2-19
今日は満月。
窓から月明かりが入り、夜中にも関わらず城内が明るい。
「はぁ…」
ため息のタイミングが二人被った。
国王エイラエルの自室で、第二王妃のシルヴィアと共に、シャンパングラスに入ったスパークリングリンゴジュースを飲んでいた。
二人とも、体質的にお酒に弱い。全然飲めない。
「エーちゃん、なんか…お疲れ様」
「ほんとお互いお疲れ様、だよね……。ごめんね、シィちゃんにこんな大変な思いさせるつもりじゃ無かったのに。
まじごめん」
国王はテーブルに肘をついて、両掌で顔を覆った。
「先の事はわからないもん。誰もこんな事になるなんて、思わないでしょ。
いまね、スティアは怖がって部屋に引き篭もっちゃってて。
ルカは逆に取り憑かれたように図書庫で勉強したり騎士から剣術や魔法教えてもらってて…意味わかんないくらいアクティブになってるのよね……良い事なんだけども……」
「そっか……落ち着いたら様子見に行こうと思ってるのに、全然落ち着かないんだ。
騎士の募集、育成、他もそうだし、各所に結界も張って…研究所の調査して統廃合もしたいな。
シンプルにして、指揮系統スムーズにさせたいし…。西のクレイモアも魔物被害で田畑かなりやられたから食糧面も心配だし。
飢餓って人狂っちゃうからさぁ……」
「………やる事たくさんね」
「親父がほんっっっとに無駄な所に税金使ってたり、必要なとこ削減ばっかりしてロクな事しなかったから、ツケが全部回ってきてる感じ。
……子供達の事、任せっきりでごめんね」
国王だって愚痴りたい。
「私はもう大丈夫よ。疲れたときは無理しないでエーちゃんに甘えるって決めたもん」
シルヴィアが抱きついた。
「あーぁ。ノエルがいてくれたら……。
あの子、本当に頭良かったんだよ。物覚えが良くて。
今頃は優秀な俺の補佐役になっただろうになぁー…」
「そっかぁ……私、何も知らないなぁ。我が子の事なのに……」
しょんぼりしている。
「でもさ、俺はもっと早くに二人を助けるべきだったのに、何故か頭が回らなかったんだよ……。で、今慌ててさ。バカすぎるでしょ」
エイラエルは、ジュースを飲んで喉を潤す。
「精神的なものは治りにくくて動けなくなるんだよね?そのうち治る、って周りの言葉を鵜呑みにして…魔法でも治せないのにさ」
自分がバカすぎて嫌になる。
「そうね。根本を何とかしない限り、魔法で気力だけ治しても意味が無いからね…」
「人間って、デリケートだもんね」
「エーちゃんだって人間の血入ってるじゃない」
「八割魔族の血入ってたら、基本的な作りは魔族だからね。だからそんなにメンタル弱くないもん」
シルヴィアに覆い被さるように抱きしめた。
「あのさ、アーノルドが落ち着きすぎてて気持ち悪いんだよ。ナコルも全然証拠抑えられないと嘆いているし…。
あんな老いぼれでも純粋な魔族だから、正面からじゃ太刀打ちできないだろうし…。
こんな事になるなら、もっと予算組めば良かったー…」
「昨日、ルカとローランの、護衛の食事に毒が入っていたわ……。なんとか助かったけどね……」
「どうしても、追い込みたいんだろうなぁ…」
絶対に我が子にも他人にも聞かせられない二人だけの会話。ひたすら反省と愚痴の会となった。
もちろん、アルコールは摂取していない。
「もう遅いから、もう寝よっか」
「そうね。久しぶりにいっぱい喋ったからスッキリしたわ!やっぱり喋るのが一番ね。あとはやっぱり温もり〜。暖かいと安心して眠くなるのよね」
シルヴィアは目をこすった。
「シィはほんと可愛い」
ーーー
ん??ここは…??寝てたはずなんだけどな…
国王は真っ暗な世界に、ぽつん、と立っていた。
でも何故か、足の裏がくっついて、声も出ない。
足元は薄っすら、水が張られているみたい。
自分が写っていた。その横にシルヴィアも写っていた。
びっくりして二人して尻餅をつく。
顔を見合わせて、笑った。
足の裏がくっついていて、上手く立ち上がれないから。
水が波紋の様に広がってゆく。
と、思えば、なにやら水面に映像が映った。
音声は、頭に直接聞こえてくる様だ。
見たことの無い景色。
レンガ作りや木造建築。
緑に囲まれた、綺麗な街並み。
活気ある声が響いてくる。
髪の長い男女が、仲睦まじく城から街を見下ろしていた。
「私…ようやくアマツ様と結婚できたのね……夢みたい!」
真っ白なドレスを着た少女が、男に抱きついた。
「シア、落ち着いて。落ちたら大変だよ」
「王家で魔族と人族の初めての結婚よ?嬉しくないわけがありませんわ!」
満面の笑みが溢れていた。
街では結婚を祝う花びらが舞い、お祭りの様だった。
場面が切り替わる。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
ガタガタガタガタ…
ベッドから急いで起きる二人。
「きゃぁっ!地震!?」
「まさか地震なんて……」
慌てて窓を見ると、深夜なのに空一面真っ赤な光。
「研究所の方だ…何があった!?」
「大変でございます!人間の研究施設で事故です!お逃げくださいませ!」
「大量の魔物です!!」
「いや私も行く!!」
アマツが杖を持った。
「いけません!国王様からのご命令です!」
二人は無理矢理地下へ連れて行かれた。
研究所からは、止めどなく魔物が湧き出てきていた。




