3-2
国王様を先頭に、ノアのいる部屋へ案内された。
先に、国王様と王妃様、続いてスティア様とルカ様が入って行く。
少し覗いてみると、ノアは広いベッドの上、ずっと窓の方を向いたまま。
「よかった。ちゃんと居るな」
「多分、寝起きであんま動けないんじゃない?」
横では兄ちゃんとアキが、コソコソと話してる。
確かに、逃げてなくてホッとしたけどさ。
国王様達が話しかけていても、ノアの声は聞こえない……。
すごく……空気が重い。
ハルは居づらくて髪をいじっていた。
ふと、ノアが国王の方へ顔を向けた。表情は見えなかった。
「ナコル、ここへ」
ハル達の後ろ、走ってきたであろうナコルが息を整えていた。
「……はい。失礼致します。こちらです」
手渡されたのは、誓約書だった。
「国としては早急に進めなければならないだろう?
そちらの友人家族含め、いま登城している第四騎士団長や他の団員も、この件に巻き込まない為に。
ノエル、″お前一人が隠していた″という形が、最も穏当だ。
不用意に狙われる様な事があれば、対応もしやすい。
今、私がしてやれる事はこのくらいだ」
ハル達はノアを見つめた。
ノアは小さく息を吸った。
「……そうだね。これは俺の責任」
静かに言い、渡されたペンを走らせた。
国王が退室する。
「……君たち、少し側にいてやってくれないか」
入れ替わる様に、ハル達は部屋に入ろうとした。
「……部屋出るんなら、早く人払いもしてくんない?」
ノアは窓の方を向いたまま、冷めた声で言った。
「…悪かった。皆、部屋を出てくれ」
侍女や騎士が居なくなった部屋は、四人を残し、そっと扉が閉まった。
ノアはハル達の方に体を向けた。
「起きて良かった!心配だったんだよー…
他のみんなも心配してるんだよね」
「機嫌最悪だなぁ。まぁ、ここじゃ仕方ないだろうけどさ。
でも逃げてなくて正解なんじゃない?」
「無事で良かったよ。バレた以上は、今はここが一番安全かもだしー」
そんな事を言いつつ、三人は当然の様にベッドに上がり込んだ。
「すごっ!ふかふかベッド!しかもデカ…」
ハルが言いかけたとき、ノアは両手を伸ばし、三人に抱きついた。
「……迷惑かけてごめ…。
こんなハズじゃなかったのにー……ゔぅーー」
ハルがノアの頭に手を乗せる。
「よしよし。みんないるからねー。もう大丈夫だよー」
「病んでも良いことないだろ。具合崩すだけだよ」
「まぁ、最悪なパターンを考えて無かったところは甘いよな。
保護したのが国王側で良かったけどさ」
エリックもベッドに腰をかけながら言った。
「はい…ごめんなさい……」
「……しばらくは我慢するしかないな。
俺からも国王には言っておくけど。今は城から出ない方がいい。
でも…久しぶりに顔見れて安心したよ」
エリックはゆっくり立ち上がり、ふと振り返った。
「……それと。アーノルドには不用意に近づくなよ。
まだ、背後関係が分からん」
そう言い残し、エリックは部屋を後にした。
ーーー
「おい、レガード!!」
アーノルドの怒鳴り声が、薄暗い書斎に荒々しく響いた。
腕を組んだまま、部屋中を落ち着きなく往復し、指先はカチカチと腕を叩いている。
魔法陣が薄っすら光り、レガードが転移してきた。
「はい。お呼びでございますか?
只今、イチハ様のお食事の準備をしていたのですが…」
「そんな事はどうでもよい!
何故あの時、ルカを殺さなかったのだ!
同時にノアも殺せただろう!魔法も、機能していたではないか!」
レガードは膝をつき、頭を下げたまま言った。
「私のやり方もございます。
この状況で、城内で王子が死んだとなりますと、警備もさらに強化されます。
国への不信感で国民が騒ぎ出すこともありましょう。それに………」
「全く。それに、なんだ。私に意見するというのか!」
「大変恐縮ではございますが……。
一度も成功しておられない方のご助言など、全くもって参考にはならないのでございます」
バンッ!
「貴様!!ここまで育てた恩を忘れたのか!!
私を侮辱するつもりか!!」
アーノルドは机を叩き立ち上がる。
レガードはスッ…と立ち上がり、アーノルドを見下すように言い放った。
「そもそも貴方が能力不足だから悪いのでしょう?尻拭いさせられている私の気持ちも考えてください。
………ラゼルは過信により、記憶の引き継ぎをしていなかった。
引き継いでさえいれば、自身を贄に魔力の弱い人間の記憶操作をしてまた一からやり直せる。
ですが……この国は、個の魔力が高いが故にそれは出来ない。
仕切り直しするには、時間が必要なのです。
今はノエル王子を見つけるだけで十分。
貴方は魔力だけは初代に次ぐ実力がある
ただ単に周りが手を出せないだけです。
とっくにバレているんですよ?」
「ぐぐぐ…黙って聞いていれば、好き勝手にベラベラ喋りおって……」
怒りで形相が変わってゆく。
「貴方はもう、引き継ぎをした私を殺せませんからね。
長い事……我慢していたんですよ。
私には、私の考えがあるのです」
「貴様……」
アーノルドはただ拳を強く握るだけで、言い返せる言葉が見つからなかった。
「もうよい。さっさと下がれ!」
アーノルドが、バンッ!!と机を叩くと、レガードの足元に魔法陣が出現し、強制的に自室へ送り返した。
「全く。早くあの老害はご引退願いたいところだな…」




