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ひととま  作者: 珈琲
第二章
65/105

2-14

今日も今日とて人助け。

ハルは凍った鎌を持ち、鼻歌を歌いながらザクザクと魔物を斬ってゆく。


「……ハル、ほんといつも楽しそうに退治してるよね…」

そう言うのは本日のペア、同じ一斑で三つ先輩のイザベルさん。

「とても楽しいですね。前までは、ゆらめく炎や雷の輝きが綺麗で、有無を言わせない圧倒的強さ感が堪らなかったんですが……今はすっかり氷の虜でして…」

両手を頬に当て、照れながらハルは話始めた。


「そ、そう…。最近ね、貴女、″死神″ってあだ名付けられてるわよ。知ってる?」


「いえ、初耳です。でも死神かぁ……なんだか照れますね」


「そっか。そういう感じなのね。よく分かったわ。魔石拾って行きましょう」

何かを理解したらしいイザベルが、地面に転がった魔石を回収してゆく。



街に出没する魔物を倒し、魔石を回収する日々。

この魔石を使って、各街ごとに結界を張るらしい。


お城から、すごく魔力が高そうな、明らかに魔導士です。という様相の人が三人ほど来ており、街の中心部にある、古びたレンガ作りの六角柱の上部にある蓋を開けた。

「集めた魔石はこちらに入れてくださーい」

ここ最近の分も入っており、すでに満杯に近い。




「あれ、ただの古代遺物じゃなかったんですね」


「私も知らなかったのよね。何百年も前にはアレで結界張ってたらしいじゃない」

ハルとイザベルは遺跡を見上げていた。


「何で結界、やめちゃったんでしょう?」


「詳しくは知らないけど…そもそも魔物があんまり街に出没しなくなったんじゃないかしら?

それにしても、お城から来たあの人たちも魔力量多いわね。団長達とあまり変わらなそう……。

やっぱり生まれつき良い家柄の魔族は羨ましいわぁ」


「おかしいですね〜。うちも血筋の良い魔族のハズなんですけどねー…」


「遺伝もあるから。ハルは、たまたまダメな部分ばかりを引き当てたんじゃないかしら。きっと、奇跡的な確率よ?」


「それじゃ救いが無いじゃないですか……奇跡の無駄遣いですね」

しょんぼりと、肩を落とした。




日が暮れた頃には満杯になり、三人の魔導士が蓋をし、同時に三種類の古びた魔導書を読み上げ始めた。


ギャラリーは多く、ハルはレモと一緒に結界が張られるところを見に来た。


「これ多分、呪文ってやつなのかな」


銀色の魔法陣が、六角柱の根本、中間、上部と展開され、上空に向かって細い光が伸び、ドーム状に街を覆ってゆく。

森に沿って形を変えながら、結界は広がってゆく。


ギャラリーから歓声が湧き上かった。



ーーー


「おい、まだ見つからぬのか?」


「申し訳ございません。アーノルド様。

各所街中に香を焚いてはいるものの、救急で運ばれる疑わしい者は発見できませんでした」


「……本当に……いないのか?

あの香はルカとスティアが意識を無くす程に効いた。さらに効果も高めた。ノエルの血だから本人に効かない筈は無いだろう」


「そろそろ各所では結界が張られます。恐らく効果も無くなる事かと…」


「まったく。彼奴は余計な事ばかり。

次代の国王が決まれば、速やかに現国王の処分が出来るんだがな。素直に従っておれば良いものの。


結界が張られれば、騎士団に余裕が出る。魔物の発生源を探られる可能性が高い。

各所のクリスタルは隠しているだろうな?」


「勿論でございます。小さく、見つけるのは困難でございましょう。国土の豊富な魔力と相まって、かなりの数を生み出しております。近づく事も難しいかと」


「あまり他魔族の協力要請をしたくはない。見下されるからな」


そう言って、アーノルドはワイングラスに注がれた、真っ赤な液体を飲み干す。

だんだんと、思考がクリアになってゆく。


「そろそろ冷凍輸入でないものを飲みたいものじゃな」


「左様でございますね」


ーーー


一方のアキ。

就寝前の空き時間に、香の煙を染みつけた袖から、成分分析をしていた。


魔導書を読み漁り、何種類もの魔法陣を作っては捨て、肉眼では見えない、細かい粒子まで見える魔法を探していた。


小さな魔法陣を机に創り出し、中心部に布の切れ端を置く。

両手を乗せて、目を閉じた。


治療する時と同じ容量だ。


主成分は風の魔法。

極小の粒子を纏わせ、風で運ばせるよう。


「へぇーーー。この魔法は凄いね。この赤い微細な結晶……血じゃん」

誰のか、までは分からないけれど。

まぁ、妹弟に効くなら、ノアにも効くでしょ多分。


すぐさま、結果を三人にメールした。


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