2-13
くるくるっと軽やかに鎌を回し
「よっしょー!」
ザクッ…ザスッ……パキパキパキッ
毎日朝から、街に出た魔物を退治しています。
今日は鎌に氷の魔法をかけているので、傷や切断面、斬った部分だけが凍る。
火や雷だと、地面に焦げが残るし、臭いもキツイ。
風や土だと、体液や中身がぐちゃぐちゃ飛び散って汚い。
氷は全てのデメリットを打ち消してくれる、素晴らしい効果を感じますね。
見た目気持ちの悪い魔物を、綺麗な結晶でデコる。
……“美しい“と言う言葉以外にありますか?
絶命してから魔石になるまでの、数秒間だけの儚い結晶……。
魔物を退治してみんなの役に立ってる感じも、すごく、良い。心が軽くなるわぁー。
凍った鎌を抱えながら頬に手を当て、恍惚とした表情のハル。
建物の影から飛びかかってきた魔物も
鎌をクルッと回して…ザシュッ…パキパキ…
胴体を真っ二つ。
今度は気持ち、氷の結晶を大きくしてみた。
氷の中に閉じ込められた魔物の濁った血液と、透明な氷のグラデーションがはっきりと分かる。
陽の光で透き通る、まるで宝石のような輝き。
……うん、やっぱり氷が一番いい。困る人がいない。
「あっあっ…もう魔石になっちゃった……」
「ハルー!こっち終わったよ」
「あ、私も終わったとこー」
そこへ、同期のレモが声をかけてきた。
拳がバチバチと放電している。
「今日は氷なのね。色々な属性が使えるのはなんか羨ましいわね。私は雷だけなのに」
「生まれつきだからねー。でもさ、レモは武器使ってないじゃない。それはそれで凄くない?」
「まぁね!体術には自信あるわ!そもそも、広範囲とか遠距離とかの魔法使える程の魔力が無いんだけどね。剣はそんなに得意じゃないし」
「分かるー。剣って重いし私も苦手……」
「ハルって怖いくらい握力無いよね。さすがに剣握れないとは思わなかったわ」
「ねー。不思議だよね。腹筋はぼちぼちつくんだけどさ。手足はイマイチ育ちが悪くて…お陰様で本当不器用なのよ」
「まぁいいわ。ハルの鎌には色々助けてもらっているから。
お昼休憩に行きましょ」
食堂は、バイキング形式で深夜も運営されている。
好きなものを好きなだけ食べれるので、とても好評なのである。
ハルは、山盛りの粉チーズをかけたトマトペンネとサラダ、具沢山の豆スープ。
レモはチキンフライとサラダ、パンとかぼちゃのスープ。
お昼となると、食堂はだいぶ騒がしく、活気がある。
「あ、班長がいる!ハル、行こ!目の保養よ!」
「えー待ってー」
特に喋る事ないんだけどなぁ…
レモがずんずん行ってしまった。
「班長、ご一緒いいですか?」
「ん?あぁ、いいよ」
「班長もお疲れですね」
「そうだなぁ。ノアが不調で業務変えたから、しばらくは俺が夜間担当で。
他にも不調者が出てきているから配置替えしないといけなくてな」
「大変ですね。まだノアの体調悪い感じですか?」
ハルが聞いた。
「連絡取ってないか?業務はしていても、まだほとんど食事も摂ってないようだし、睡眠はまばらって感じらしい。
人間の方が繊細だから、病みやすいんだろうな」
「怖いぐらい何の反応もないですね。電話もメールも放置ですね……」
「魔族の血が濃いめでも結局は人間ですから。日々色々考えちゃうの分かるわぁ。
悩みでお腹いっぱいになっちゃって、食事なんて喉通らないのよ。他の事で気を紛らわしても、解決してなかったら結局戻ってきちゃって。
それが何度も繰り返されるとね、頭の中もいっぱいになって、どんどん病んじゃうのよ、人間って。最悪、死んじゃう人もいるくらいよ」
レモが怖い話しだした。
「そうか…だいぶ貴重な意見だな。」
「ここ、ほとんど魔族ばっかりですもんね。副団長なら多分共感できるんでしょうけど、時間帯合わない感じですね。
魔族の大半は悩む事はあっても、死んじゃおうとはならないですよね。てゆーか死んじゃったら全部終わっちゃいますよ」
「そうだな……死ぬ意味は分からないな。
俺は典型的な魔族だからさ。嫁さんや娘からは鈍いだの雑だの、デリカシーが無いだの言われるしなぁ…」
班長がどこか遠くを見つめている。
ご家族と何かあったのかもしれない。
「でも、その分魔族の人ってポジティブじゃない。
元気貰えるっていうか、心配してくれてるって分かりやすいし。愛されるってなったら、もう絶対的よね。一途だもの」
両手を頬に当て、うっとりしている。
「それにくらべて、人間の男って、目移り多いのよね!お前だけ、とか言いながら他の人にも手を出すのよ」
今度は怒りだした。
「レモ…そんなに何か…あったの…?」
「警察部隊は人間メインだから、色々あるのよ。ゴタゴタが…」
「そっかぁ。私の友達、人間の人ばっかりだったから…だから恋バナのネタがなかったのかな……」
「そうね!何かしらあれば分かるかもねっ!」
ハルは班長を見た。
「俺はそういうのよく分からんからな。困ってる側だ」
「ですよねー」




