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ひととま  作者: 珈琲
第一章
4/104

3

魔物を近寄らせないように、父とユキは手慣れた様子で大きな魔物も倒していく。


アキは光の魔法陣をさらに拡張し、父と兄の細かな傷や毒の治療も同時に行っていった。


次いで、青年の手当てへ。左腕はすでに無かった。

「ハル!どこかに腕落ちてない?!」

探知魔法を使ったハルが、首を横に振る。

「くっつけるのは無理かぁ…」

アキは残念そうに呟いた。



「あいつは?」

青年が不安げに問う。

「意識戻りそうだし、生きてるよ。大丈夫」

アキはにっこり笑った。


「悪いな。恩にきるよ。俺はヒスイ。あいつはノエル。死なれたら大問題になるもんでね。…いや、生きてる方が、大問題か……」


「ノエル…?でもヒスイさんの方が怪我ひどいよ」


「あー…そうかな?まぁ俺はいいんだよ」


「二人ともちゃんと助けるから、安心してね」

アキは元気付けるように言った。


「ほら、もう傷は治ったよ。あとは…ゆっくりしないとね」

アキは手のひらをヒスイの目の前に出し、眠りの魔法をかけた。

「え……?」

そのままヒスイは眠らされた。



ーーー


温かい光に包まれつつ、回復薬でびしょ濡れになりながら、ぼんやりとした視界に映ったのは、座り込んで全然動かない女の子?


誰だろ…ヒスイじゃないなぁ…

「助けてくれたの?」


ヒスイを眠らせていたアキが振り向く。

「あ!ノエルさん意識戻ったんだね!

ハルは今、多重魔法使ってるから喋れないよ。

父さんと兄ちゃんもいるし、傷は治したからもう大丈夫かな」

にこにこ話すアキに、ハルも小さくうなずいた。


ノエルは、多重魔法?と一瞬思いながらもハルを見つめていた。

髪の短い女の子を初めて見た。


ハルを見つめるノエルがなんとなく嫌だったので、

「ノエルさんも寝ててね」


「ん?」


ノエルも眠らせた。





遭遇から三十分以上が経っただろうか。


「ハル!アキ!大丈夫か!?」

父が声をかける。

二人は頷いた。


魔物はほぼ討伐済み。休憩をとり、眠っている二人を見つめる。


「この子、女の子みたいだね。髪長いー。よく見ると髪、暗めな水色だなんだね」

ハルがノエルの毛先を摘んでいる。


「薄暗いと、微妙な色に見えるもんね…多分、元々は薄めな水色なんじゃない?髪質が悪くなってるんだよ。栄養面かなぁ?枝毛あるし」

アキが真面目に診断している。


「栄養不足!?それは可哀想だな…」

ユキが言う。



「あー…なんか……!どうしよう……」

父は落ち着かずその場をうろうろし、頭を抱えていた。


「どしたの?」

三人が首を傾げる。


「確定はまだ、できないけどな。でも多分そうだと思うけどな。この国の第二王子のノエル様と教育係。

さすがに……な。まぁ暗殺だろうな。この高さから落とされたんじゃ……。それに、この黒刀は暗殺部隊の武器なんだよ」


黒刀に掘られたナンバーを見つめながら言う。

「50番台は使い捨てだ。実行犯は一緒に殺されたかもなぁ」

さらにくるくると黒刀を宙で回す。

「ほぼ原型ないけど、この紋章は王家のだよ」


父は分かりやすく説明した。



子供たちはドン引きだった。

「え、王子様なのに殺されちゃうの?」

「なんで、そんな事……」


ーーー


全壊した馬車の中も、くまなく確認したが他には誰もいなかった。

御者と馬は、自分らの痕跡を残さないためにも放っておくしかない。足跡も消した。


四人で手を合わせる。


「もう撤退した方が良いな」


父は鞄から風の魔法陣が描かれた風呂敷を取り出し、眠らせた二人を包んで浮かせる。

「さすがに二人同時には担げないからな」



「ねぇ…なんか怖いことになってない…?大丈夫かなぁ…」

ハルは心配になって、足が震える。


「なんかね…。バレたら巻き込まれちゃうかもね」

アキも心配になっている。



来た道を足早に戻り、朝日が昇る少し前に乗ってきた車で家へ帰った。


文字数増えました。

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