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「なんだあれ?根っこ?」
屋根の上からユキが呟く。
「巻かれたら潰されるか地面に引き摺り込まれるのかな……?どっちも嫌な死に方しかしないな」
副団長のアルバートが言った。
「あ、あっちに人いますよー!」
「このままじゃ、雨で風邪引いちゃいます」
二人は途中で見つけた第一騎士団の四人を引き連れていた。
「ちょっと休憩させてもらおうか」
アルバートとユキは、地面から這い出てくる根を斬り刻みながら向かった。
建物まで着くと、救護隊、輸送班、第二、第四の騎士たち十五人ほどいた。
「あ、兄ちゃーーん!」
ハルが手をふっている。
「よかったー。ハル無事か。なんか酷い事になったなぁ」
「ねー……。今はもう、街から出れないっぽいし。魔物に乗っ取られちゃったのかなぁ?
あ、兄ちゃん達もちょっと休ませてもらうといいよ!回復薬もあるし!」
「だろうなぁー。王様は明らかに魔物だったよね。あれはさすがにしんどいわ…」
「いま、私達救護隊で結界を張ってます。少しでも休んで下さい。他の騎士達もいますから」
救護隊第二、副隊長のカルラが言った。
「お言葉に甘えさせてもらいますね」
ニコッと笑い、アルバートは座って壁に寄り掛かった。
「こりゃ持久戦だな。ユキもちゃんと休んでおきなよ」
「はーい。あーーーー疲れた」
ユキも座ってそっと目を閉じた。
こんな所で寝れる訳は無いけれど。
地面も結界が張られていて、地べたより全然良い。
「ハル、一緒に見張りやるわよ。レモはまだ寝てるから。
あの子、もう戦闘は無理そうね」
イザベル先輩に促される。
「はーい。兄ちゃんでも疲れるんだもん。そりゃみんなヘトヘトになりますよねぇ…」
「兄だからって変人扱いしちゃ可哀想よ」
「そこまで言ってないですっ!変人じゃないし優しい人ですぅー」
ーーー
バチバチバチッ……バァン!
ディオネアの葉に、至近距離でノアが魔法を放ち地面に着地した。
左腕には手首から肘にかけて、大きな切り傷ができた。
「ノア、大丈夫か?腕見せろ」
ライラ班長が駆け寄って声をかけた。
喰われそうになったリンデン副団長を助けたとき、葉周りに並ぶ鋭利な棘に腕を切ってしまったのだ。
「大丈夫ですけど、超痛い…」
「まじごめん!城抜けてから更に調子悪くてさ……。魔法使いすぎたみたいだ」
「仕方ないですよ。ここにいる限り、使った分の魔力が戻ることは無さそうです。節約していかないと」
班長は布で、ノアの傷をギュギュッと止血しながら言った。
「痛てて…。放置して帰る訳にもいかないですし。国王なのかもしんないけど、もうアレはダメですねー」
ノアは静かに言った。
「そうだよなぁー。結構近いからな。あとはどうやって王の所へ行くか、だよなぁ……。
第二の団長達と合流できたらいいんだけどさ」
副団長は、ディオネアとその根が絡みついた城を見つめた。
風も雨も止み、湿った重い空気が漂っている薄暗い森の中。
ズル……ズル…ズル……
血まみれの根っこが、地面を這う様に後退してゆくのが見えた。
ザシュッ。
副団長が斬る。
そこには握りつぶされ原型の無い団員。
誰か分からないけれど、隙間から腕章が見えたので第四騎士団の誰かだろう。
「はぁ……。もう最悪だな。点呼取りたくないわ。まずはこの森抜けよう。木の根が全部魔物に見えてきたわ」
力なく言った。
「あーー……。それになんか俺……死体見るの慣れてきちゃいました」
ノアが麻痺ってきた。
「分かりたくないけどな」
二人は乾いた笑いで頷いた。
「あ、輸送班の人達ですね。さっきの騎士は輸送班守ってたんでしょうね…」
班長が指差した先には、怯えて縮こまっている輸送班の五人と、救護隊第二の隊長ローズがいた。
「よかった!!リンデン副団長!
すっかりこの森から出られなくなってしまって…護衛の騎士の方もさっき…」
ローズは俯きながら結界を張り直している。
「貴方程の魔導士がいるのに、何故騎士が?」
副団長が聞く。
「……病人や怪我人を助ける事が救護隊の役目。ここでは魔法の使いすぎは命取りだわ。
騎士の役目は国、国民を護る事。今回の任務に救護隊、輸送班の護衛があるわ。だから、護ってもらっただけよ」
ローズは淡々と役目の説明をした。
「まぁ、なー。間違っちゃいないんだけどさー…。
……回復くらいはしてやってくれよ。救護隊の仕事だろ」
副団長は頭をガシガシ掻きながら、結界の中に入った。




