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ひととま  作者: 珈琲
8/10

7

東の大陸、最古の大国である『アマツシア』には伝統行事がある。

“王子”は7歳になると城を離れ、最小限の従者と共に東西南北にある王族専用施設(神殿)で勉学・武術・魔法・生活の基礎を叩き込まれるのだ。


半年前、第四王子のイチハも7歳となり、学ぶためノエルのいる北の神殿へやってきていた。



イチハ王子は第一王子レイの弟。虫も殺せぬような優しい顔立ちをしており、魔力量に恵まれ、魔法の才も高く、将来を嘱望されている。



兄からノエルの愚痴をよく聞かされていたため、なんとなく苦手意識を持っていた。

従者は常に肯定してくれ、レイ王子やイチハ王子を褒め称え、愚痴にも同調する。そんな環境ゆえ、ノエルに良い印象を持てるはずもなかった。


ふ、とイチハは従者に愚痴をこぼす。


「一度くらい、ちょっと怖い目に遭えばいいのに。そうしたら、あのすまし顔も変わるんじゃないかなぁ」

「左様でございますね」

「あーあ。今日は顔を合わせちゃったから気分悪いな。あいつの顔なんて見たくないのに」

「左様でございますね。ご兄弟は同じ神殿には通えません。レイ様が王となられれば、如何様にもできます。今しばらくお待ちくださいませ」

「早くそうなれー!!」


足をパタパタさせながら、笑って豪華な夕食を口に運ぶ。



三日後の夜。


「ノエル王子が乗った馬車が帰り道で襲われ、馬車ごと崖下に転落した」


そんな知らせが入った。


イチハはゾッとした。

「……俺、今日の訓練サボってて良かった……直感が働いた感じ? 俺ってすごいな!」

「左様でございますね。ノエル王子よりも感覚が鋭いのかもしれません。命は大切でございますゆえ、ご無事で何よりでございます」





馬車を襲ったのは、俺たち下っ端の“影”だ。

黒い刀を携え、暗い森に潜んでいた。


俺たちは20〜50番台の孤児。上からの命令は絶対だ。末端の50番台ともなれば、理由など聞けるはずもなく、返答は「イエス」のみ。


与えられた命令はただひとつ。

──山を降りてくる一台の馬車を、崖から落とすこと。


しかし、相手が強すぎた。落とすのに一時間近くかかってしまった。きっと叱られるだろう。噂通り、ヒスイは異様に頑丈で、ノエルも王子とは思えぬ戦いぶり。上品さの欠片もなく、まだ十一歳だというのに青白い雷を自在に操り、しかも急所ばかり正確に狙ってくる。ヒスイの剣を避けながら。


同じ人間のはずなのに……。



王子も大変だな。ノエル様は他の王子よりずっと優秀なのに、それでも“死ななきゃならない”。お気の毒なことだ。



ちょうど良いタイミングで、女が爆風で馬車をひっくり返し、崖下へと落ちていった。



──この高さなら助かるまい。ヒスイは風を使えたはずだが……まあ、どちらでもいい。



……あれ?黒刀が一本、無い。




ボロボロになりながら隊長の元へ戻ったのに、

「よくやってくれた」そう言われた直後、オレの後ろの女と男の首が即座に飛んだ。



──俺も殺されるのか? じゃあ黒刀を無くしたことは黙っておこう。



……ざまぁみやがれ。



その日、命令を遂行した暗殺部隊の隊員三名は、人知れず処分された。



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