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ひととま  作者: 珈琲
第二章
85/105

2-34

ハルの爆発に巻き込まれたラゼルは、もう虫の息だった。


「ありえない…わ……。わざと魔力を、混ぜ……暴走……させる…なんて……」


ラゼルはフラフラと、ハルの方へ歩き出す。

「ハル!逃げろ!」

ユキが叫ぶ。

「え、待って…」

ハルは服で目元を拭き、身構えるも立ち上がれない。



その時ーー床が崩れ、ラゼルは下階へと落ちて行った。


瓦礫と共に落ちた先は、魔法陣の中。


「うわっ!びっくりした!って、お前は……」

トーマスは剣を生成し、構える。


「…あんなの…無茶苦茶だわ……他を巻き込む事を…気にしない、なんて…」

トーマスの事は視界に入っていない様だった。

ブツブツと独り言を言いながら、ラゼルは立ちあがろうとした。


ラゼルが魔法陣の中にいる事で、禁忌の書と魔法陣が黒い光を放ち、ラゼルを燃やし始めた。

炎を払おうとするが、もはや腕は無かった。


「きゃあっ!ちょっと…やめてよ!

まだ、引き継ぎして無いんだから……死ぬ訳にはいかないのっ!

だからっ…待っ……」


魔法陣から出る寸前、ラゼルは黒い炎に包まれ、灰となって飛散した。

禁忌の書は、最後に彼女を餌として取り込み、静かに燃え上がり、やがて跡形もなく消えた。

それと同時に、全ての魔法が解除された。



外の結界が晴れ、数日ぶりの空。

星が輝いていた。



静まり返った王の間ではーー

ノアは大剣を支えに立ち上がり、息を整えゆっくりと歩く。


玉座には、体の半分以上失いつつもまだ息のある国王がいる。


「お互い苦労しますなぁ。

ま、お前みたいには……ならないけど。ね」

見下ろすように目を少し伏せた。

「安らかに、とは言わない。死んでも償いなよ」


ドスッ。

大剣で玉座ごと貫いた。

国王キーラは、枯れ木となりバラバラ…と崩れていった。




「なぁ……ユキ。ここに王子…いるの??」

副団長、アルバートが声をかけた。


「………」

ハルとユキとノアは黙った。


「さっき、あの女が言ってたよね?」

さらに問い詰める。


「いやー…ちょっと……」

ユキが歯切れ悪く誤魔化そうとした、その時だった。


「ぐふっ……」

ノアの背中、服から突然血が滲んだ。

口元を抑える手の隙間からも、血が滴り落ちる。

膝から崩れるように落ち、その場にうずくまった。

髪の色が徐々に、淡い空色へと変わっていく。


「ノア!!」

駆け寄りたいのに、立ち上がれない。

もう、魔力も体力も、限界だった。


ーーー


その頃、アマツシアの王城ではーー。


魔導士達による強固な結界が完成しており、城内では王族以外の魔法は一切効かない場となっていた。


離れの図書庫から、たくさんの本を抱えたルカが、城へ向かって歩いていた。

新しい護衛のクラインを筆頭に、護衛が五人。


「ルカ様。もう暗くなっております。

足元にお気をつけ下さいませ」

「うん。ありがとね。

遅くまで付き合わせちゃってごめんなさい」


「ルカ様。やはり本をお持ちしますよ…」

最後尾にいる護衛が、ルカに近づいた。



ドスッ。

鈍い音と共に、ルカが後ろから刺された。

「ゔわぁっ…」

着衣に血が広がってゆく。

倒れたそうになった所を、クラインの部下であるミレイが支える。

ルカは歯を食いしばり、痛みで泣くのを堪えていた。


クラインは即座に刺した護衛を捕らえ、怒声を上げる。

「人を呼べ!救護を呼べ!急げ!!」

お前…何をっ!!」

ルカを刺したナイフは、お香の香りを残し、灰となって崩れていった。





少し離れた、通路脇にあるベンチ。

徐々に慌ただしくなっていく声や足音が良く聞こえる。

そこに腰をかけ、小さな灯りで、ノートにペンを走らせている人物がいた。

建物の隙間から、その様子を見ながら。

「効果の程は、どうかな…?」


ザッザッザッ…。

そこへ、誰かが近づいてくる聞こえた。

「おい。レガード。何やってるんだよ。

これから夜会の練習だろ。もう行くぞ。

そもそも、側から離れるなと言ってあるだろう」

濃いグレーの礼服を纏った第四王子のイチハだった。

四人の護衛を連れていた。


「誠に申し訳ございません。

あまり公にはしたくないのですが…初めての夜会練習で緊張しておりまして。

こっそり復習をしていたところでございます」

レガードは眉を下げ、困った仕草をした。


「そんなの、俺だってそうだよ。

どうせ王子は十六になる前に、一人を残して殺されるのが通例。

だから必要最低限の教育しかしない。

急に王子らしい教育を、って言われて……俺も緊張してんだよ」


「……左様でございますね。

私も、イチハ様には長生きしていただきたいと思っております。」

レガードは静かに頷き、立ち上がる。



ーーー


結界が晴れたところで、待機していた第二騎士団の副団長たちは、城下町や城内へ入って行った。


城下町の第一陣は救護隊のテントの中で、すぐさま治療を受けた。

行方が分からない者は捜索されている。


そして、半壊している城内に入った第二騎士団副団長のケヴィンは、呆然と立ち尽くしていた。


うずくまったまま、気を失っているのは…

どう見ても第二王子だった。

こんな淡い空色の髪なんて、早々居ない。

ましてや見送った第一陣に、そんな奴はいなかった。

「いやいや、そんなまさか、ねぇ…?」

ポリポリと頭をかいた。

すぐ後ろにいる団員も、動揺を隠しきれない。



ユキとハルに言われ、ノアの元に行ったアキは頭を抱えることになった。

「あーあーぁ……。

すみません、手当てしますので、ちょっと…よろしいでしょうか?」

「あ、ああ、そうだな……」


アキはその場に座り込んで、ドーム状に魔法を展開。

ノアの体全体を包み込み、治療を始めた。


すぐに情報は伝わるだろうね。

最悪、牢屋行きかなぁ…。

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