2-7
何事もない、平和な日々が続いた春の日。
王城の大広場。
青空の下、今年の新人達が整列している。
二次募集、三次募集とあり、合計百五十名を超える大人数となった。
春の入団・入隊式である。
各団や隊ごとに列をなし、団長、副団長や、隊長、副隊長。雑用で自由参加の人たち。
ハルは、アキの晴れ姿を見たくて率先して雑用に加わっている。
「アキいた!アキいた!!超凛々しい!」
自分のことの様に嬉しい!
途中入団は例外なので、式には出れない。
隣のレモには
「ちょっと落ち着いて。あの子ね?案外似てないわね。髪色が同じくらい?」
「うん。二卵性だからね。でも弟だよー」
すっかり釘付け。スマホ持ち込めないのがとても惜しい。
後で客席にいる両親に送ってもらおう。
雑用参加の兄ちゃんも、やっぱりガッツリ見ている様子。
「並ぶとやっぱりアオト団長が一番背高いのね。あぁ、でもやっぱりリオ団長もいいなぁ〜。ハルは?誰が好みなのー??」
レモが、話しまくってくる。
「そーゆー目で見た事ないから分かんないよ。
レモ、式始まるから。落ち着こう?」
真新しい正装姿で、整列している新人達。
その中の最前列に、アキの姿はあった。
アキは救護隊上位の成績で合格。
魔力量も薬学の知識も豊富で、期待の新人の一人だ。
壇上では、国王、王妃、大臣たち要職の者達が並び、祝いの言葉が読み上げられていく。
城のテラスからは、不参加の王子達が見学していた。
滅多に見られない王子達の顔を見にくる観客もたくさんおり、お祭りの様に賑わっている。
午前中の式典が終わり、国王様達が退席する際。
ーーその時。
上空から、西の空から黒い影が大音量の羽音とともに、大量に押し寄せてくるのが見えた。
大型の蜂の魔物、ジャイアント・ビー。
おおよそ子供くらいの大きさ、その強力な顎は人の頭を砕き、中身をすする。腹の先には長い針があり、刺されたら胴体くらい貫通してしまう。
腹を切れば、毒が飛び散る。そこまで致死性は高く無いが、子供が浴びれば、最悪死ぬ。
一匹でも厄介なのに、群れになって西エリア、クレイモアの街から直線状に城に向かってきている。
国民は、お城や近くの建物の中へ。
「慌てないで下さい!!速やかに建物の中へ!!」
大声で誘導する警察隊。
あっという間に魔物の影が、大広場の頭上を埋め尽くしてゆく。
各団から来た、おおよそ二百人ほどの騎士達が、人気がなくなった大広場や街で武器を構えた。
「きゃーーー!!何なの!!!ガレッド!!すぐ班長達に連絡を!!」
第三騎士団団長のルシアンが、指示をだす。
「はい!!」
副団長のガレッドはすぐさま状況を確認。
「団長!全班現在応戦中です!街の状況まではまだ分かりません!」
「もーー!!さっさと片付けて向かうわよ!!」
「スノラーナ西側へ行け!一部飛んできているかもしれない!急げ!」
副団長のリンデンも、現地にいる騎士達に指示を飛ばした。
ハルとユキは武器をすぐさま生成し、襲いかかってくる魔物を斬っていく。
「この大群だと一匹ずつ斬っててもキリがないし毒が危ない。
全員魔法!!ハルも、アキの魔石使え!!」
団長の指示が飛んだ。
「はいっ!」
久しぶりの魔法だ。
「土よ…」
城を中心として周辺一帯を囲うように魔法陣を展開。
建物の強度を最大まで上げていく。まるで鋼鉄の様。
「氷よ…」
ハルの手のひらに創られた青い魔法陣からは、細かな氷が空高く舞い上がる。魔物を次々と凍らせ、地面へと落としてゆく。
アキがお城にいて近いから、ガンガン魔力が流れ込んでくる!
「すごく体が軽いーー!まるで限界が無いみたい!
風も使おうかなー!」
魔法が楽しくて仕方がない。
「風よ…」
緑の魔法陣が広がり、竜巻の様に魔物を吸い寄せる。
そこへ、リンデンが火の魔法で燃やし尽くしてゆく。
「おお!すごいな!じゃんじゃん倒してくれ!」
上機嫌な団長が、ハルに声をかけつつ、
足元に綺麗な青い魔法陣を。
無数の氷の蔦が上空まで伸び、絡め取った魔物を凍らせてゆく。
ーーー
一方でアキは、お城へ避難誘導され、待機している。
久しぶりに一気に魔力を大量に吸い取られたから、貧血気味で床に座ってぐったりしていた。
「ハル……一気に使い過ぎだよ……」
攻撃魔法は消費がでかい。
ユキは……リオ団長の指示で攻撃は一旦やめ。
土の魔法と飛ぶ魔物との相性は最悪なので、今回は邪魔にならないよう建物の強化だけして避難。
外では主に、雷、火、水、氷、風の人達が奮闘していた。
第三騎士団の方からも、
「皆んなちゃんとガードしなさいよ!巻き込むわよ!」
ルシアンが上空に巨大な魔法陣を創り出した。
すごい速さだ。
大量の雷が頭上から降り注ぎ、一度に大量の魔物を黒焦げにしてゆく。
「誰かが建物を強化してくれたのね。ほら、どんどん倒すわよ!!」
それぞれが、見せつけるかの様に大魔法を展開し、速やかに片付けてゆく。




