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ひととま  作者: 珈琲
第三章
98/104

3-12

ガチャリと扉が開いた。


「あ。ノア、おかえり!さっきね、お母さん来たの」


振り向いたハルは、にこにこしていた。


「よかった。ユウカさん元気そう?俺も後で挨拶行こうかな。

さっきさ、食堂でエリックさんも一緒だったんだよ……。無理に呼んだっぽくてちょっと気まずかったけど」


「うん。お母さん元気だし、行ったら喜ぶね。

お父さんはまぁ……仕方ないね。後で会えるかな?」


「皆んなでゆっくり話したいし、さっさと終わらせましょーかね」

ユキは軽い外衣を留め具でパチンと留めた。


「そうだねー。……あー、やっぱりこっちの空気感の方が俺は良いなぁ。あっちはなんか重すぎて」


ノアは伸びをしたあと、国王、エリックと話した事を簡単に伝えた。

「ーーあと三十分でここ出るよ」


「みんな支度は終わったからさ。ノアも準備しちゃいなよ」

アキも白衣に袖を通し、バッグを肩に掛けた。



ーーー



アーノルド邸宅は、城や市街地から少し離れた西側にある。

第一騎士団の管轄である東エリアが近いため、出動要請がかかっていた。

城内の騎士と救護隊も続々と集まってくる。


父エリックは国王を護る護衛の一人として、呼ばれていた。


アキは慎重に魔法を展開し始めた。

白い光がノア全体を包み込んで…消えた。

「とりあえず……これで一回だけ防げるよ」


「一回かぁ……」

ノアは残念そうに眉をひそめた。


「体に密着させても怪我しないようにするの、すごく大変なんだから。一回分しか無理だよ」

アキは仕方ないでしょ。という態度だ。



邸宅の周囲には防風林が広がり、その影に魔力を最大限抑えた騎士や衛兵、救護隊が潜む。


――まずはノア一人で行く。


鉄製の大門を通り、広い庭を抜けていく。

静かな深夜に、足音が響く。


玄関前でノアは深呼吸を一つした。


ノックをすると、すぐに扉が開いた。


ギィィィィィ……


「殿下。よくぞお越しくださいました。

………主がお待ちです。どうぞこちらへ……」


執事が出迎え、薄暗い邸宅内を案内する。


一階の広間には、アーノルドが立っていた。

身なりこそ整えているが、髪は真っ白に抜け落ち、頬はこけ、眼は今にも飛び出しそうだ。


以前見た姿とは全く別人の様だった。


「殿下、御無事で……またお会いでき光栄にございます」

丁寧に一礼し、座るよう手を差し出す。


「結構だ」

ノアは手を上げて制した。


「立ち話がお好みで?」


「話を聞きに来ただけだからな。

………お前が犯人、ってことでいいか?」


アーノルドは口元を緩める。

「犯人だなんて。人聞きの悪い……。私は遥か昔より“国王”の御命に従っているだけでございます」


「その“国王”ってのは誰なんだ。ヴェルレナにいた奴も似た様なことを言っていたな」

ノアは腕を組んだ。


「……そうですねぇ……。もう引き継ぎを終えましたので、名前は覚えておりません」

ほっほっほ。と笑いながら、真っ白な顎髭を撫でる。口調は穏やかなままだった。


「へー。引き継ぎってのをすると、ボケるってわけか」

ノアは見下す様に言い捨てた。


「本当は殿下とは色々お話しをしたかったのですがね……。残された時間も少なく……」


そう言ってアーノルドはニヤリと笑った瞬間ーー

スッーとノアの目の前に移動し、手をかざした。


ドンッ!


建物が揺れ、次の瞬間には猛烈な風と氷が玄関側へ、突き抜けるように一直線に放たれた。

扉は粉砕され、飛び散った氷片は鋭い刃のようだった。


「っ……!」

アキの張った魔法がなければ即死だった。

衝撃を跳ね返しつつ、ノアは咄嗟に後方へ跳ぶ。


ノアは戸惑いながらも、笑みがこぼれる。

青白い雷の大剣を生成し構えた。


「……開戦、かな?」


アーノルドの放った魔法が、合図とでも言う様に天井から部下である暗殺部隊が次々と飛び降り、ノアを一斉に取り囲んだ。


「開戦ではなく、終演にございますよ」


アーノルドが再び手をかざす。


ノアは横薙ぎに、暗殺部隊をまとめて斬り倒してその上を飛び抜けた。


アーノルドが魔法を放ち終えた一瞬の隙に、大剣を振り下ろす。


ガキィィィィン!


結界が火花を散らし、弾かれた。

ノアはすぐ後方に跳び、距離を取る。


まぁ、そう簡単に斬らせる訳ないか……。


次の瞬間、アーノルドは部下もろとも広間一帯に巨大な魔法陣を展開した。


「殿下はなかなかすばしっこいですな。

………これならどうでしょう?」


カッ、と魔法陣が強烈な光を発っしたその瞬間。


「出るぞ!」


ユキが一直線に飛び込んできて、ノア抱える様に腰を掴んだ。


バリィィンッ!


大きな窓を蹴破り、二人は広い中庭へと転がり出る。

着地と同時にユキが結界を展開した。


直後、広間はかまいたちの様な暴風と氷片に呑まれ、建物の壁が削り飛んだ。


残った壁は、真っ赤に染まっている。



「あー助かったー……」


「バカ!部屋に留まるなっつーの!落ち着け!」

ユキはノアを下ろしながら怒鳴った。


「ごめんごめん。なんか上手く逃げれなくて…」

ノアは頭を掻いた。



アーノルドが二人に向かって、ゆっくりと歩み寄ってくる。


「お前は何度逃げれば気が済むのか?

いい加減にしろ!!

あの時、大人しく死んでおれば、今まで通り……

順風満帆に国が動いていたというのに!」


「ユキ!結界!」

ノアのかけ声と同時に、アーノルドの頭上に青白く光る魔法陣が展開される。

頭上に極太い一本の稲妻が落ち、目が眩む程に強い光が放たれた。

周囲もビリビリと空気を震わせ、いくつもの細い雷が走るのが見える。


アーノルドは外套を翻しながら、汚い笑いを浮かべている。

「やはり、人間の魔力はその程度だなぁ……」


同時にノアとユキは駆け出し、アーノルドに刃を向け飛びかかった。



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