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ひととま  作者: 珈琲
第二章
80/104

2-29

カルラが目を閉じ両手を握り合わせると、水色に輝く光が部屋全体に飛び散った。

床に落ちた光は波紋の様に広がり、魔法陣を形成してゆく。

その魔法は捕えられた人たち、汚れた壁や床を一度に浄化していった。


「やっぱ直接見ると凄いねー。騎士団にも補助系の人員欲しいなー」

副団長のアルバートは関心しつつも、班長のクリスと共に鉄格子の金具をパキパキ…と凍らせる。



ハルは頭に霧がかかった様にぼんやりしながら、カルラの魔法を見つめた。

綺麗な魔法は、見てるだけで心が癒される。

牢屋の息苦しさが薄れてゆく。

「魔法、綺麗ですね…。心のモヤモヤが晴れそうです」

「そうね。こんな状況、傷だけ治してもね。

この部屋のみんな治すのよ。

ハル、でしたっけ?貴女もだいぶ悪そうね」

そう言いながら、カルラは魔法を使い続ける。


「ですね。牢屋に良い思い出無いんです…。

あんまり覚えてないんですけど、昔、誘拐されて牢屋に居たなぁ…って」

ハルは天井を見上げて言った。


「まぁ、牢屋に良い思い出ある人居ないと思うけど………なかなかハードな幼少期だったのね…」

イザベルは少し首を横に振った。



「うう…。助かった…のか…?」

「もう、ダメかと思ったの…」

「よかった…」

「…助けてくれたの?」


上質な服の人も、シンプルな服の人も、だんだんと意識を取り戻していく。

喜び抱き合う人もいれば、啜り泣く人もいた。



話を聞けば、貴族達は一家総出で登城を命じられ、そのまま牢屋に詰め込まれたらしい。

仕事に来ていた人も、住民も。


「一年程前から、国王の様子がおかしいとは思っていたのです。分厚い本を大事に抱え、挙動不審と言いますか…」

「穏やでお優しい御兄妹でしたが…頻繁に言い合いになっておりました」



「あのスペアって人、お姫様だったの?そんな雰囲気じゃ……兄ちゃん攫えるくらいには強そうだったよ!?」

お姫様はみんなお淑やかだと思ってた。



「何よそれ!兄妹揃って国壊してるって訳!?信じらんないわ!」

イザベルも手当てをしながら憤慨している。


「でも、母は…ずっと辛そうでした…」


「「お母様?」」

ハル達、五人の声が揃った。


「はい。スペアは…キリは、私の母でございます。父はこの国の親衛隊長をしておりました…。

恐らく、今はもう…」

そのまま、令嬢は俯いてしまった。



コツ…コツ……カッカッカッカッ…


遠くから、誰かが走ってくる音が聞こえた。


ガシャン!

息を切らし、両手で鉄格子を掴む。

「……はぁ…はぁ……。これは…どう言う事!?」

地下階から上がってきたスペアだった。


「お母様っ!!」

令嬢が駆け寄る。目からは涙が溢れた。

「キキ!!!貴女、本当に無事なのね!良かった……」

「うん。あの人たちが、助けてくれたの…」

キキは後ろを振り返る。


「…貴方がたは……アマツシアの…」


「再会中悪いけど、これ外すのでちょっと避けてもらえます?」

副団長はそう言い、凍らせた鉄格子の金具部分を踵で蹴って破壊した。


剣を抜き、スペアに剣先を向けた。

「さっき連れてった奴、どこ?」

静かに問いかけた。


ハルは立ち上がり、凍った鎌を抱きしめ近づいた。

「どこへ連れてったんですか!…教えて下さい」


「今、そちらの方が治療をして下さっているのは、国王キーラの息子、第三王子のラクアです。

…息はありますか?」



「当たり前でしょう。今は息がある人を治療しているのですよ」

カルラは背を向けたまま答えた。


「……分かりました。先程の人は……二人共、二階下にある部屋に繋いであります。

助けても、ここから出れるかは分かりませんが…」


「「え?二人?!」」

またまたハル達の声は重なった。


「じゃあね。キキ。私はそろそろ戻らないと…」

「お母様!!」

「頑張って…逃げてね。いい子にね」

そう言ってキキの頭を撫で、スペアは背を向けて歩いて行った。


副団長は剣を鞘に収めた。

「ここに結界を。この人数はすぐに脱出は難しいからな。地下に行くぞ」


「罠かもしれないですよ?」

クリスが聞く。


「他に情報が無いからな。しかも二人らしいじゃないか。全く世話の焼ける話だ…」


「団長とか副団長とかだったらどうします?」

ハルも聞いた。


「そりゃぁ。ぶん殴るね」

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