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「おい、一体どうなっているのだ。
全く王子を始末できていないではないか!!
ルカも!ローランも!レイも!!誰も死んでいないではないか!!」
イライラを抑えられない男の怒号が、室内に響き渡る。
「やっと…やっと第二王子の捜索予算を半分以下にできたというのに…
あの女が邪魔しよって…
断れないのをいい事に、ずっとずっと、ずっと捜索依頼。なんとかノエルの死から五年で一区切りできた。
やっとだ。やっと出来るはずだったのに……」
暗殺部隊はとっくの昔に私物化されており、予算を使って王子狩り。
建国時は必要であったが、今、この平和ボケした国に暗殺部隊なんてそもそも不用である。
“万が一の備え“としながら、実際はただの王子選別部隊として長い年月、活動しているのだ。
国王の調整の為だけに。
「今まで当たり前に出来ていたことが、今回は第二王子だけしか成功しておらぬではないか!!」
現国王の代はそもそも男児が一人。
王妃の腹にいた子は選別するまで待てないから始末した。
長期間の王不在は都合が悪い。
国民が平和に過ごし、国を信頼していれば。疑問を持たれなければ、城内の運用なんてほとんど関心なんて向かなくなる。
もちろん過去、疑問に思う国民もいた。が。
『この国に相応しい優秀な王を、神がお選びになられている』
と、学校教育に組み込んだらあっさり受け入れるくらいにはバカだ。
あとは「実は王家の呪い」だの「神のいる国」だの好き勝手広めてくれている。
よくよく考えれば、そんなお伽話みたいな話は無いと気づくはずなのに。
「建国時は二十近くあった騎士団も、今は四つまで減らせている…」
親父が四人の王子を滞りなく始末している。相当残虐だったせいか、先代国王はずっと怯えてまともに国王としての機能が果たされなかった。
それでは困る。
不信感は国民感情に悪い。
あくまで我々の仕事は国王の管理、選別だ。
国力をゆっくりと、削ぎ落としていく。
そして人間は、平和で魔法を使う機会が減れば勝手に魔力は弱まっていく。
増えすぎた人数は魔物で削っていけばいい。
机の書類を投げ捨て、男は続ける。
「現国王は使いにくい。考えがまともなのだ。
王子の守りを固めよって……実に都合が悪い」
ギリギリと、爪を噛む。
「裏で誰か……いや、まさか。
そんなはずは……。」
嫌な予感が、頭をよぎる。
控えの者は皆俯き、震えている。
「……恐れながら、申し上げます」
「なんだ!」
ビクッとした後、震える声で続けた。
「も、申し訳ございません。
五年前の第二王太子暗殺時……
黒刀が一本、回収されておりませんでした」
「は?」
男の顔色が変わってゆく。
「当時の記録からも、記載がありません。
現場から持ち去られた可能性が高いかと、存じます」
「誰か……拾ったの、か……?」
言葉を選びながら話を続ける。
「恐らく…。我々が確認する前に、深夜の数時間のうちに第三者か本人達によって、回収された可能性が、ございます。
五年前、確かに我々は、早朝より麓全域を隅々まで、王子の遺体を捜索しておりました」
「死体を見つけていないことは知っている。なぜこの五年もの間、黙っていた…??」
突然、静かに問う。
冷えた空気が辺りに広がってゆく。
「五年前の…暗殺完了後に口封じで、始末した者が……管理を担っていた様でございます。
その後は…予算の都合もあり、暗殺部隊は、まともに稼働しておりません。
また、第二王妃による捜索指示が多く、本部に立ち寄る機会も限られておりました。
つい先日、準備の段階で……ようやく確認した次第でございます」
「黙って聞いていれば!!人間の分際で無能か!!代々受け継がれる、この国の技術では作れぬ貴重なる黒刀だぞ!管理に予算など要るか!?」
怒号と共に、報告者はその場に崩れ落ちた。
辺りには血が滴り、静かになった。
「つまりはあれか!!ノエルが生きている可能性があるというのか!!黒刀や武器の回収まで……
徹底的に探し出せ。
病院、学校、孤児院、どこに痕跡があるか分からぬ。第二研究所に保管されている血液サンプルも活用しろ。さっさと行け!!」
頭に血管を浮き上がらせながら怒鳴りつけ、控えていた部下達に命令を下す。
「ノエルか…あいつが全部邪魔を……」
強く握った拳から、血が滲む。




