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ひととま  作者: 珈琲
第二章
77/105

2-26

その後は魔物が出れば駆けつけ、少しずつ救助し集まって来てはいる。

が、第二の団長トーマスや第四の副団長リンデン達は見かけていない。



「二人いましたよー」

今回ハルが救助してきた人は、輸送班の人。

ホッとしたのか、周りを気にする事もなく泣き出している。



「ハルは偉いよね。まだ初心者騎士なのに。皆んな助けて周ってさぁ。

私、何もしてなくて守って貰ってるだけじゃん。騎士団員なのにさぁ。

警察隊で調子に乗ってたんだなぁって……はぁ……」

レモが膝を抱えながらしょんぼりと言った。


「動ける人が動けばいいんだよー。私も一人だったらとっくに挫けてるかもーだし」

ハルは笑ってレモの隣に座った。


「そうねぇ。同じ場所に兄弟いたら確かに安心するかも。しかも班長やるくらいでしょ。

いいなぁー守ってくれる人いるとかー」


「でもさぁー。兄ちゃん強いからつい頼りまくっちゃうんだよねぇ。だから誘われたのが第四の団長さんで良かったよ。向上心が育たなくなっちゃうもん」


皆んなで休憩がてら、ちょっとの食事タイム。





それ、は突然やってきた。



す……


はっ!として後ろを振り向こうとした時。

気づいたその時には、もう遅かった。


ユキの首元に長い爪が食い込み、血が滲む。

「ぅぐ………」

背筋が冷たい。声が出ないし足も動かない。



「え…」

「ユキが気付けないって……」

「いつ……」

周囲がどよめき、緊張が走る。

皆が一斉に下がった。


「お前は……城にいた、スペアか。凄い量の魔力だな…」

アルバートが剣を抜く。


スペアは真っ赤なオーラに包まれ、背後の景色が歪んでいた。

「覚えてくれているのね。嬉しいわねぇ。

この子貰っていくわ。こんな場所で黒髪の魔族なんて超ラッキーだしぃ」

ニコニコとご機嫌に話すスペア。


「え。ちょっ……兄ちゃ……嘘でしょ?」

ハルは動揺して立ち上がれなかった。



「あらぁ、そっちにも?でも、魔力全然無いのね?

まぁこれで十分ですけど」

品定めをするように、親指に顎を乗せて言う。



「人質とかなら変わるよ。俺の部下だからそいつ離してくんない?」

アルバートが構えながら言った。


「別に人質じゃないわ。それに質が段違いだから貴方は要らない。

その剣、下ろした方がいいんじゃない?」


チッ……

アルバートが舌打ちして剣を下ろした瞬間、目の前に大きな魔法陣が現れ、大量の炎が放たれた。


アルバートは咄嗟に氷の防壁で防ぐ。

「そんなもん言われなくても。お前ら本当に何なの!?」


ニッコリと微笑みながらスペアは言った。

「私はただの吸血種よ。魔族では珍しいでしょ?今はほとんど居ないもんねぇ。

こうやってね、血をいただくのよぅ」


口を大きく開けると、大きな二本の牙がギラついた。

ユキの肩をズブ…ズブ……とゆっくり噛む。

「いっっっ!!」

待って!どんだけ深く噛むの!?

と、思った途端、視界から色が消え、目が回って真っ暗になっていった。


ユキが、だらん……と力無く頭を垂れ、抱き込まれた。

肩から下へ、みるみると服に血が染みてゆく。


「死んだら返してあげるから大丈夫よ。お肉は不味いしね」


そう言い残し、足元の魔法陣から姿を消した。



「やばい。兄ちゃん捕まったのに動けなかった!!助けに行かなきゃ!!」

と、言いつつもハルは足が震えてなかなか立ち上がれないでいた。


「ハルはダメだよ!そんな魔力じゃ足手纏いになって死ぬだけだよ!死にに行く様なもんよ!

アイツ、魔力すごかったじゃない!見えなかったの!?」

レモが必死に止めた。


「………うん。見えなかったよ。私の魔力ミジンコすぎるから。だから全然怖く無いし。兄ちゃんが攫われたの。次は私が助けないと……」

ちっちゃい時のことはほとんど覚えてない。でも、助けてくれたのは、ぼんやり覚えてる。

ていうかいつも助けて貰ってる!

ハルは立ち上がり、アルバートの元へ。



「副団長さん。兄ちゃん助けに行きます。行ってきます」

ハルがそう告げ、背を向けて歩き出した。

「おいおい、一人で行くなよ。カルラ、準備して行くぞ。あとそこの魔族二人。準備しろ。あとは捜索と待機でいい。結界もっと強くしとけ」

アルバートは言った。


呼ばれたのはイザベルと第一騎士団一班の班長、クリス。


「このままやられっぱなしは御免だな。待つのはやめ。城へ向かうぞ」

アルバートの目が鋭く光る。


「任務は単純だ。ユキの奪還と国王、スペア共々討伐する。以上!」

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