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ひととま  作者: 珈琲
第二章
86/105

2-35

バタバタと、廊下を走る音がした。

「国王様!現地より御報告がございます!」


ばぁーーん!

王の間の扉を思いっきり開けたのは、右大臣ナコルだった。


「あ、すみません。

まだ国王様は……ルカ様のお部屋でお付き添いなされております」

掃除をしていた侍女が、頭を下げながら教えた。


「あ、そうでした。つい…。すみません」

ナコルも頭を下げ、居室の方へと再び走りだした。




がっちゃーん!

「国王様!現地より御報告がございます!」

ゼェゼェと、息を切らしルカの部屋の扉を開けた。


国王、王妃、姫と三人が、「シーーーッ」

と唇に指を当てた。


「……騒がしいな。

ルカの治療が終わったばかりで、絶対安静なんだ。

……何か進捗でもあったのか?」


「誠に申し訳ございません。現地より緊急の報告がありまして…。

恐らく、ノエル様本人ではないか、と…」


「えっ!?」

「他国にいたのか!?

……だから見つからなかったのか!」


「いえ……。あの、騎士団におりました…。

しかも……今回輸送の第一陣に…」


ガタッ!

「どういう事だ!!」

勢いよく立ち上がり、椅子が倒れた。


王妃と姫が再び

「シーーッ」と、した。


「す、すまん。」

国王は慌てて椅子を直した。

「……コホン。それで?」


「はい。現地からの話しですと、ヴェルレナは国王が魔物となり、襲っていた様でございます。

その中に……ノエル様がおられた、と。

只今、魔力、髪、血液型など、諸々照合の準備を進めております」


「お兄様…。本当に生きてたのですね!

どんな方なのでしょう?

ほぼほぼ記憶にございませんので楽しみですわ」

スティアは首を傾げたまま、頬に手を当て、あまり実感が湧かない様子だった。


王妃シルヴィアは…「良かった」と一言だけ言い、泣き崩れた。


「第四騎士団に所属しておりましたので、団長を呼び出している所でございます」


「そうか…。他は?」


「まだ正確な情報は来ておりませんが…国王がいなくなった事で、国内が混乱しましょう。

それに……調べないといけない事が、多々ありそうです」


「分かった。調査班を編成して向かわせろ。

しばらくは援助も必要だろうな…」



ーーー


ヴェルレナは魔力がほとんど無いため、応急処置を施してからすぐ、アマツシアへと搬送されることとなった。


揺れる車の中、ハルとユキはアキに治療をしてもらっていた。


「…ノア、完全に隔離されちゃったね…」


「まぁ、アレでバレない方がおかしいからなぁ。

団長達もいるし、とりあえず大丈夫じゃん?」


「あとは、お城着いたときに誰が出迎えてくれるか、だよねー……。

て、兄ちゃん!体内の神経毒の量がヤバいんだけど、何で普通にしてられんの!?

ほら…マーカーが真っ黒なんだけど…」


アキは二人に見せるように、試験紙をヒラヒラとさせた。


「ん?今、立てないくらいにはしんどいよ?」


「兄ちゃん、ちょっと耐性できたとか?」


「耐性というか……まぁ、お兄ちゃんらしく頑張ってるだけですよー。

すぐやられてたら恥ずかしいじゃん……」


「じゃ、毒抜きするからちょっと我慢してねー」

そう言うと、目が眩むほどの光を放つ小さな魔法陣を、ユキの体の各所に展開した。


魔法陣からは黒い煙がもくもくと立ち昇る。


「痛っっ熱つっっ!!!」

無理矢理絞り出されるような感覚で、ユキは涙目になった。


「おー怖い怖い…。あ、そうそうアキ。後で話があるんだけど…」


そう言われたアキはビクッとした後、そっとハルの方を向いた。


「……魔石、割れたんだよね…。

落ち着いたら、ちゃんと話すね…」


あれ?そんなヤバい話なん?



ーーー



「まあ、そんな感じ。分かってるよ。兄さんも……登城準備しときなよ。


あ。………早速来客だわ。電話切るね………」

第四騎士団団長のアオトは電話を切った。



コンコン…。

会議室のドアが開く。


騎士達が入ってきた。

王城に駐在している騎士だった。

「第四騎士団、団長のアオトさんですね。

ご同行願います」


アオトは立ち上がり、壁に掛けてある外套を引っ掴むと、肩にざっと羽織った。


「来るの早いな……おっと、触んなよ」


控えていた騎士に囲まれ、部屋を後にした。


「ハイハイ、ウチの部下がすみませんねー」


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