2-26
その後は魔物が出れば駆けつけ、少しずつ救助し集まって来てはいる。
が、第二の団長トーマスや第四の副団長リンデン達は見かけていない。
「二人いましたよー」
今回ハルが救助してきた人は、輸送班の人。
ホッとしたのか、周りを気にする事もなく泣き出している。
「ハルは偉いよね。まだ初心者騎士なのに。皆んな助けて周ってさぁ。
私、何もしてなくて守って貰ってるだけじゃん。騎士団員なのにさぁ。
警察隊で調子に乗ってたんだなぁって……はぁ……」
レモが膝を抱えながらしょんぼりと言った。
「動ける人が動けばいいんだよー。私も一人だったらとっくに挫けてるかもーだし」
ハルは笑ってレモの隣に座った。
「そうねぇ。同じ場所に兄弟いたら確かに安心するかも。しかも班長やるくらいでしょ。
いいなぁー守ってくれる人いるとかー」
「でもさぁー。兄ちゃん強いからつい頼りまくっちゃうんだよねぇ。だから誘われたのが第四の団長さんで良かったよ。向上心が育たなくなっちゃうもん」
皆んなで休憩がてら、ちょっとの食事タイム。
それ、は突然やってきた。
す……
はっ!として後ろを振り向こうとした時。
気づいたその時には、もう遅かった。
ユキの首元に長い爪が食い込み、血が滲む。
「ぅぐ………」
背筋が冷たい。声が出ないし足も動かない。
「え…」
「ユキが気付けないって……」
「いつ……」
周囲がどよめき、緊張が走る。
皆が一斉に下がった。
「お前は……城にいた、スペアか。凄い量の魔力だな…」
アルバートが剣を抜く。
スペアは真っ赤なオーラに包まれ、背後の景色が歪んでいた。
「覚えてくれているのね。嬉しいわねぇ。
この子貰っていくわ。こんな場所で黒髪の魔族なんて超ラッキーだしぃ」
ニコニコとご機嫌に話すスペア。
「え。ちょっ……兄ちゃ……嘘でしょ?」
ハルは動揺して立ち上がれなかった。
「あらぁ、そっちにも?でも、魔力全然無いのね?
まぁこれで十分ですけど」
品定めをするように、親指に顎を乗せて言う。
「人質とかなら変わるよ。俺の部下だからそいつ離してくんない?」
アルバートが構えながら言った。
「別に人質じゃないわ。それに質が段違いだから貴方は要らない。
その剣、下ろした方がいいんじゃない?」
チッ……
アルバートが舌打ちして剣を下ろした瞬間、目の前に大きな魔法陣が現れ、大量の炎が放たれた。
アルバートは咄嗟に氷の防壁で防ぐ。
「そんなもん言われなくても。お前ら本当に何なの!?」
ニッコリと微笑みながらスペアは言った。
「私はただの吸血種よ。魔族では珍しいでしょ?今はほとんど居ないもんねぇ。
こうやってね、血をいただくのよぅ」
口を大きく開けると、大きな二本の牙がギラついた。
ユキの肩をズブ…ズブ……とゆっくり噛む。
「いっっっ!!」
待って!どんだけ深く噛むの!?
と、思った途端、視界から色が消え、目が回って真っ暗になっていった。
ユキが、だらん……と力無く頭を垂れ、抱き込まれた。
肩から下へ、みるみると服に血が染みてゆく。
「死んだら返してあげるから大丈夫よ。お肉は不味いしね」
そう言い残し、足元の魔法陣から姿を消した。
「やばい。兄ちゃん捕まったのに動けなかった!!助けに行かなきゃ!!」
と、言いつつもハルは足が震えてなかなか立ち上がれないでいた。
「ハルはダメだよ!そんな魔力じゃ足手纏いになって死ぬだけだよ!死にに行く様なもんよ!
アイツ、魔力すごかったじゃない!見えなかったの!?」
レモが必死に止めた。
「………うん。見えなかったよ。私の魔力ミジンコすぎるから。だから全然怖く無いし。兄ちゃんが攫われたの。次は私が助けないと……」
ちっちゃい時のことはほとんど覚えてない。でも、助けてくれたのは、ぼんやり覚えてる。
ていうかいつも助けて貰ってる!
ハルは立ち上がり、アルバートの元へ。
「副団長さん。兄ちゃん助けに行きます。行ってきます」
ハルがそう告げ、背を向けて歩き出した。
「おいおい、一人で行くなよ。カルラ、準備して行くぞ。あとそこの魔族二人。準備しろ。あとは捜索と待機でいい。結界もっと強くしとけ」
アルバートは言った。
呼ばれたのはイザベルと第一騎士団一班の班長、クリス。
「このままやられっぱなしは御免だな。待つのはやめ。城へ向かうぞ」
アルバートの目が鋭く光る。
「任務は単純だ。ユキの奪還と国王、スペア共々討伐する。以上!」




