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ひととま  作者: 珈琲
第三章
96/105

3-10

国王直筆の通行証を持って、ハルはお城まで来ていた。


関係者専用口にアキが待っていた。


「おはよー。始発だとやっぱ来るの早いね」


「はよー。まぁね。ゆっくりできるし車内ガラガラだし、一人電車旅もいいなぁって。

……あれ?今日は白衣がピシッとしてるね?

いーじゃん」

アキのいつもより、ちょっとちゃんとした格好が目に入った。


「でしょっ!今日は年に一度の城内全員の定期検診でさ。

王族もいるし、先輩の後ろを着いて回るただの雑用でもちゃんとしなきゃなんだよねー。

じゃ、もう戻んなきゃだからまた後でね!」

ニコッとしたアキは、足早に去っていった。



アキは忙しいのにわざわざ入り口で待ってたし。

あ!あのピシッとした白衣姿見せたかったのかも。

可愛いなぁ………。

なんで双子なのに弟の方に可愛いと優しいと優秀とが全部いっちゃったんだろう?

ちゃんと女の子の私には何が残ってるんだろう??

おかしいなぁー…おかしいなぁー………。



「あの……?お加減でも悪いのでしょうか?」


黙って首を傾げるハルに、守衛が声をかけた。


「あ、違うんです。すみません。ちょっと考え事を………」


ハルは気まずくなってその場を離れる事にした。



ーーー



ノアはぞろぞろと部屋に入ってくる医師たちから次々と検査され、ぐったりしていた。


「はい、これ」


ノアを横目にヒスイは机にドサドサッと分厚い本や資料を置いた。


「何これ?」


「お前が居なかった六年分の国内情勢の推移と法律改定一覧、予算方針と今後数年の課題と予測と……。

国王様が早く頭に叩き込んどけって」


「……バカじゃん?無理だろ」

ノアは目の焦点を合わせるのをやめた。


「すぐ城出れないんだから仕方ないだろ。お前今、ただのニートだし」


「……仮にも王子に対して酷い事言うね」

しぶしぶ椅子を引いて座った。


「王子は職業じゃねぇからな。

国王様的にも、籍抜かせる気無いだろうし」

さりげなく扉の前に椅子を寄せ、座る。


「あーやだやだ。か弱い十代の息子に絶対的権力振りかざすのは良く無いって言っといて」


「言える訳ねぇだろ!」


静かになった部屋は、時計の秒針と紙を捲る音だけが響く。



まぁ、ちゃんと集中すればやるんだよな。


ーーー


ーー



うとうとしているヒスイの背後。


コンコン。


扉をノックする音が響いた。


ヒスイが開けると、ハルが立っていた。


「また来たよー。ノアは??」


ヒスイは小声で話す。

「あれ」

親指で指した。


「勉強中?相変わらず集中してると強いね」

ハルも小声で返した。


「飲みもんとってくるわ」


ヒスイが部屋を出て、ハルはそーっとソファに移動した。


お城に忍び込んでるみたいでソワソワする。

“………私、メリーさん。今、貴方の後ろにいるの……“

そんな声が頭をよぎる。

いや……初手から近すぎ…。


ハルが鞄のスマホに手を伸ばした。



ガチャン


扉が開く。


ハルもノアも同時にビクッとした。


「飲みもん持ってきたからちょっと休憩な」 

ヒスイが戻ってきた。


ノアは背もたれに肘を乗せ、ようやく振り向いた。

「急に開けんなよ……。あれ?ハル来てたんだ?

声かけてくれれば良かったのに」


「あ、うん。なんか集中してたし?声はかけようと思ったとこ……」



ヒスイはテーブルにニ人分のコーヒーと焼き菓子を並べた後

「じゃあ俺、右大臣のとこ行ってくるわ」

と言って部屋を出ていった。


「毎日毎日大変だねー」

ノアはまるで他人事の様に言う。




「そっかぁ。じゃあもうローテで来なくて良いかんじなのね。

でもー電車旅もいいんだよね」


「いーなぁ……。俺も早く自由になりたい…」

背もたれによりかかり、ぐったりして言う。

「……帰りやろ?」


「いいよー。お弁当選びからスタートだからね」

ハルは鞄からチラシを取り出して渡す。


「俺もジャンクなの食べたいなー…。

……あのテーブルにはピザやハンバーガーは乗せてくんないんだよね」

顎に手を当てながら、チラシを眺めて言った。


「……デリバリー??」


「多分怒られる……」


「怒られる程の仲になれたんだね?」

ハルはニッコリ笑って聞いた。


ノアが急に手で顔を覆って黙った。

「……聞いてくれる?」


ハルの返事も待たずに抱きついた。



「よしよし」

ハルは頭を撫でる。

ノアは話し出した。



「……そっか。欲しい言葉は貰えたんだね。

モヤモヤ残ってるとしんどいもんね。私も思い出せなかった事思い出してモヤモヤ消えた時は嬉しかったもん」


「だよねー。ハルちょっと明るくなった」


「分かるー?最近気分良くて。ノアも元気になってるよ」


「でしょ」



コツン。


「ん?」

二人とも、扉の方を見た。


ノアが立ち上がって扉を開けるとーー


ノアの足元。

廊下に一通の手紙が落ちていた。


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