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今日は星が綺麗で、三日月が浮かんでいる。雪は降っていない。
家の中庭に、みんなで集まった。
「じゃあ、始めようか」
お父さんは静かに言う。
アキは補助係。万が一の怪我に備えての参加だ。
ハル、ノア、ヒスイの3人はお父さんの前に立つ。
「そんな畏まったものでもないけどな。家に古くから伝わるやり方だ。
原則、家族、血筋以外には教えない。あくまで親が教えるんだ」
技術を教えたら「もう用無し」と言わんばかりに殺される事が絶えなかったから、家族継承が主流になったんだって。
純粋な魔族の家系でも、途絶えることが多くて出来る人ももうだいぶ少ないらしい。
「どんな形、大きさ、装飾か。色や重さ、全部イメージして、脳裏に焼き付けること。一度生成したら、ニ回目以降は“完全一致“じゃ無と生成出来ない。忘れたら最後。もう出来ないからな。
なるべくシンプルな方がいいぞ。盛りすぎると細部まで思い出せなくなる。大きすぎてもその分魔力を使う。なるべく低燃費、瀕死でも創れるくらいの方がいい。」
「低燃費!!」
ハルは反応した。
「父さんの兄貴は、一度創れたっきり二度と作り創り出せなかったからな」
「怖っ……。でも兄ちゃんもアキも普通に出来てるよね」
せっかくの武器なのに一度きりだったら嫌すぎる。
「まぁね!忘れなきゃいいだけだからね」
アキは余裕の笑みを浮かべた。
「イメージが固まったら、あとはこの魔石に魔力を込めたら勝手に出来上がる。二回目以降は魔石を使わなくとも意識すれば形になる。少しの魔法を媒介に武器を生成すればいいんだ」
「なるほどなぁ……そう言われると緊張するな」
ヒスイは腕を組み、考え込む。
「まぁ、俺らはいつもの感じでいいんじゃない?
問題はハルだよ」
ノアがちらりと視線を送る。
「ハル、落ち着いてイメージしてね。手足震えてるよ?」
ちょっと心配そうに覗き込むアキ。
「あ、ごめん。感動を噛み締めてて震えてた!もうイメージはしっかりできてるから大丈夫だよ!」
ずっとこの時を待ってたんだから。忘れる訳ないじゃん!
「魔石は一つしかないから、順番に。なるべく、柄が手元に来るようにイメージを。失敗して腕を切り落とされる事故があるからな」
「……だからアキが控えてるんだ」
ノアが小さくつぶやく。
「優しくしてあげるよ?」
にっこりと笑って、しかし目だけ笑っていないアキ。
「!!」
ノアはビクッとした。
(サイコパスなんて言うから……)
(サイコパス呼ばわりされたの、気にしてるな……)
ハルとヒスイは同時にため息をつき、ちょっと呆れた。
「で、誰からいく?ハル…か?」
お父さんは話を知らないから冷静だった。
「い、いや…ちょっとみんなの見学してからがいいかなぁってー」
やる気だったのに、突然引っ込んだ。
「……じゃあ、俺から」
ノアが迷いなく手を上げた。
受け取った魔石はとても軽かった。角が取れ、丸みのある銀色の魔石。中央には何か魔法陣みたいなものが描かれていた。
3人はまじまじと石を覗き込み、息を呑む。
月の光が当たってとても綺麗に輝いている。




