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ひととま  作者: 珈琲
第二章
68/104

2-17

副団長のアルバートが車に乗せてくれた。

「で、何があった?」


「さっきも言いましたが、背後から襲われたんです…」

ユキはそう言い、車の揺れで眠くなってきた。


「一応お城の人だからさ。もうちょっと優しく、ね。

勤務中の騎士の背後に来る方も悪いんだけどさ。一応メンツもあるだろうし」



車で走る事、三十分。本部に到着した。

徒歩も好きだけど、やっぱり十六になったら運転免許取りたいな、とユキは思った。


団長に報告する為に執務室へ向かうと、ドアの両側に見かけない顔の騎士が立っていた。


嫌な予感しかしない…。

「戻りました……」


副団長は騎士に向かって

「ご苦労さん」

と労う。


「おかえりー。お疲れさん…あれ?二人?」

リオ団長が声をかける。


「ユキ、お疲れ!!」

ソファで紅茶を飲んでいるローランからも、声をかけられた。

ニコニコと屈託の無い笑顔が眩しい。


「ユキ。本当にごめんね。ストロフの事止めたんだけどさ……嫌な事言われなかった大丈夫?ストロフと一緒に来てない?」

ローラン王子はしょんぼりと俯きながら言った。


「まぁ……ね。うん。大丈夫、かな?」

やっぱり王子にタメ口はなかなか大変。

どうしても言葉を選んでしまう。


「ならよかったよ。ちょっとお茶でもどう?メールしたでしょ」

腰あたりまである長い深緑色の髪をかき上げ、ユキをソファへ促した。

艶々の髪は、天使の輪の様に綺麗。


「今日……。こんな時間に来て平気??」

ユキは聞いた。


「うん、ストロフもいるし、他にも増えた新人の護衛もいるからね。結構大丈夫だよ。

城は……安全とも言い切れないし。やっぱり外の空気っていいよね」


お付きのメイドが、副団長とユキの紅茶を注ぐ。


「何か急ぎの用事でもありましたか?」

側にいたリオ団長が聞いた。


「急ぎじゃないけど、聞きたいことはあるかな。

新しく入った救護隊の、アキって人、知ってる?

ちょっと真っ黒な髪が同じだって思って。

よく会う訳じゃ無いけど、前にちょっと見かけて。

兄弟とか従兄弟?」

ローランの目が笑ってない。


ユキは言葉に詰まった。


ローランはそのまま話し続けた。

「同期のサラは、右大臣の血縁。

父様は右大臣を信頼しているみたい。

だから……アキは安全な人かどうか確認したいんだよ。関係無いなら別にいいんだけど」



その話はアキから聞いてる。

これ、下手な事言ったらアキに何かある可能性が高くなるやつ?

建物は別とはいえ、王城敷地内の救護隊に所属して仕事をしているから、王子がアキを敵視する理由は無いはずで……



「……そう。アキは俺の、一つ下の弟。

変わり者だけど、根は優しいよ。

治療に関しては誰よりも上手いし。

信用してくれると嬉しい、かな?」

超考えたけど、これで大丈夫かな…?

ちょっとドキドキしちゃう。



「ほんと!?」

パァァァァ…と、ローランが華やいだ。

ユキは、そこには無い筈の花が撒き散らされているような錯覚に陥った。


「よかったー!なら安心だね。あー聞くの緊張しちゃった!

サラってさ、母様の従姉妹なんだよね。

この前初めて会ってからね、よくアキの話を聞くから大丈夫なのかなぁって思っててーー!」


その話を聞いたらユキもホッとして、紅茶を飲んだ。


「そうなんだ…ユキの弟が救護隊に入ったとは聞いていたけれど。王城勤務なんて優秀だなぁ」

副団長も紅茶に口をつけた。


「ローラン様。一つお伺いしても?」

団長が声をかける。


「はい、なんでしょうか?」


「右大臣殿は信頼しても大丈夫なのでしょうか?

両大臣からの指示が、少々異なる事が多いのでございます。どちらの対応を優先させるべきか、と」


「そうですね……右大臣のナコルからは、アーノルドには注意する様言われています。

これは、内密にお願いしますね」


「なんか…俺聞いちゃいけない話じゃない?大丈夫ですか?」

ちょっと聞いててハラハラする。



バタバタバタバタ……

急に廊下が騒がしくなった。


「ん??」

一斉にみんながドアの方を見た。


バァァーーーン!


ドアが勢いよく開いた。

「はあはあはあはあ……」

息切れをしているストロフが、すぐ様片膝をつき、頭を下げた。


「あ、ストロフ戻ってきたんだね。遅かったね。

大事な話の最中だから、騒がしくしないでくれないかな」

何も知らないローラン王子は、厳しかった。


「大変申し訳ございません。少々トラブルがありまして……」


「そう?なら、今後は気をつけてね」


「はい」


ちょっとだけ、ストロフが可哀想で、絶対直属の護衛にはなりたく無いと思ったユキだった。

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