2-15
街を覆う結界が張られ、久しぶりすぎる静かな夜。
コンコン。
「入りまーす」
「どうぞー」
鍵が開いた。
団長が小声だ。
ガチャリ。
「またタイミング悪かったみたいですね」
ノアはソファですやすやと寝ていた。
「だな。まぁ、睡眠は大事だからな。」
「ですね…って、あれっ!?」
寝てるノアを見たら、髪の色が抜け、薄い水色に戻ってしまっていた。
「そう。一昨日くらいから、寝ると魔法が解けててな。
そもそも人間が寝てる時も魔法かけてるってのも、普通じゃないんだけどな」
「だから鍵かけてたんですね。
そういえば、そうですね。前から普通にやってたから……。
こういう弱り方は初めて見ましたね」
「今までは?」
「…とりあえず、魔力落ちることは無かったのです」
ハルは、ノアが書いた、お城への書類の下書きを手に取る。
これをそのまま団長が書き写して提出するだけ。
「んー…辞書でしか見たことない言葉だらけ…教科書みたい」
「お陰様でめちゃくちゃ楽なんだよ。脳死でも提出できる。秘書になって欲しいくらいさ」
「んーー…ハル?」
起きると共に、ノアの長い髪が、根本から毛先に向かって、普段の茶髪になってゆく。
目の色も茶色に。
「あ、起きた?」
「うん。おはよ」
大きく伸びをした。
「いま夜だけどな。
今日街に結界張られたから、少し業務が楽になるぞ」
「お城の魔導士さんが来てさ、結界張るのすごい綺麗だったんだよー」
「へー…」
「てゆーか連絡全部無視したよね」
「………ごめんて。少しくらい自力で、って思ったんだよ。ハルも今は忙しいでしょ?
ユキは電話無理だからメールってなるとまとまらないし、アキは表向きの対応がちょっと厳しい」
「まぁ………アキに関しては、ノアも悪いよ。
ね、顔色ちょっと良くなってる気がするんだけど?寝たから?」
ハルが、ノアの顔をぺたぺた触る。
「そうだな。ちょっと戻ってきたか?」
団長は頬杖付きながら、ダラダラと書き写ししている。
「そこは反省してるって。
調子、は……。
あれ?あんまり気持ち悪くないね。ちょっとマシになってる気がする」
ノアは胃のあたりをさすって確かめた。
「よかったー!じゃぁなんか食堂でスープでも買ってくるね!」
ハルが走って部屋を出て行った。
「ハルは結構世話焼きタイプなんだな」
「ですねー。なのでバチクソに甘えてしまいますね」
「自覚はあるんだな」
「……」
「急に黙るなよ。
じゃあー俺、外の様子見てくるから。二人で話しときな」
団長はジャケットを羽織り、会議室を出ていった。
あーダメだ。ヒスイと同じ声のトーンしてるから、気が緩んじゃったし。
しばらくして、ハルが食堂から戻ってきた。
トレイに乗っているのは、コーンスープ。
「ごめん。ありがとー」
ノアはニッコリと受け取った。
まぁね。出来ればもっとサラッとしたヤツが良かったなって思っちゃうけどね。
言わなかった俺が悪いからね。
多分、スープなら何でも一緒って思ってるだろうからね。むしろコーンは栄養豊富だからって選んでそう。
「いただきまーす…」
じーーっとハルに見られている…。
「さすがに気まずいよ?」
「さっきね、アキからメールきたの。
もしかして、ちょっと効いてたのかなって思って」
メールの画面を見せた。
「ん?えーえーえー…まじー?いや、でも確かに初めはメンタルやられてて……。何度も吐いてて。
まぁでもね、城の定期検診で採血あるからさ。全員の血のストックは絶対あるんだよね。
えー…やだなぁ…どーしよう」
「アキももうちょっと調べるっぽいからさ、とりあえず今は治って良かったってことで」
背中をぽんぽん叩く。
ノアはトレイをテーブルに置いた途端、ハルに抱きついた。
「やっぱまだ自力は無理かも……」
「みんな強いし、結界も張られたからさ。
大丈夫だよ。何話したい?」
ハルは頭を撫でた。
ーーー
弱音を思う存分話し落ち着いたのか、ノアがそのまま寝て動けなくなり、ハルも寝落ちしていた。
ガチャリ。
団長と副団長が揃って外回りから戻って来た時に
「何これ…」
副団長がびっくりしている。
「んー。また髪が水色か…やっぱすぐは無理か」
団長は顎に手を置いて、考えている。
「これ、付き合ってないんだよな??」
「まぁ、十六歳未満は犯罪だからなぁー」
「でもそれって歳の差あるやつとか婚姻とかじゃん?俺やったら未成年なんちゃらで確実に捕まるけど」
「関係性が微妙だからなぁー。とりあえずそっとしとこうか」
団長がそっと毛布をかけた。




