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ひととま  作者: 珈琲
第二章
82/105

2-31

森から抜け出せないまま、逸れた人を探す副団長リンデン達。


「やっぱ一旦は、城の近く通らないと街へは出られないか…。

さすがに体力的にもそろそろヤバいしな……行ってみるか。

ローズも隊長とはいえ、一人で何日も結界を張り続けるのは限界があるからな…」


「俺らで偵察ですね。

あ、キイチゴ食べます?美味しいですよ。はい。」

ノアはもぐもぐと食べながら、副団長に手渡した。

家に居た時は、これでよくジャムを作ってたなぁ。と、懐かしくなった。



「おい、今!!あれ、第二のアルバート達だ!城の側にいるぞ!」

班長ライラの声で集まる。


目を凝らして見れば、城門の近くに複数人の人影がある。

「……本当だ……。あれ?姿が消えた。どこか抜け道か…?

まぁどうせ此処に居るだけでも勝手に魔力減ってるみたいだし、動けるうちに俺らも行くか!」


「俺はいつでも大丈夫です」

「俺もだ」




城門はもう目の前。大きな扉は閉じては居るものの、先日逃げた時の穴があちらこちらに空いていてボロボロになっている。


「どこから入るかな…。こんな状況初めてだからなぁ…」

副団長は腕を組み、唸る。

「何百年か昔、争いがあった際に敵国に乗り込んだ騎士団もあったみたいですけど…詳しい資料は残って無いんですよね」

本は好きだからよく読んでた。

まぁ、城に居た時は現実逃避の一部だったけど。




その時だった。

ボロボロの城門が、軋む音を立てながら開き始めた。



ギギ…ギギギ……。



「これは…もうバレてるってことだろうな」

「正面か…。よし、第四騎士団!腹括って行くぞ!」


石造りの階段を駆け上がり、城門をくぐった。


剣を構えてはいるものの、顔色が悪く、痩せ細った兵士達がお出迎えだった。


「さすがにこれは……操られているのか…?」

雷の大剣を生成し構えたものの、直視し難い哀れな姿。

どこに目線を向けているのかさえ、よくわからない。


「物資渡したのに……届いてねぇなぁ!邪魔だ!」

副団長は剣に炎を纏わせ一振り。

よろけて倒れた兵士は、再び立ち上がってはこなかった。


王の間へ繋がる廊下に出ると、正面から口を開けたディオネアが、兵士を構う事なく襲いかかってくる。


ノアは飛び上がり、大剣で両断した。

「何体倒したと思ってんだよ。ワンパターンすぎるだろ」


きちんと剣を振るってくる兵士も紛れ込んでいるので、油断は禁物。

壁役になっている兵士達の頭上を飛び越え、ディオネアを斬って進んだ。



だだっ広い、装飾品も無い王の間に着くと、玉座には魔物、国王がいた。

いや、樹冠の無い木…かもしれない。

体は苔に覆われたように、緑色に変色している。

玉座に座ってると言うより、長い年月をかけて玉座を取り込んだ木の様だった。



「まだアルバート達は来てないのか。何してんだよ…。

ウチの国と交流あるみたいだけどさ…構ってらんないんだ」

副団長は国王を目掛けて斬りかかった。


「人間の成れの果てってかんじだな…」

班長もノアも武器を構え、副団長の後に続く。

「さすがにね。これは…もう国王としての体を成していないじゃないか…」


目の前に居る国王に、副団長の剣が届きそうな距離まできたところだった。


ーーカッッ!


突如、国王の背後から燃える様な真っ赤な魔法陣が出現し、爆発するように炎が吹き荒れた。


壁際まで吹き飛ばされ、部屋一面に炎が広がった。


国王の背後から、誰かが立ち上がる。

「あらら。ちょっと悪い義妹をお仕置きしてただけなのに……。

キーラってば。勝手に食べようとして。

そんなにお腹が空いていたの?困った王様ねぇ…」


燃える様な強い魔力を隠しもせず、艶のある紫色をした髪を揺らしながら、コツ…コツ…と、ゆっくりと歩いてきた。


「痛ってぇ…誰だ、アイツ……」


「ふーん。人間二人と魔族が一人…こんなので来たの?………ねぇ、舐めてんの?」

指先を向けた途端、槍の形をした炎が副団長を貫いた。

「ぅぐっ…」

ライラは飛びつき、副団長の炎を慌てて消した。

二人を護るように、ノアは正面で大剣を構える。


「火が二人。完全に私の下位互換じゃない。

人選ミスね。

そっちは雷…でも、人間。魔力が足らないわ」


「やってみるしかないじゃん…」

ノアは、パリパリ…と自身を中心として渦を巻く様に魔法陣を描いてゆく。

魔族の女も国王も囲える広範囲に。


ノアは駆け、雷の大剣を叩きつけるように斬りつけた。

ガキッッ…ーン……。

炎の魔法陣を盾にされ、刃は届かず吹き飛ばされた。


喰らいつく様に、魔法を発動させる。

魔法陣からは、天井に向かって無数の青白い雷撃が、うねるように走る。


「へぇーー。案外やるわね。でもその雷…覚えがあるわ…。

確かね、初代の…アマツも青白い雷を使っていたのよ。

お前、もしかして…」

体の半分近くを焦げ付かせた女は、顎に指を当て、ニヤ…と不気味な笑みを溢した。

「面白いもん見つけちゃったぁ。プレゼントしてあげよっかなー」


「はぁ…はぁ…。ははっ…全っ然平気そうじゃん…」

全力なんだけどな…。笑えるわ…。


突如、ノアの目の前に真っ赤に燃え盛る魔法陣が現れ、炎が吹き出す。

「あ、やば…」

避けきれず、咄嗟に両腕で防ごうとするも、この至近距離からでは意味もない。


「ノア!!」

ライラが服を引っ張り、結界に引き込んだ。

「わっっ!」

ドサッ。

両腕が、燃える様に熱い。

あともう少しでも、魔力が多ければ…。

「くそっ…」


「さぁて、どうしましょうね?

お前は魔族だから…本能でわかるでしょう?

絶対に私に勝てないことくらい」

ニヤニヤと楽しそうに歩いてくる。


「そうだな…。俺も、二人みたいに飛びかかれるくらいになりたいもんだよ…。

でもまぁ、俺で倒せなくても……、お前はこの結界壊せないだろ?攻撃特化過ぎて雑だ。解除出来るほどの繊細さが足らない」


「うっさいわね!!そこの木も使って燻製にでもしてあげるわ!」

王の間はさらに炎が轟々と燃え広がった。


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