2-9
同じ頃、外から城内への扉は、今は閉ざされている。
すでに常駐している先輩救護隊がいるので、避難している新人達に出番は特に無い。
終わるまで待機。
今年の救護隊のトップ層とはいえ、窓から外の様子を伺う者、泣き言を言う者、率先してやる事を探す者など、人となりが知れる。
アキも例にもれず、謎に回復薬を飲み続けているせいで、周りから変な目で見られていた。
「アキくん、だっけ?どうかしたの?体調悪いの?顔色悪いよ?」
救護隊トップの成績で入隊したサラが話しかけてきた。
「あ、いや、別にそういうんじゃないよ。ちょっと今すごい貧血なだけだから…」
外で姉が、猛烈に魔力を使って暴れ回っているから。魔力供給が追いつかない、なんて言えない。
「貧血なりやすいの?」
「ううん。ちょっと……緊張してるだけ…かも?」
「魔法で治せばいいのに。やってあげるよ?」
「大丈夫、大丈夫。本当に…そのうち治るから」
お願いだからあんまり聞いてこないでー。
「そっかぁ。じゃぁ、何かあったら言ってね!これからよろしくね!」
時々、本にでてくる聖女様ってこんな感じなんだろうなぁ。なんか純粋そうだし、浄化されそう。
「うん、よろしくね…」
「あっち、王子様とお姫様達がいるね。」
アキはなんとなく気まずいのでちょっと吹き抜けの二階、四人の王子がソファに座っているのが見えたので、話を振ってみる。
「珍しいよね。王子様達がみんな揃ってる、なんて。今まではほとんど顔なんて出さなかったのに。間近で見ると、やっぱり気品があるというか、格が違うというか…
お姫様方は時々お茶会やパーティで会うけど…やっぱり全然違うわね。」
サラは、ビシッと決めた、礼装を着こなしている王子達にうっとりと見つめてしまう。
「え?お姫様とお茶会?パーティ?……君はどこの人??」
「うふふ。叔父様が、ここで右大臣しているのよ」
小声で言った。
「叔父様??」
「うん、叔父様。」
「えっ!?超エリートお嬢様じゃん」
「実はそうなのよ!お陰で“出来て当たり前。トップで当たり前“ってプレッシャーがすごいわよ。礼儀作法とかもね…。次期国王の嫁になれ、とか…」
「それは…大変だね…。じゃぁ、もう婚約も?」
「ううん。まだなのよ。今までならとっくに次期国王様が決まっているのだけど……今回は全然らしいのよね」
「そっかぁ」
今までならとっくに王子達、一人以外全員死んでるんだもんね。
「お城の事、詳しいの?」
「他の人よりは。ってくらいね。叔父様にしょっちゅう会う訳ではないし……」
「やあやあ。俺も交ぜてくれないかな?
トップのサラちゃん、三番手のアキくん。
俺、二番だからさ。仲良くしてくれない?」
成績二番手のツカサが、割って入ってきた。
「どうも…」
アキはとりあえず会釈だけ。
仲良くする態度じゃないなぁ。
「まさかここで大臣のお嬢様に会えるなんてね。ぜひ色々教えてほしいなぁ〜」
サラの手を握った。
「やめてください!」
バッと手を振り払う。
「貴方、何度かパーティで見かけてますが…マナーが全くなってないのね」
「へー。そんな簡単に女の子に触るんだね。ハレンチ〜」
「は?平民で何も知らないくせに生意気な……」
アキの胸ぐらを掴んで怒り出した。
「平民でも、女の子の手を勝手には握らないよ」
「やめなさいよ。貴方、乱暴で煩いわ……。こんなので救護隊なんて、ありえないわ」
「実力だよ。お嬢様。こう見えて、魔力は強いのさ」
「試験に性格もあればいいのに。最悪。
……ねぇアキ………この匂い、何かしら?さっきはしなかったわ」
「可愛いのに気の強いお嬢様だね。
……? 何も変な匂いなんて無いじゃないか」
「匂い?」
アキも周りをくんくん……嗅いだ。
「本当だ。さっきまでこんな匂いしなかった気がする…何の匂いだろう?何か…金属臭っていうか…魔力でも入ってるような?弱い人は分からないような微量の……」
「怪我人入ってきてるんだから、血の匂いだろ。
俺の魔力が弱い、みたいな聞こえ方は失礼じゃないか。そもそもさっきからお前失礼だ」
「君も平民に対して失礼ばっかりだから、おあいこ」
「お前と話すとイライラするな」
「それはどーもー。平民だし、話かけなくて良いよ」
こーゆー奴は嫌いだ。折りたくなる。
「んー…何か………胸焼けしそうな匂いね」
サラはお構いなしに、匂いを探っていた。




