3-1
ふかふかのベッド。枕は雲みたいに柔らかく、シーツはさらさらで心地いい。
抱きしめている毛布もお日様のように温かい。
窓から差し込む日差しは、優しい。
…………。
「……あれ?」
違和感に気づいたノアは、ガバッと身を起こした。
「いっててて……」
勢いよく動いたせいで、腰に変な力が入り、思わず顔をしかめた。
「………ここ、どこ?」
きょろきょろと辺りを見回した。
あー…気を失ったからバレたのか…。
どうしよう。乗り込む事しか考えてなかったから…想定外だわ…。
一番やっちゃダメなパターンじゃない?
……てゆーか誰かに着替えさせられてるし。
マジほんと無理。俺、お年頃の男子なんですけど。
腰を抑えたまま、ノアは考えた。
どこから逃げよう?
「まぁっ……!!」
部屋の隅の椅子に控えていた侍女が、驚いて立ち上がった。
「!!」
急に聞こえた声に、ノアはビクッとした。
「お、お目覚めに……! す、すぐに隊長と国王様へお知らせしないとっ……!」
慌ててドアの方へ行き、
「し、失礼いたします! どうかそのままお待ちくださいませ!!」
と言い残し、スカートを翻して走り出した。
ばたんっ!
勢いよく扉が閉まった。
「……え、誰?」
ノアは首だけ動かし、ドアの方を見た。
――ドタドタドタ!!
突如、廊下から大人数の足音が迫ってくる。
「え、今度はなによ……?」
次の瞬間。
ばーーんっ!!
扉が勢いよく開かれた。
「ノエル様!!」
真っ先に飛び込んできた白衣の偉そうな奴が、ベッドの前でしゃがみ込んだ。
「お身体の具合は!? めまい、吐き気、痛む場所はありませんか!?」
続いて護衛の騎士たちがなだれ込み、部屋の四隅をさりげなく囲んだ。
「周囲、異常ありません!」
「魔力反応、問題ありません!」
「ちょ、ちょっと!? なに!?怖いんだけど…」
毛布を抱えたままのノアに、白衣の偉そうな奴は、仕事モードで脈を確認してくる。
「ご紹介が遅れました。
私、王城救護隊長のダンテと申します。
まだ安静が必要です……一週間程、意識が無かったのです」
「え…一週間?まじか…」
「そうですよ。酷い怪我をされておりましたから…」
よく見ると、焼けただれた両腕や、全身の傷は綺麗に治されていた。
背中も痛く無い。
騎士のひとりが深く頭を下げた。
「国王陛下へお伝えしてまいります!」
そう言うや否や、再び勢いよく扉が閉まる。
「……いや……マジで顔合わせたく無いんだけど…。
むしろ、呼ばないで欲しい……」
ーーー
一方その頃。
アキによる“いつもよりは優しめ“な、容赦ない回復魔法を受け、傷跡一つ残さず完全回復したハルとユキ。
王城へ呼び出され、謁見室で国王と対面していた。
ソファの中央には、どっしりと腰かけた父エリックがいる。
向かいには国王。
その隣に控える王妃やスティア、ルカも静かに座っていた。
………やばい、呼吸の仕方を忘れそう…。
目の前に国王様と王妃様がいるなんて、威圧感半端ないわけでして。
お姫様もルカ様も、格好が素敵すぎて直視できない…!姿勢も凄く良い。
でも今、目を押さえたら絶対怪しまれちゃう。
うぅぅ……目が…しぱしぱする…。
ハルはソファに座って悩み、固まっていた。
国王はハル達をしばし観察したあと、ゆっくりと口を開いた。
「何年ぶりだろうね…エリちゃん…」
「本当。お久しぶりですわね」
「その呼び方はやめてって前から言ってるよな?
エーちゃん…」
国王は目を逸らした。
え。待って。
お父さん達そんな仲だったの!?
横のユキとアキをチラリと見ると、やっぱり驚いた表情だったから安心した。
察した父エリックは
「ん?あぁ…お父さんな、国王様と歳近くてな。
で、国王様は一人っ子だったから友達あんまりいなくてな…」
分かりやすく教えた。
「そうなんだよ…。ちょうどエリックが副団長になった辺りかな。
城に来たところを友達になってって声をかけたんだ」
三人共、懐かしそうに出会った頃の話を子供たちに聞かせた。
「でもまさか……ほぼ同い年の子供がいたとはな……」
「隠してたからな。
……何かあったら困るから」
国王はふむ、と顎に手を当てた。
「普通はそうだよなぁ…。我が子に何かあったら……。
なぁエリちゃん。ノエルの件、詳しく聞かせてくれるかな?」
エリックは少し言葉を選びながら、六年前の出来事
ーーノアを保護した時の状況を説明した。
ハルやユキ、アキも補足するように頷きながら、聞かれることには答えていった。
「なるほど……そうか。
ノエルを、息子を保護してくれたこと、感謝するよ」
そう言って、国王と王妃は頭を下げた。
「いや、そんなことは求めてないから。頭あげてくれ。
でも本当、ノア…ノエル王子はしばらくは荒れると思うぞ?」
「そうか…そうだよなぁ。
あ。ところでエリックは戻っ……」
国王が言いかけた時、廊下を走る音が響いた。
――コンコンッ!
扉がノックされる。
「陛下!ノエル様、無事にお目覚めでございます!」
扉越しに、騎士の声が少し焦り気味に響く。
謁見室の空気が、一瞬で変わった。
「……本当か!?」
国王が身を乗り出し、立ち上がる。
隣の王妃は、顔に手を当て「良かった…」と安堵した。
スティアは目をぱちくりと瞬かせ、ルカも「本当に!?」と、喜んで立ち上がった。
ハル達も同じだった。
「うわ、良かったぁー……」
すごくホッとて、肩の力が抜けた気がする。
「ほーんと。一安心だな」
「じゃぁ、僕らは仕事に戻らなきゃね」
国王は深く息をつき、静かにいった。
「……すぐ向かう。君達も一緒に来てくれ」




