2-23
アマツシアから西側に位置する人間だけの国、ヴェルレナ。
支援物資や団員達を乗せた車は、ニ十時間ほどかけて到着した。
辺りはもう日が落ちており、さっきまで土砂降りだったせいもあって、さらに暗い。
関所から、案内人により城門前の開けた広場まで誘導された。
「なんか…すごい体が重いんだけど……」
「変な感覚で気持ち悪いな…」
「話には聞いていたけど…」
車から降りた団員達は、口々に言い始めた。
「魔力が少ない土地って、こんなにも重く感じるんだね。ヤバくない?ユキ平気?」
「いや…なんか寒気するんだけど…。ほんとに魔力少ないってだけ?これ…ノア何か知らんの?」
ユキは両腕を摩りながら震えている。
「いやぁ、俺も来たの初めてだからなぁー…」
「ねぇ、二人とも大丈夫??顔色悪いよー。
……アキの魔石もね、光ってないんだよねー…」
ハルは魔石を両手で覆い、隙間から覗き込みながら言った。
「ハルは魔力少ないから大丈夫的なやつ?」
ユキが聞く。
「うん、多分そうなんだと思うー」
城下町にも関わらず、店は閉まっていて閑散としていた。
「特に暴動も無さそうだし、朝には救護隊と入れ替わりで休憩とろうか」
と、団長のトーマス。
「そうですね。こんな環境な上、皆、寝不足ですから」
副団長のアルバートも頷いた。
「ありがとうございます!」
「こちらへ置いて下さい!」
「この長雨で田畑は流され、保管庫はカビだらけ…ご支援、ありがとうございます!」
とても礼儀正しく元気な声は、ヴェルレナの物資係たち。
アマツシアの輸送班も、魔力が多く無い為そんなに辛くは無さそう。
積荷を受け渡してゆく。
「まぁこの状況じゃ、全然足りないだろうな。第二、第三と運ぶのか……」
積荷を降ろしながらライラ班長は言う。
「だろうなぁ。しばらくは続くかもな。
つーかこれ、かなりしんどいな。
……さっさと終わらせて帰りてぇ」
副団長のリンデンも積荷を降ろして渡してゆく。
夜が明け、日が昇るころには積荷を運び終わる。
そこへ、煌びやかなドレスを纏った女性が歩いてきた。
「私は王妃の使い、スペアと申します。この度は、遠路遥々起こしいただき、また貴重なお時間と物資を賜りまして感謝致します」
スペアはニコッと笑い、
「国王様がお呼びです。是非、こちらへー…」
と、続けた。
スペアを先頭に王の間へ案内され、全員が入城したところで扉が閉ざされた。
城内は静まり返っており、長雨のせいか湿気っている。
百人くらいなら、余裕で入れる大広間。
玉座に国王が座っていた。
頭から爪先まで、シルクのベールを被っていて顔が見えない。
スペアは黙って跪いた。
「国王、キーラ様が大変喜んでおりますわ。……たくさんある、と……」
誰かがそう言うと、突如国王のベールの隙間から騎士達に向かい、勢いよく“何か“がうねりながら襲いかかってきた。
赤黒い茎の先端には肉厚な二枚の葉。その周りには鋭く長い棘。
口のように開いて………
騎士を掴むと瞬時に閉じ、軋む音とともに圧力が身体を押し潰す。
「メキメキメキ……」と響き、血の匂いが広がった。
声を上げる、抵抗する間もなかった。
「は??」
「え??」
皆、一瞬何が起きたかわからなかった。
また一人、二人……と、捕えられ、閉じられてゆく。
コトン…。
スペアの目の前に、ワイングラスが突如現れた。
立ち上がり、滴る血をそのグラスに注いでいく。
そして、国王と背中合わせにして座る女性へと手渡しに行った。
ワイングラスを受け取ると、軽く回して香りを確かめる。
口元に運び、一口含むと、舌全体に広がる香りと血の温度を味わった。
「これは、いまいちだわ」
と、床にワイングラスごと放り投げた。
「急げ!逃げろ!!逃げろ!!」
団長も副団長も剣を抜き、叫んだ。
「そんなに急がなくても大丈夫ですわ。痛いのは一瞬ですもの。
ディオネアと言って、虫がとても好きな珍しい植物なのよ?でも、ここではあんまり見かけないけどね」
スペアは静かに言った。
「俺らは虫かよ!」
副団長のリンデンが語気を強め、剣に炎を纏わせ構えた。
「植物なら燃やしてやるよ」
シュパッ。
茎は太いが、そこまで硬く無い。
「他が逃げ終わるまで減らすぞ」
副団長アルバートが言いながら、氷の魔法を展開してゆく。
「捕まるなよ!」
団長トーマスは風の剣を作り出し、剃刀の様な斬撃を飛ばして斬り刻む。
ハルも逃げずに鎌を構えた。が、
「ハルも逃げて。早く!」
「逃げ道頼む!!」
ノアもユキもそう言い捨て、ディオネア目掛けて駆けて行った。
「え、あ……。わ、わかりました。絶対!絶対逃げてくださいねっっ!」
ガキッガッキン。
ハルはみんなが少しでも逃げやすいように…鎌で壁の穴を広げながら逃げた。
足手纏いにはなりたくない!
城門へ向かって走っていると、ヴェルレナの兵士に捕まっている輸送班の人もいた。
「早く逃げて!」
バチッ…
痺れる程度の小さな雷魔法を兵士に当て、引き剥がして逃す。
団員は皆、輸送班員や救護隊員を護りながら、息を切らして広場まで逃げた。
「挟んでから閉じるまでが早すぎる。捕まったら救出は無理だ!」
団長のトーマスが言う。
「そろそろ俺らも行くぞ!」
全員が王の間から脱出したのを確認し、副団長アルバートの一声で穴の空いた壁から脱出。
壁をものともせず破壊し、背後から追いかけてくるディオネアの群れ。
先に逃げたはずの騎士が兵に抱きつかれ、退路を塞がれていた。
ザシュザシュッ。
ユキが兵士を斬り飛ばし解放する。
「気にせず逃げろっ!」




