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ひととま  作者: 珈琲
第三章
90/104

3-4

その夜、部屋には三人用に豪華な夕食が運ばれてきた。


白いテーブルクロスの上には、磨き上げられた銀の食器が整然と並べられた。

籠に入ったふわふわの白いパン、彩り鮮やかなサラダ、濃厚な香りの立つパスタ、肉汁が滴るステーキが綺麗に盛り付けられていた。


銀製のフォークとナイフにも、細やかな彫りの装飾がされていた。


「うわ…すご……」

ハルは絶句した。

これは…。テーブルマナーを知らないと猛烈に恥をかくヤツ!!

あんまり音を立てちゃいけない、っていうのは聞いた事あるけど…どのくらいまでの音量ならオッケー?

飾り切りされてるの食べるの勿体無くない?それともこれは食べないやつなのかな…食べちゃダメなやつあったらどうしよう……。



「みんな食べなー。一応全部食べれるから。

それに、ただの夕食。好きなのから食えばいいよ」

ヒスイがノアのスープ皿を持ちながら、三人の方を見て声をかけた。


「はい、お前はまだスープな」


「えー…要らない」

ノアは毛布の中に潜りこんで答えた。


「ちょっとくらい胃に入れとけ。

いざって時に動けねぇだろ。ちゃんと毒味もされてっから」


「……スープが一番、いたずらされやすいんだよ」


「あー。昔、よくやられてたんだっけ?」

ユキが横から聞いた。


「うん。だいたいレイがね……嫌がらせで毒盛るとか頭おかしいじゃん」



ガタッ…と、アキが席を立った。

鞄から取り出したのは一枚の小さな紙。

スプーンにスープを少し取り、紙をつけた。


「ほら、色変わらないから毒入って無いよ。

少しは食べなよ。これ、野菜スープでしょ。

……どこかの誰かさんが用意したドロドロスープじゃないから飲み込めるでしょ」

チラリとハルの方を見て、アキは言う。


ビクッとしたハルは俯き、

「…ごめんて。アキ言ってたじゃん。病み明けは食べ物からの栄養が大事って……」


「飲み込めなきゃ意味ないだろ…」

ユキは呆れたように口を挟む。


「……はい。ごもっともです…」

ハルは俯いて返事をした。


「はいはい。分かったよー…」

そう言って、ノアは毛布から出てスープに口をつけた。



食事も終わる頃ーーアキが恐る恐る話を切り出した。


「……ちょうど皆んないるし、ハルの話…する?」


フォークを置いた瞬間、ハルが勢いよく身を乗り出した。

「それ!なんでみんな隠してたの!?」


「おー、だいたい思い出した感じなんだな」

ユキが背もたれに寄りかかり、腕を組んだ。


「まぁ、俺とノアは話としてしか聞いてねぇけどな」

ヒスイも椅子に腰掛けながら話に混ざる。


「多分さ、アキの魔力が長時間途絶えて、効力切れたんだろうね。

しかも割れたんでしょ?」

ノアがスープの器を置きながら、ぽつりと言った。


「私ね、ずっと考えてたのよ。昔は普通に魔法使えてたじゃん。

アキとニ人で魔力共有してさ、こう…見えないパイプみたいなので魔力が循環してる感じで…」

ハルは両手で小さな輪を作る。


アキが苦い顔をした。

「……あのさ。六歳のとき、お母さんと一緒に誘拐されたの覚えてる? あれ本当に悲惨だったんだよ」


「うん。ヴェルレナの牢屋入ったら一気に思い出したのよ。

“女で子供の魔族なんて要らない”ってボコボコにされてさ……死ぬかと思ったよね」


「父さん仕事でいなくて、何回連絡しても全然繋がらなくてさ。毎回留守電なの。マジあれトラウマ。

仕方ないからアキと二人で…ハルの形跡辿って乗り込んだんだよな」

ユキはテーブルに肘をつき、フォークで野菜を突っついた。


アキは俯いて続けた。

「見つけた時のハル、血塗れでぐったりしてて……お母さんが必死に回復魔法かけてて……途中で蘇生魔法に切り替えたの分かったからさ。

“あ、これ死んだかも”って思って。

僕も無我夢中で魔法使ったら……ハルの分まで全部奪っちゃって……返し方も分かんなくて……。

正直、都合良く記憶失ってたから……思い出さないように魔石使ってストップかけてて…」


その場が静まった。

ハルは腕を組み、うーんと唸る。


「いや、それなんだけど……ちょっと違うんだよねぇ」


「何が?」

アキは顔を上げてハルを見た。


「うん。あのね、二人の魔力切ったの私なのよ」


「は!?」

ノアとユキも一斉にハルの方を見た。


ハルは少し照れたように笑いながら続けた。

「お母さん、私のためにずっと魔法使っててさ……このままだとお母さんが死んじゃうって思ったのよ。

で、どうせ私死ぬなら…魔力全部アキに渡して、お母さん治してもらおーって思って……。

だからーー他の属性とか邪魔だし要らないじゃんって思って、全部切ったの」


アキは固まったまま

「…………僕、ずっと自分のせいだと思ってたんだけど……?」


「ううん。あれは私が勝手にやったの」

ハルは苦笑する。


「じゃあ、僕に光魔法しかないのはハルのせい?」


「うん。だから他の全部私が持ってんの。

お母さん助けるのに光以外要らないじゃん?」


「……ハル、昔から魔法の扱い方だけはすごいんだね」

ノアがポツリと言った。


ユキとヒスイは同時にため息をついた。

「……まぁ、ハルだしな…」


「だってさ、お母さん回復は諦めて、蘇生魔法に切り替えたんだよ?

“あ、私死ぬんだな“って分かるじゃん?」


ノアは毛布を整え抱え直しながら

「まぁね…蘇生魔法って、ほぼ禁術だし。成功率は塵以下。

術者は魔力全部持ってかれて死ぬのが普通だからね。

……だから、ハルの判断は正しかったわけで。

二人とも生きてて良かったよね」


ガッターーン…

アキが椅子から崩れ落ちた。

「あっあっ!」

ハルとユキが立ち上がって慌てている。


「……ずっと…ずっとさー。ハルが落ち込む度にどうしよーって思っててさぁー。

思い出すようなキッカケがあったら困るからノア達にも話して、戻せる目処が立ったら……ちゃんと話そうって思っていたけどさぁぁぁ」

頭を抱えながら床をゴロゴロ転がっていった。


顔を手で覆いながら転がり、壁にぶつかって止まった。


「ちゃんと……話してれば良かった…」

少し声が震えていた。


「はい、ハンカチ」

ハルがしゃがんで、アキの顔にそっと乗せた。


「ひとまず魔力はアキが持ってればいいよ。

私は色々試してみるし。

今まではさ、属性が混ざらないように気をつけてたけど、混ぜたら爆発するって分かったから…」


「そうだなぁ。昔もハルそれやって、近所の森吹っ飛ばしてたからなぁ…」

ユキが遠くを見つめながら言う。

「父さん超怒って……。

近くの湖みたいなところ、あれハルが抉ったやつな」


「……ハルが不器用なのも筋力無いのも、成長が遅いのも…体内の死んだ細胞修復にエネルギー使ってるんだと、思う…」

アキは転がった姿勢のまま、ハンカチで顔を覆って呟いた。


「じゃあ、終わったら成長期くるかな?」


「さぁ?二十歳くらいで急に来てもさ……もういろいろ手遅れじゃん?」

ユキはノアのベッドにダイブし、あくびした。


「確かに、それは困るね……」

ハルは真剣に考え込む。


「ま、考えても直ぐには変わらないでしょ。

俺的にはサイズ感より温もりと優しさだし」

ノアは目を擦りながら、別の毛布をユキの腹に乗せた。


「つっても、自分より明らかにデカいとか2m超えとか微妙じゃね?」

ユキが突っ込む。


「それは、そう…。ハルが2m超えたらちょっと…ごめ。撤回するわ…。

あーあとハル……城の敷地内では実験やめて、ね。

ヒスイは……なんか、どっか更地にして良い場所…探しとい、て……」

毛布に包まったノアの声が、だんだんと小さくなる。


「そうだな…。探しとくわ。って、寝たなコイツ」

どこか安心したように笑った。


「一応、病み上がりだからね。そりゃ疲れるよ」

アキは立ち上がり、ヒスイから毛布を受け取ると、ベッドへ上がった。

「ハルも、考えてないで寝よー」

アキはスッキリした顔で言った。


「んー、そだね」

ハルも毛布を受け取り、そっとベッドに上がる。


「はい、おやすみー。

俺、隣の部屋にいるから。なんかあったら呼んで」

そう言い、明かりを消して部屋を出た。


パタン……。

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