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ひととま  作者: 珈琲
第二章
74/104

2-23

アマツシアから西側に位置する人間だけの国、ヴェルレナ。


支援物資や団員達を乗せた車は、ニ十時間ほどかけて到着した。

辺りはもう日が落ちており、さっきまで土砂降りだったせいもあって、さらに暗い。


関所から、案内人により城門前の開けた広場まで誘導された。


「なんか…すごい体が重いんだけど……」

「変な感覚で気持ち悪いな…」

「話には聞いていたけど…」

車から降りた団員達は、口々に言い始めた。


「魔力が少ない土地って、こんなにも重く感じるんだね。ヤバくない?ユキ平気?」


「いや…なんか寒気するんだけど…。ほんとに魔力少ないってだけ?これ…ノア何か知らんの?」

ユキは両腕を摩りながら震えている。


「いやぁ、俺も来たの初めてだからなぁー…」


「ねぇ、二人とも大丈夫??顔色悪いよー。

……アキの魔石もね、光ってないんだよねー…」

ハルは魔石を両手で覆い、隙間から覗き込みながら言った。


「ハルは魔力少ないから大丈夫的なやつ?」

ユキが聞く。


「うん、多分そうなんだと思うー」



城下町にも関わらず、店は閉まっていて閑散としていた。


「特に暴動も無さそうだし、朝には救護隊と入れ替わりで休憩とろうか」

と、団長のトーマス。


「そうですね。こんな環境な上、皆、寝不足ですから」

副団長のアルバートも頷いた。



「ありがとうございます!」

「こちらへ置いて下さい!」


「この長雨で田畑は流され、保管庫はカビだらけ…ご支援、ありがとうございます!」


とても礼儀正しく元気な声は、ヴェルレナの物資係たち。


アマツシアの輸送班も、魔力が多く無い為そんなに辛くは無さそう。

積荷を受け渡してゆく。


「まぁこの状況じゃ、全然足りないだろうな。第二、第三と運ぶのか……」

積荷を降ろしながらライラ班長は言う。


「だろうなぁ。しばらくは続くかもな。

つーかこれ、かなりしんどいな。

……さっさと終わらせて帰りてぇ」

副団長のリンデンも積荷を降ろして渡してゆく。



夜が明け、日が昇るころには積荷を運び終わる。

そこへ、煌びやかなドレスを纏った女性が歩いてきた。


「私は王妃の使い、スペアと申します。この度は、遠路遥々起こしいただき、また貴重なお時間と物資を賜りまして感謝致します」

スペアはニコッと笑い、

「国王様がお呼びです。是非、こちらへー…」

と、続けた。


スペアを先頭に王の間へ案内され、全員が入城したところで扉が閉ざされた。


城内は静まり返っており、長雨のせいか湿気っている。

百人くらいなら、余裕で入れる大広間。


玉座に国王が座っていた。

頭から爪先まで、シルクのベールを被っていて顔が見えない。


スペアは黙って跪いた。


「国王、キーラ様が大変喜んでおりますわ。……たくさんある、と……」

誰かがそう言うと、突如国王のベールの隙間から騎士達に向かい、勢いよく“何か“がうねりながら襲いかかってきた。


赤黒い茎の先端には肉厚な二枚の葉。その周りには鋭く長い棘。

口のように開いて………

騎士を掴むと瞬時に閉じ、軋む音とともに圧力が身体を押し潰す。

「メキメキメキ……」と響き、血の匂いが広がった。


声を上げる、抵抗する間もなかった。



「は??」

「え??」


皆、一瞬何が起きたかわからなかった。


また一人、二人……と、捕えられ、閉じられてゆく。


コトン…。

スペアの目の前に、ワイングラスが突如現れた。

立ち上がり、滴る血をそのグラスに注いでいく。

そして、国王と背中合わせにして座る女性へと手渡しに行った。

ワイングラスを受け取ると、軽く回して香りを確かめる。

口元に運び、一口含むと、舌全体に広がる香りと血の温度を味わった。

「これは、いまいちだわ」

と、床にワイングラスごと放り投げた。



「急げ!逃げろ!!逃げろ!!」

団長も副団長も剣を抜き、叫んだ。



「そんなに急がなくても大丈夫ですわ。痛いのは一瞬ですもの。

ディオネアと言って、虫がとても好きな珍しい植物なのよ?でも、ここではあんまり見かけないけどね」

スペアは静かに言った。


「俺らは虫かよ!」

副団長のリンデンが語気を強め、剣に炎を纏わせ構えた。

「植物なら燃やしてやるよ」


シュパッ。

茎は太いが、そこまで硬く無い。

「他が逃げ終わるまで減らすぞ」

副団長アルバートが言いながら、氷の魔法を展開してゆく。

「捕まるなよ!」

団長トーマスは風の剣を作り出し、剃刀の様な斬撃を飛ばして斬り刻む。


ハルも逃げずに鎌を構えた。が、

「ハルも逃げて。早く!」

「逃げ道頼む!!」

ノアもユキもそう言い捨て、ディオネア目掛けて駆けて行った。


「え、あ……。わ、わかりました。絶対!絶対逃げてくださいねっっ!」


ガキッガッキン。


ハルはみんなが少しでも逃げやすいように…鎌で壁の穴を広げながら逃げた。


足手纏いにはなりたくない!


城門へ向かって走っていると、ヴェルレナの兵士に捕まっている輸送班の人もいた。


「早く逃げて!」

バチッ…

痺れる程度の小さな雷魔法を兵士に当て、引き剥がして逃す。


団員は皆、輸送班員や救護隊員を護りながら、息を切らして広場まで逃げた。


「挟んでから閉じるまでが早すぎる。捕まったら救出は無理だ!」

団長のトーマスが言う。

「そろそろ俺らも行くぞ!」

全員が王の間から脱出したのを確認し、副団長アルバートの一声で穴の空いた壁から脱出。


壁をものともせず破壊し、背後から追いかけてくるディオネアの群れ。


先に逃げたはずの騎士が兵に抱きつかれ、退路を塞がれていた。


ザシュザシュッ。

ユキが兵士を斬り飛ばし解放する。

「気にせず逃げろっ!」

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