2-22
最後だけ一言訂正しました。
ザクッ。ザクッ。
「あ、逃げた」
「触んなよー」
ここ南エリアのカロリーナに到着して、早三日。
第二騎士団団長のトーマスの指示の下、騎士達はスライム狩りをしている。
「班長。この業務に期日ってありますか?」
ノアが班長のライラに話しかけるも、返事がない。
スライムの魔石。
それは親指の爪程度しか無い、丸っこくて小さな魔石。
「透き通ってて綺麗なんだけどねぇ…」
ハルは魔石に、陽の光を当てながら呟く。
「終わる未来が全く見えないよなぁ……」
ユキが布袋に、魔石を回収してゆく。
丸一日、スライムを倒しても布袋は満杯にはならず、一斑の余剰分を入れても、結界用の半分にも満たなかった。
南のカロリーナの街や、観光で有名なサロリナにも魔物は溢れているものの。
ほぼほぼスライムしかいない。
赤い核のスライムは焼け爛れ、青い核のスライムは皮膚が溶ける。
うっかり素手で触れると、実はとても危険。
「ねぇ、兄ちゃん見てみてー!スライム凍らせると中が空洞になるよっ!」
振ってみせると、魔石がカラカラいってる。
「へー。すごー」
ユキも受け取ってカラカラさせている。
ザク…ザク…
「兄ちゃんもだいぶ虚無ってるね」
ハルはスライム氷を量産している。
「まぁね。種類豊富な飯処に気持ちいい温泉、弱っちい魔物。第二がダレるのよく分かるわ…。
俺、長期滞在だと頭おかしくなる」
「だねー。私今、温泉の事しか頭にないかも。
……あ、兄ちゃん、なんか後ろ…」
ハルが指差した先。二騎の早馬が、カロリーナの街を猛スピードで駆け抜けて行った。
「何かあったのかな…?」
振り向いたユキは、二騎を目で追っていた。
「おーーい、ちょっとユキ。こっち来て」
少ししたら、副団長のアルバートが呼びに来た。
あーあ。兄ちゃんが連れて行かれてしまった。
何かあったんだろうなぁ…。
スライムじゃ心が満たされない……。
後でコーヒー買お。
ハルはスライムの核を目掛けて、鎌を振り下ろす。
ブチッ……パキパキパキ……ピキッ。
「あ。氷割れちゃった」
周りがざわつき始めてから夕方には、全員カロリーナ郊外の開けた場所に集められた。
「見た人もいると思うが、どこかの早馬だ。何か指示がありそうだから……。今夜はここで野宿だ。
すぐ動けるようにしとけよ。飯は各自適当にな」
第一と第四の副団長二人が指示している。
遠くには、ぼんやりと明かりの灯った関所が見える。
ーーー
「陛下、恐れ入ります。
隣国、ヴェルレナからの使者が陛下への拝謁を願っております」
会議室の分厚い扉の向こう、伝令が声を張り上げた。
国王は現在、食糧安定対策会議の真っ最中だった。
「分かった。すぐに行く」
静かに国王は席を立つと、
左大臣アーノルド、右大臣ナコルも続いた。
室内の空気が一瞬、ピリッと張りつめた。
玉座に座る国王エイラエルに向かい、ヴェルレナの兵士が弱々しく口を開いた。
「陛下……恐れ入ります。現在ヴェルレナでは、連日の豪雨により…農作物が壊滅的な被害を受けております……。保管庫内の食料も……湿気で…。
どうか、食糧の緊急援助を……お力添えいただきたく………」
少し考えた後、国王が口を開く。
「……そうか。直ちに手配させよう」
こっちもあんまり余裕ないから会議してたんだけど。
とは言えない。
左大臣アーノルドは言った。
「ちょうど今、第一騎士団と第四騎士団の一部がカロリーナにおります。治安が悪化している可能性もありますゆえ、騎士は多くてもよろしいかと。輸送隊や救護隊も護らなければなりませぬ……」
右大臣ナコルも、眉間に皺を寄せつつ頷いた。
「国王様。騎士団を使う事には異議はございません。ただ。アーノルド左大臣。ヴェルレナは魔物がほぼいない地域ですよ。
いくら援助とはいえ、他国の領地にこれほどの人員を送れば……侵攻と誤解されかねません。
第一の十五名と第四、第二の一部、救護隊、輸送班を加えれば十分かと」
「ナコル右大臣。誤解が生じれば、解けばよいじゃないか。動ける人員は多い方が良かろう。我が国の騎士は優秀だ。何かしら役に立つと思わんのかね。
騎士を増やしておるのですから、百や二百、動いたところで何の支障もありますまい」
顎髭を触りながら笑っている。
「……そうだな。第二騎士団団長のトーマスに出動を命じろ。多くて百だな」
国王はそう言い、会議へ戻った。
使者の報告に基づき、城内は準備で慌ただしくなった。
街の明かりも消えた深夜。
「皆、起きろー。これよりヴェルレナへ緊急支援に行くぞ。もうじき物資を積んだ車が到着する。同行するぞー」
第二騎士団団長のトーマスが拡声器を使い、寝ていた皆んなを叩き起こした。
副団長のリンデンがノアの元へ行き、こっそり聞く。
「お前さ、国外出て平気か?今回残る方が不自然だけどさ」
「まぁ…大丈夫じゃないですかね?先代国王の妹で嫁いでる人いますけど、顔知らないですし」
「そっか…。まぁ、あんまり危ない事は避けてくれよ。因みに、ヴェルレナってどんな所か知ってる?」
「んー……。昔、この国から出た『人間だけの国』ってくらいですね。関係は修復済みですが…外はまぁ、あんまり詳しくは知りませんね」
そして、朝日が昇る少し前、第一騎士団十五名、第二騎士団二十名、第四騎士団二十五名、救護隊二十五名、輸送班二十名が揃い、ヴェルレナへの緊急援助に出発する事になった。




