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カルラが目を閉じ両手を握り合わせると、水色に輝く光が部屋全体に飛び散った。
床に落ちた光は波紋の様に広がり、魔法陣を形成してゆく。
その魔法は捕えられた人たち、汚れた壁や床を一度に浄化していった。
「やっぱ直接見ると凄いねー。騎士団にも補助系の人員欲しいなー」
副団長のアルバートは関心しつつも、班長のクリスと共に鉄格子の金具をパキパキ…と凍らせる。
ハルは頭に霧がかかった様にぼんやりしながら、カルラの魔法を見つめた。
綺麗な魔法は、見てるだけで心が癒される。
牢屋の息苦しさが薄れてゆく。
「魔法、綺麗ですね…。心のモヤモヤが晴れそうです」
「そうね。こんな状況、傷だけ治してもね。
この部屋のみんな治すのよ。
ハル、でしたっけ?貴女もだいぶ悪そうね」
そう言いながら、カルラは魔法を使い続ける。
「ですね。牢屋に良い思い出無いんです…。
あんまり覚えてないんですけど、昔、誘拐されて牢屋に居たなぁ…って」
ハルは天井を見上げて言った。
「まぁ、牢屋に良い思い出ある人居ないと思うけど………なかなかハードな幼少期だったのね…」
イザベルは少し首を横に振った。
「うう…。助かった…のか…?」
「もう、ダメかと思ったの…」
「よかった…」
「…助けてくれたの?」
上質な服の人も、シンプルな服の人も、だんだんと意識を取り戻していく。
喜び抱き合う人もいれば、啜り泣く人もいた。
話を聞けば、貴族達は一家総出で登城を命じられ、そのまま牢屋に詰め込まれたらしい。
仕事に来ていた人も、住民も。
「一年程前から、国王の様子がおかしいとは思っていたのです。分厚い本を大事に抱え、挙動不審と言いますか…」
「穏やでお優しい御兄妹でしたが…頻繁に言い合いになっておりました」
「あのスペアって人、お姫様だったの?そんな雰囲気じゃ……兄ちゃん攫えるくらいには強そうだったよ!?」
お姫様はみんなお淑やかだと思ってた。
「何よそれ!兄妹揃って国壊してるって訳!?信じらんないわ!」
イザベルも手当てをしながら憤慨している。
「でも、母は…ずっと辛そうでした…」
「「お母様?」」
ハル達、五人の声が揃った。
「はい。スペアは…キリは、私の母でございます。父はこの国の親衛隊長をしておりました…。
恐らく、今はもう…」
そのまま、令嬢は俯いてしまった。
コツ…コツ……カッカッカッカッ…
遠くから、誰かが走ってくる音が聞こえた。
ガシャン!
息を切らし、両手で鉄格子を掴む。
「……はぁ…はぁ……。これは…どう言う事!?」
地下階から上がってきたスペアだった。
「お母様っ!!」
令嬢が駆け寄る。目からは涙が溢れた。
「キキ!!!貴女、本当に無事なのね!良かった……」
「うん。あの人たちが、助けてくれたの…」
キキは後ろを振り返る。
「…貴方がたは……アマツシアの…」
「再会中悪いけど、これ外すのでちょっと避けてもらえます?」
副団長はそう言い、凍らせた鉄格子の金具部分を踵で蹴って破壊した。
剣を抜き、スペアに剣先を向けた。
「さっき連れてった奴、どこ?」
静かに問いかけた。
ハルは立ち上がり、凍った鎌を抱きしめ近づいた。
「どこへ連れてったんですか!…教えて下さい」
「今、そちらの方が治療をして下さっているのは、国王キーラの息子、第三王子のラクアです。
…息はありますか?」
「当たり前でしょう。今は息がある人を治療しているのですよ」
カルラは背を向けたまま答えた。
「……分かりました。先程の人は……二人共、二階下にある部屋に繋いであります。
助けても、ここから出れるかは分かりませんが…」
「「え?二人?!」」
またまたハル達の声は重なった。
「じゃあね。キキ。私はそろそろ戻らないと…」
「お母様!!」
「頑張って…逃げてね。いい子にね」
そう言ってキキの頭を撫で、スペアは背を向けて歩いて行った。
副団長は剣を鞘に収めた。
「ここに結界を。この人数はすぐに脱出は難しいからな。地下に行くぞ」
「罠かもしれないですよ?」
クリスが聞く。
「他に情報が無いからな。しかも二人らしいじゃないか。全く世話の焼ける話だ…」
「団長とか副団長とかだったらどうします?」
ハルも聞いた。
「そりゃぁ。ぶん殴るね」




