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ひととま  作者: 珈琲
第二章
73/105

2-22

最後だけ一言訂正しました。

ザクッ。ザクッ。

「あ、逃げた」

「触んなよー」


ここ南エリアのカロリーナに到着して、早三日。


第二騎士団団長のトーマスの指示の下、騎士達はスライム狩りをしている。



「班長。この業務に期日ってありますか?」

ノアが班長のライラに話しかけるも、返事がない。



スライムの魔石。

それは親指の爪程度しか無い、丸っこくて小さな魔石。



「透き通ってて綺麗なんだけどねぇ…」

ハルは魔石に、陽の光を当てながら呟く。


「終わる未来が全く見えないよなぁ……」

ユキが布袋に、魔石を回収してゆく。



丸一日、スライムを倒しても布袋は満杯にはならず、一斑の余剰分を入れても、結界用の半分にも満たなかった。


南のカロリーナの街や、観光で有名なサロリナにも魔物は溢れているものの。

ほぼほぼスライムしかいない。



赤い核のスライムは焼け爛れ、青い核のスライムは皮膚が溶ける。

うっかり素手で触れると、実はとても危険。



「ねぇ、兄ちゃん見てみてー!スライム凍らせると中が空洞になるよっ!」

振ってみせると、魔石がカラカラいってる。


「へー。すごー」

ユキも受け取ってカラカラさせている。


ザク…ザク…

「兄ちゃんもだいぶ虚無ってるね」

ハルはスライム氷を量産している。


「まぁね。種類豊富な飯処に気持ちいい温泉、弱っちい魔物。第二がダレるのよく分かるわ…。

俺、長期滞在だと頭おかしくなる」


「だねー。私今、温泉の事しか頭にないかも。

……あ、兄ちゃん、なんか後ろ…」

ハルが指差した先。二騎の早馬が、カロリーナの街を猛スピードで駆け抜けて行った。


「何かあったのかな…?」

振り向いたユキは、二騎を目で追っていた。



「おーーい、ちょっとユキ。こっち来て」

少ししたら、副団長のアルバートが呼びに来た。



あーあ。兄ちゃんが連れて行かれてしまった。

何かあったんだろうなぁ…。

スライムじゃ心が満たされない……。

後でコーヒー買お。


ハルはスライムの核を目掛けて、鎌を振り下ろす。

ブチッ……パキパキパキ……ピキッ。

「あ。氷割れちゃった」




周りがざわつき始めてから夕方には、全員カロリーナ郊外の開けた場所に集められた。


「見た人もいると思うが、どこかの早馬だ。何か指示がありそうだから……。今夜はここで野宿だ。

すぐ動けるようにしとけよ。飯は各自適当にな」

第一と第四の副団長二人が指示している。



遠くには、ぼんやりと明かりの灯った関所が見える。



ーーー


「陛下、恐れ入ります。

隣国、ヴェルレナからの使者が陛下への拝謁を願っております」



会議室の分厚い扉の向こう、伝令が声を張り上げた。



国王は現在、食糧安定対策会議の真っ最中だった。


「分かった。すぐに行く」

静かに国王は席を立つと、

左大臣アーノルド、右大臣ナコルも続いた。


室内の空気が一瞬、ピリッと張りつめた。




玉座に座る国王エイラエルに向かい、ヴェルレナの兵士が弱々しく口を開いた。


「陛下……恐れ入ります。現在ヴェルレナでは、連日の豪雨により…農作物が壊滅的な被害を受けております……。保管庫内の食料も……湿気で…。

どうか、食糧の緊急援助を……お力添えいただきたく………」


少し考えた後、国王が口を開く。

「……そうか。直ちに手配させよう」

こっちもあんまり余裕ないから会議してたんだけど。

とは言えない。



左大臣アーノルドは言った。

「ちょうど今、第一騎士団と第四騎士団の一部がカロリーナにおります。治安が悪化している可能性もありますゆえ、騎士は多くてもよろしいかと。輸送隊や救護隊も護らなければなりませぬ……」


右大臣ナコルも、眉間に皺を寄せつつ頷いた。

「国王様。騎士団を使う事には異議はございません。ただ。アーノルド左大臣。ヴェルレナは魔物がほぼいない地域ですよ。

いくら援助とはいえ、他国の領地にこれほどの人員を送れば……侵攻と誤解されかねません。

第一の十五名と第四、第二の一部、救護隊、輸送班を加えれば十分かと」


「ナコル右大臣。誤解が生じれば、解けばよいじゃないか。動ける人員は多い方が良かろう。我が国の騎士は優秀だ。何かしら役に立つと思わんのかね。

騎士を増やしておるのですから、百や二百、動いたところで何の支障もありますまい」

顎髭を触りながら笑っている。



「……そうだな。第二騎士団団長のトーマスに出動を命じろ。多くて百だな」

国王はそう言い、会議へ戻った。



使者の報告に基づき、城内は準備で慌ただしくなった。


街の明かりも消えた深夜。

「皆、起きろー。これよりヴェルレナへ緊急支援に行くぞ。もうじき物資を積んだ車が到着する。同行するぞー」

第二騎士団団長のトーマスが拡声器を使い、寝ていた皆んなを叩き起こした。



副団長のリンデンがノアの元へ行き、こっそり聞く。

「お前さ、国外出て平気か?今回残る方が不自然だけどさ」


「まぁ…大丈夫じゃないですかね?先代国王の妹で嫁いでる人いますけど、顔知らないですし」


「そっか…。まぁ、あんまり危ない事は避けてくれよ。因みに、ヴェルレナってどんな所か知ってる?」


「んー……。昔、この国から出た『人間だけの国』ってくらいですね。関係は修復済みですが…外はまぁ、あんまり詳しくは知りませんね」



そして、朝日が昇る少し前、第一騎士団十五名、第二騎士団二十名、第四騎士団二十五名、救護隊二十五名、輸送班二十名が揃い、ヴェルレナへの緊急援助に出発する事になった。

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