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ひととま  作者: 珈琲
第三章
92/104

3-6

ユキも第一騎士団へ戻り、最近導入された体術稽古に参加していた。

今日は警察隊の講師が来る日ではなく、団員たちが好き勝手に殴り合う「実戦想定日」。


武器も魔法もなし。

身体ひとつで相手に背中を着けさせれば勝ち。

それだけのシンプルなルール。


「次、班長戦やるぞー!」


「はーい」


軽く答えたユキは、間合いに入ってきたかと思えば、一瞬で相手の懐へ潜り込む。


ドンッ!

簡単に腹へ一撃。


「ぐっ……!?」


平均身長よりは背が高いとはいえ、まだ大人の魔族ほどではないが体格差など関係ない。


ユキは相手が体勢を崩した瞬間、腕を掴んで蹴り、地面に叩きつける。


「背中着いたな。ユキの勝ち!」


慣れた動作で班長二人目、三人目もバタバタと地面に沈んでいく。


「……おい、ユキがダントツなんだが」

「魔法無しでこれってどうなの……?」

「来週は警察隊呼ぼうぜ。好き勝手やらせるとダメだな」


「副団長もやります?」

ユキがタオルで汗を拭いながら聞いた。


「いや、今はやめておくよ。俺、魔法しか無理だし。

さすがにね。副団長としてのメンツがある訳で。

……団長ならいいんじゃない?」

副団長のアルバートはチラりと団長に目線を送った。


おいおい、発案者が何言ってんだよ。と思いつつも飲み込んだ。


「お、ユキやるかー?」

案外乗り気な団長リオ。

「前の団長とよくやり合ってたからな。結構いけるぜ?ボコボコにされてたけど」


「分かりま……いや、分かりませんでした」

そう言えば、まだ父親の事言ってなかった。忘れてたわ…。


「お!団長とユキじゃん!」

「団長ー!やっつけてー」

「団長頑張ってー!!」

「団長ーー!」


声援が飛ぶ。


「何お前、嫌われてんの?」

団長が真顔で聞く。


「……団長が人気なんですよ。多分」


スパーン!

すかさず団長が顔目掛けて蹴りを入れた。

「いきなりかいっ!」

腕で受け、蹴り返した。


「おお、反応速度エグいな」

団長は関心する。


それを皮切りに、軽妙かつ鋭い攻防戦が始まる。殴り、蹴り、受け、流す

息の合ったような応酬が続いた。



「どっちも尻もちすらつかないんだけど?」

「もう何分やりあってんだろ…」

周囲がざわつき始めた時。



入り口の方から、ぞろぞろと数人の人影が入ってきた。

ユキに気づくと、その中の一人が勢いよく駆け寄ってくる。


「ん?ユキ、ストップ。止まれ」

団長が気づき、手で静止した。



「ユキ!お疲れ!

ちょっと文句あるんだけど!いい?」

律儀に聞いてきたのは、第三王子のローランだった。

「ねぇ、ノエルと知り合いだったんでしょ!?なんで俺に教えてくれなかったのさ!

しかも仲良さそうだし!」


「あ…いや、まぁ…。

あまり大きな声ではちょっと…。

色々ありすぎてさすがに言えないですって」


だいぶ離れた入り口付近。

半径10m以内へ近づくどころか、ユキと目を合わせる事すら禁止されたストロフはーー

両手を後ろに組み、視線を上げたまま、彫像のように黙って立っていた。


「団長、ちょっとユキ借りるね!」

返事を待たずにユキの腕を引っ張り、連れ出した。


返事も待たずにユキの腕をつかみ、そのまま引っ張って応接間へ連れて行く。

「いや、ちょっと待ってって!!」


ローランは有無を言わさずソファへ座らせ、すでに待機していた侍女が淹れたての紅茶に氷を入れ手早くストローを挿し、テーブルに置いた。


「まさかノエルに先越されてたなんてさ。

だから俺の護衛断ったの?

ねぇ、ノエルとどう接したらいい?昔はちょっと喋る程度だったし、今は良くわかんないし!

ほとんど引き篭もってるから全然顔合わせないし!」


「護衛はそういう理由じゃないから…。城の中だとマナーも覚えないといけないし、そんな時間勿体無いと思ってるだけ。

……ノアまだ引き篭もってんの?」


「うん。一日一回、父様と顔合わせる程度かな。

妹弟とも全然みたいだよ」


ユキはグラスに入った紅茶の氷を、ストローでくるくる回しながら小さくため息をついた。

「……やる事無いんだろうな。きっと。

剣とか魔法教えてーとか言ってみるとか?」


「部屋入りにくいから手伝ってよ。来て来て!」

ニコニコ笑顔でローランが立ち上がった。


「もう…いいや…」

ユキは諦め、引きずられるようにお城へと連れて行かれた。



お城に到着した時はすでに、日が落ち始めた夕方だった。

隙間からの西陽が眩しい。


居住区に入ったたころで、ノアにばったり会った。

「なんだ。部屋から出てんじゃん」


「まぁ、暇だし風呂入ってた。

……何?心配して来てくれた?」

タオルで髪の水分をわさわさと拭き取りつつノアが聞く。


「そりゃね。みんな心配してるし?」

ユキが、後ろに立つローランを指差して言った。


「久しぶり……」

ローランが少したじろぎながら言う。


「あぁ…久しぶり……」

素っ気ない返事のノア。


「ローランが剣とか教えて欲しいんだとよ」


「ふーん。微妙…」


「微妙!?なんでっ!」


「だって、基礎も無いでしょ。前は足怪我してたし危ないよ」


「もう治ってるから!普通に走れるしっ!」


「じゃあ、基礎練したらね。

ユキ、相手してくれる?久しぶりに」



「そのつもりー」


ーー


王城騎士達の訓練場。


自主訓練を続けている騎士たちが、ちらりと視線を向ける。


「普通に剣でいい?」


ノアは備えつけの剣を手に取り、ユキの前に突き立てた。

ジャキ、と乾いた音が響く。


「やる気だねー」

ユキが剣の柄に手を添え、口角を上げた。


「ひっさびさー!テンション上がるわ〜。

お手柔らかに〜」

ノアは軽くストレッチしながら肩を回す。動きたくて仕方がない。


「ルカ、スティアも見学するの?」

ローランが二人を見る。


「もちろん。こんな機会早々無いからね」

「お兄様…髪も解かさずに結うなんて…。

でも、面白そうじゃない?」

話を聞きつけたルカもスティアも、ワクワクした顔をしていた。


少し離れた場所で、レイがこっそり覗いてい


二人共剣を軽く回し、構える。


カァンッ!


初撃から火花が散った。

ノアが振り下ろす剣を、ユキは軽い動きで受け止める。


ユキが一歩踏み込む。

ノアは後ろに跳んで間合いを取り直し、横薙ぎに振るう。


ヒュッ、ギィン!


ユキの剣が、斜めに弾き返す。

衝撃でノアの手が少し痺れる。


ノアはそのまま体を回転させ、二撃目を振り下ろす。

……速い。

ユキはかわし、すれ違いざまにノアの肩へ切っ先を向ける。

が、ノアはすでに後ろへ跳んでいた。


「反応早くなったなぁー」


「でーも、ユキには当たらないんだよなぁー」


再びガアンッと乾いた音が響き、二人とも一歩ずつ押し返される。


そして、同時に踏み込んだ。


斬撃、受け、弾き、切り返しーー

交差するたびに、周囲の騎士たちは息を飲む。


「おいおい…あれ本気じゃないのかよ」

「どっちも顔色変わってねぇじゃん……」

「あの茶髪…ノエル様だよな……?」


ユキは、ノアの勢いを利用するかのように身体を回転させ、刃と刃を滑らせて軌道を外した。


カンッ!

視界に入った時には、すでにノアの喉元すれすれにユキの剣先が止まっていた。


「はい、俺の勝ちー」


息を整え、苦笑いした。

「相変わらず容赦ねーなぁ……。

あーーでも楽しかったしスッキリしたー」

伸びをしながら満足気に言った。


「……ちょっと腹減ったかも。ユキもなんか食わん?」


「もう夜だしな。なんか貰うわ」


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