞ。鼻水だわ!」
第三神・ニクサル
「王国まるごと消したってのに、まだ祈りやがる。ご先祖様が俺の虚無で温泉でもしてると思ってんのか?」
第五神・モルガス
「『死確ダンジョン』って看板まで出したのに入ってくる。経験値にする気満々じゃん。来るな、バカ共。」
第四神・ヴォルカル
「最近は破壊した眷属がドロップ扱いだ。俺、デイリークエの対象か?」
第六神・オベロス
「文明を海溝に沈めても歌になるのはポセイドンだとよ。海の道化師め。」
第一神・ニヴリエル
「お前たちのはただの雑だ。私の処刑は芸術。家族劇、ループ、絶望――」
オクサリス
「それ昼ドラじゃね?」
ニクサル
「次回予告:父、再び死亡」
モルガス
「前回あらすじ:また異世界の犠牲者――」
ニヴリエル(天秤を掲げながら)
「黙れ、虫ケラども!」
(沈黙)
オベロス(小声で)
「……ちょっと怒った女神も悪くないな」
ヴォルカル
「お前、目隠しフェチか?」
オクサリス
「揺さぶりにくいって意味では合理的」
(全員、酔っ払いのように爆笑)
――そのとき、空間が歪み、世界の王にして第七神・アザリオンが姿を現す。
アザリオン
「猿にマッチを持たせたような連中だな。嵐も、虚無も、迷宮も、深淵も――すべては我が駒。俺があくびすれば銀河は崩れ、ケツをかけば世界は燃える。そして俺が――」
オクサリス
「言うな」
アザリオン
「――屁をこけば、黒穴が生まれる」
(沈黙 → 大爆笑)
モルガス
「屁=ブラックホールは反則だろ」
ニクサル
「宇宙年代記に書くなよ!」
――神々のどんちゃん騒ぎは続いていく。
その遥か下、呪われた森でユウは飢えに苦しんでいた。
彼の絶望など、神々にとってはただの余興でしかないことも知らずに。