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魔物を近寄らせないように、父とユキは手慣れた様子で巨大な魔物を討伐していく。
アキは光の魔法陣を拡張し、父と兄の細かな傷や毒の治療も同時に行った。
アキの強力な回復魔法で先に少年の傷を癒し、急いで青年の手当てへ。左腕はすでに無かった。
「ハル!どこかに腕落ちてない?!」
探知魔法を展開したハルが首を横に振る。
「くっつけるのは無理かぁ…」アキは残念そうに呟いた。
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「あいつは?」青年が不安げに問う。
「意識戻りそうだし、生きてるよ。大丈夫」アキはにっこり笑う。
「あー…わるいな。恩にきる。俺はヒスイ。あいつはノエル。死なれたら大問題になるもんでね。…いや、生きてても大問題か」
「ノエル?なんか聞いたことあるような?でもヒスイさんの方が怪我ひどいよ?」
「あー…そうだな」
「…まぁでも二人ともちゃんと助けるから大丈夫だよ」アキはさらに笑みを浮かべた。
「ほら、もう傷は治ったよ。あとは…ゆっくりしないとね」
アキは手のひらをヒスイの目の前に出し、眠りの魔法をかけた。そのままヒスイは眠らされる。
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温かい光に包まれ、回復薬でびしょ濡れになりながら、ぼんやりとした視界に映ったのは魔法に集中するハルの顔。
(誰だろ…ヒスイじゃないな…)
「助けてくれたの?」
ヒスイを眠らせていたアキが振り向く。
「あ!ノエルさん意識戻ったんだね!ハルは今多重魔法使ってるから声出せないんだ。父さんと兄さんもいるし、傷は治したから大丈夫だよ!」
にこにこ話すアキに、ハルもうなずいた。
ノエルは(あれ?名乗ったっけ?それに多重魔法?)と一瞬思いながらも、ハルを見つめ
「…へぇ…」と目を細めた。
アキ見逃さなかったしヒスイ同様、問答無用で眠らせた。
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遭遇から30分ほど経っただろうか。
「ハル!アキ!大丈夫か!?」父が声をかける。
二人は頷いた。
魔物はほぼ討伐済み。少し休憩をとり、様子を見ていると――
「あー…やっぱりか。まじかー。どーしよーー…」
父は落ち着かずその場をうろうろし、頭を抱えている。
「どしたの?」三人が首を傾げる。
「確定はまだ怖くてできないけど、この国の第二王子のノエル王子と教育係のヒスイだな。さすがに現実逃避したくなるよ。…まぁ暗殺で間違いないだろうけどな。この黒刀は暗殺部隊のやつだし」
黒刀に掘られたナンバーを見つめながら言う。
「50番台は使い捨てだな。黒刀紛失で殺されたかもなぁ」
さらにくるくると黒刀を宙で回す。
「ほぼ原型ないけど、この紋章は王家のやつだし」
子供たちはドン引きだった。
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全壊した馬車の中もくまなく確認したが、他には誰もいなかった。
御者と馬は、自分らの痕跡を残さないためにも放っておくしかない。
4人で手を合わせながら、
(奴らが来る前に急いで撤退だな)と。
父は鞄から風の魔法陣が描かれた風呂敷を取り出し、眠らせた二人を包んで浮かせる。
「…なんか怖いことになってない…?大丈夫かな…」
ハルは心配になってきてしまった。
足早に4人は森を抜け、朝日が昇る少し前に乗ってきた車で家へ帰っていった。