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ひととま  作者: 珈琲
第二章
84/107

2-33

スペアの傷も治した後は、拘束魔法でガチッガチにしたカルラ。

「また操られでもしたら、たまったもんじゃないわ」


「…すみません…」

俯くスペア。


「どうなってんの?」

副団長は問いただした。


「はい…。操ると言うより、乗っ取りです。

私の意識はありますし。

炎を使う、あの女は…ラゼルと言う古代魔族の吸血種らしいのです。

初めはメイドのうちの一人だったんです。

何故か魔法が使えたので、国王は…兄は、すぐに魅了されてしまいました。

ラゼルだけを敬愛するようになって…あの様です。

我が子すらも取り込んだアレは、もう兄では無いと分かっているんですけれど……」


「で、逃げ切ったのが、牢屋の第三王子と、君の娘だけって事か」


スペアは頷いた。

「二人を守るには、言う事を聞くしかありませんでした」

「……胸糞悪い話だな。まったく」


「あの、下にある祭壇の…あの禁忌の書は人喰いです。魔法陣に入ったら…食べられて、魔法が発動するのです…。

私は…沢山の人を犠牲にしてしまいました…」



ゴゴゴゴゴゴゴ……。

地鳴りが起こった。

天井からはパラパラと、石屑が降り落ちる。


「上へ急ごう…」

カルラにイザベルを任せ、階段を駆け上がる。

そして、赤い光が差し込む扉を開けた。



そこは、大広間一面が炎で燃え上がっていた。

熱気で呼吸が苦しい。

炎で視界が揺れる。

目を凝らせば、入り口付近に結界が張られていた。


「誰かいるな……」

アルバートの足元から、ピキピキ…と氷が蛇のように走り、結界を囲う炎を消した。

副団長のリンデンと、ライラ、ノアの姿が見えた。


「あーぁ。やっぱりオートじゃダメねぇ…

使えない女。

……せっかくアレ燻製にして、お土産にしようと思ったのになぁー。

でも、魔族が五人。ねぇ…」

ラゼルが目を細める。


クリスも副団長に続き、手のひらに創った魔法陣から、吹雪の如く舞い散る氷が、周囲を消化するも、再び炎が燃え上がる。


一目で分かった。

玉座の前に立っているのが、ラゼルだ、と。

炎のような揺らめく魔力を、見せびらかし…いや、惜し気もなく…。

でも、体の一部が焦げてる。

雷のピリつく感覚が残っているから、さっきの揺れはノアの雷だったんだ、すごいなぁ…と。

ハルは思う。


クリスは圧倒され、足がすくむ。

「魔力が……。無理じゃん…何これ…」

その瞬間、頭を目掛けて槍の様な炎が飛んできた。

「あっっ……!!」

避けきれない……。


パァーーン……ゴトッ。

石の盾が、足元に落ちた。

反応できたのはユキだけだった。

「た、助かっ…た…よ……」

クリスはその場にへたり込んでしまった。

「いいえー。こっちも助けてもらってますんで」

意識が戻ったとはいえ、ユキの顔色は悪い。


「このままじゃ、なぁ…」

アルバートはラゼルの足元、目が眩むほどに強い光を放ち、氷塊の中に閉じ込める。


ガッギッッ。

すかさず剣で、氷ごと斬った。

「炎なら、氷だろう…」


「あら、そう思う?」


!!

振り向いた瞬間には、アルバートは爆風に吹き飛ばされていた。

「ぐ…あっっ…」


ラゼルは足の氷を払いながら語る。

「だからさぁ、魔力が足らないんだってばー。

対極ならいけるって思った?バッカじゃないの?

人間に感化されてのーんびり千年も平和に過ごしてる魔族が、知識豊富な超純粋魔族に勝てる訳ないじゃーん。

まぁでも、頑張ったんじゃない?」

口元でピースサインをするラゼルには少し、ドレスに血が滲む程度でしかなった。


ドンッ。

アルバートの足元、唸るような火柱が天井近くまで燃え上がった。

膝をついたまま、咄嗟に氷で身を守る。

「ムカつく…」

右腕を伸ばし、青い魔法陣が輝く。

周辺の空気を凍てつかせ、ラゼルを内部から凍らせてゆく。


ユキは、ノアの準備に気がついて魔法を放つ。

龍を模した岩が咆哮と共に空気を震わせながらラゼルへと襲いかかった。

すぐに団長トーマスが天井付近まで飛びあがり、風を纏った剣を一振り。

振り抜かれた瞬間、空気が裂け、無数の刃が放たれる。

最後、ノアの前には青白い魔法陣が瞬き、ライラの結界を突き破り、太い雷が雷鳴と共にラゼル目掛けて一直線に放たれた。


辺りには、煙が立ち昇る。


ーーカッッ

炎がドーム状に爆発した。

床も壁も炎に包まれ、熱気で視界が揺れる。

壁際まで吹き飛ばされ、天井が崩れ落ちてくる。


「なんなのよ…あんたら。餌の癖に。

国王様の御命令を、私達が何百年と時間をかけて遂行してきたモノを…全部壊して…。

ふざけんなよ…」


ドレスは真っ赤に染まり、今にも千切れ落ちそうな腕をぶら下げ、ラゼルは立っていた。


炎の中で、ハルとユキを睨みつけながら叫ぶ。


「それに、黒髪なんて本来は国王様の側近よ。

誰もが憧れる、王国一の魔導士だったのよ!

それが…!!こんなに弱い!?

王子も護れないなんてありえないわ!

プライドは無いの!?」

ラゼルは錯乱したかの様に、魔法を次々と発動させてゆく。


ハルは頭を打ちつけ、目の前が暗くなってゆく。

ああぁ…また何も出来ずに終わっちゃう…。

魔石も割れて光らない。

私、何もしてないなぁ…。

ん?

ーー幼い時の自分が見えた。

走馬灯ってやつ?

アキとめっちゃ楽しそうに魔法使ってんじゃん。


……あれ?アキが火も水も使ってる…?これ、夢?

でも、一緒にいっぱい実験したねぇ。懐かしいな。


こう、ね。

赤、青、黄色って同じ大きさの魔法陣創ってー。

粘土みたいにこねこねしたら、何になるんだろうねーって…。


ハルは目を閉じたまま、思い出す様に三色に光る魔法陣を掌で合わせ始めた。


「あっ!やばい!!」

様子に気づいたユキが、咄嗟に石の壁を創り、仲間を覆った。


次の瞬間、ハルの手のひらから茶色く濁った閃光が走る。

周辺の空気を吸い込むように大爆発を起こした。


城全体を揺らし、天井と壁は跡形もなく消滅した。


「えっぐ…」

ノアがボソリと呟いた。



ーーー


ラゼルの魔法で吹き飛ばされながらも、団長トーマスは立ち上がった。

無理矢理足を動かし、壁を伝って一つ下の階、禁忌の書がある大ホールへと降りて行った。


「これか…」

魔法陣の中は危ない。

風を操り、禁忌の書を手元に寄せる。


パラパラとめくれば、見たことのない文字の羅列で内容はわからなかった。

「こんな本は…あってはいけない…」

本を閉じ、切り裂いて魔法陣の中へ捨てた。


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