2-17
副団長のアルバートが車に乗せてくれた。
「で、何があった?」
「さっきも言いましたが、背後から襲われたんです…」
ユキはそう言い、車の揺れで眠くなってきた。
「一応お城の人だからさ。もうちょっと優しく、ね。
勤務中の騎士の背後に来る方も悪いんだけどさ。一応メンツもあるだろうし」
車で走る事、三十分。本部に到着した。
徒歩も好きだけど、やっぱり十六になったら運転免許取りたいな、とユキは思った。
団長に報告する為に執務室へ向かうと、ドアの両側に見かけない顔の騎士が立っていた。
嫌な予感しかしない…。
「戻りました……」
副団長は騎士に向かって
「ご苦労さん」
と労う。
「おかえりー。お疲れさん…あれ?二人?」
リオ団長が声をかける。
「ユキ、お疲れ!!」
ソファで紅茶を飲んでいるローランからも、声をかけられた。
ニコニコと屈託の無い笑顔が眩しい。
「ユキ。本当にごめんね。ストロフの事止めたんだけどさ……嫌な事言われなかった大丈夫?ストロフと一緒に来てない?」
ローラン王子はしょんぼりと俯きながら言った。
「まぁ……ね。うん。大丈夫、かな?」
やっぱり王子にタメ口はなかなか大変。
どうしても言葉を選んでしまう。
「ならよかったよ。ちょっとお茶でもどう?メールしたでしょ」
腰あたりまである長い深緑色の髪をかき上げ、ユキをソファへ促した。
艶々の髪は、天使の輪の様に綺麗。
「今日……。こんな時間に来て平気??」
ユキは聞いた。
「うん、ストロフもいるし、他にも増えた新人の護衛もいるからね。結構大丈夫だよ。
城は……安全とも言い切れないし。やっぱり外の空気っていいよね」
お付きのメイドが、副団長とユキの紅茶を注ぐ。
「何か急ぎの用事でもありましたか?」
側にいたリオ団長が聞いた。
「急ぎじゃないけど、聞きたいことはあるかな。
新しく入った救護隊の、アキって人、知ってる?
ちょっと真っ黒な髪が同じだって思って。
よく会う訳じゃ無いけど、前にちょっと見かけて。
兄弟とか従兄弟?」
ローランの目が笑ってない。
ユキは言葉に詰まった。
ローランはそのまま話し続けた。
「同期のサラは、右大臣の血縁。
父様は右大臣を信頼しているみたい。
だから……アキは安全な人かどうか確認したいんだよ。関係無いなら別にいいんだけど」
その話はアキから聞いてる。
これ、下手な事言ったらアキに何かある可能性が高くなるやつ?
建物は別とはいえ、王城敷地内の救護隊に所属して仕事をしているから、王子がアキを敵視する理由は無いはずで……
「……そう。アキは俺の、一つ下の弟。
変わり者だけど、根は優しいよ。
治療に関しては誰よりも上手いし。
信用してくれると嬉しい、かな?」
超考えたけど、これで大丈夫かな…?
ちょっとドキドキしちゃう。
「ほんと!?」
パァァァァ…と、ローランが華やいだ。
ユキは、そこには無い筈の花が撒き散らされているような錯覚に陥った。
「よかったー!なら安心だね。あー聞くの緊張しちゃった!
サラってさ、母様の従姉妹なんだよね。
この前初めて会ってからね、よくアキの話を聞くから大丈夫なのかなぁって思っててーー!」
その話を聞いたらユキもホッとして、紅茶を飲んだ。
「そうなんだ…ユキの弟が救護隊に入ったとは聞いていたけれど。王城勤務なんて優秀だなぁ」
副団長も紅茶に口をつけた。
「ローラン様。一つお伺いしても?」
団長が声をかける。
「はい、なんでしょうか?」
「右大臣殿は信頼しても大丈夫なのでしょうか?
両大臣からの指示が、少々異なる事が多いのでございます。どちらの対応を優先させるべきか、と」
「そうですね……右大臣のナコルからは、アーノルドには注意する様言われています。
これは、内密にお願いしますね」
「なんか…俺聞いちゃいけない話じゃない?大丈夫ですか?」
ちょっと聞いててハラハラする。
バタバタバタバタ……
急に廊下が騒がしくなった。
「ん??」
一斉にみんながドアの方を見た。
バァァーーーン!
ドアが勢いよく開いた。
「はあはあはあはあ……」
息切れをしているストロフが、すぐ様片膝をつき、頭を下げた。
「あ、ストロフ戻ってきたんだね。遅かったね。
大事な話の最中だから、騒がしくしないでくれないかな」
何も知らないローラン王子は、厳しかった。
「大変申し訳ございません。少々トラブルがありまして……」
「そう?なら、今後は気をつけてね」
「はい」
ちょっとだけ、ストロフが可哀想で、絶対直属の護衛にはなりたく無いと思ったユキだった。




