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ひととま  作者: 珈琲
第一章
30/107

29

ノアは腰を怪我しているし、終わってから吐いてるし……正直、これ脱水とか貧血で危ないんじゃないか? まいったなぁ。


医務室はすでに満杯。


第三班の治療部員は少ないし、持ってきた薬も効果が普通のやつ。まじ使えねぇ。


陽が昇ってからはニュース速報で流れたこともあり、近所の人やクリニックから薬を寄付してくれたり、非番の医者が来てくれたり。本当に助かってると思う。まさかこんな事態になるなんてなぁ。



正直、周りがバタバタしているから何をしていいか分からず、ノアの横で体育座りしてるだけのグリム。特に誰からの指示もないし。

「ごめ……グリム。血の跡、土で……消しといてもらって……いい……?」

「??いいけど……何かあった?」

「いや……念のため……………」

「おーい、まじ大丈夫か?」

ノアの腰にドバドバ回復薬をかけて消毒する。

「……染みて痛い……」

「多分、染みてるだけじゃないと思うよ……ほら、水飲め水」

無理やりペットボトルの水を流し込む。

「ん……ゴク……ゴク……おぼぼぼぼ……」

あ、また吐いた。コイツ、ダメかも。


そこへ先輩が来た。

「おい、大丈夫か?」

「いや、ダメそう」

ノアを指差す。

「そうか……コイツの実家、この辺だっけ? ここで順番待ちするより実家行った方が早いと思ってな。ちょっと班長に聞いてみるわ」

「確かに!!」



宿舎の班長のところへ急ぐ先輩。

団長だけじゃ手が回らないので、一班と三班の班長・副班長が現場を仕切っていた。



「おい! 手当て急げ!」

「ベッドはもう無理だから!ちゃんと薬届いてるかー!?」

「動ける奴は病院から医者呼んでこい!」

「せっかく生き残ったんだから、ここで死ぬなよー!!」


班長たちも怪我しているのに、全然休めていない。


「ちょっとさ、収拾つかないし、実家が近い奴はそっちで療養させてもいいですかね?」

先輩が声をかける。

「ああ、それはいいな……そうだな、実家が近い奴は帰らせるか」

「いいな、それ!」

すぐ決まった。


副班長が足を引きずりながら放送室へ向かう。


『ジジ…ジ……ピンポンパンポーン……えー、只今、治療室は満員。治療には限界があります。実家が近く帰れる団員は一時帰宅を許可します。自宅療養、通院等ご検討ください。なお、費用は後ほど申請していただければ……繰り返します……』



家族や知人に連絡し、帰る団員がちらほら出始めた。



先輩がノアのスマホを持って戻ってくる。


「ほら、実家にでも連絡して休んでこい」

「ぁーーーぃ……」

ぼやけた目で待ち受け画面を見ると、ヒスイとハルとエリックさんから大量の不在着信。

(多分……ヒスイは開店準備でもう店だな……)

「あー……もしもしぃ??……ちょっとさ……動けなくなっちゃってさ……家、連れてって欲しいんだけど……」


「……すぐ行く。待っとけ。場所は?連絡無いから元気なのかと思ったよ」


ノアはスマホをグリムに渡す。

「疲れる……喋って……」


「え?あ、電話代わりました。グリムです。あ、お世話になってます……あの、えっと……宿舎の正面入り口のところです。多分、車は側まで入れないかと……」


「あ、いつもお世話になっております。兄のヒロです。すぐに向かいます」


本社に連絡し、花屋は臨時休業の張り紙を貼った。

勤務地のお花屋さんからは車で15分くらいの距離だ!


「あーあー……どーしよ。立てない、動けない……足腰に力入んない……」



ーー20分後。


あ、あの人!!


急いで来たのか、花屋のエプロンを着けたままのガタイの良いお兄さんが来た。


「あれ? あの片腕の花屋の人じゃん。お兄さんだったのかよ……」


駅前なので知っている人も多く、

商店街のパワハラ・カスハラ撲滅委員会の委員長も務めているので、親がお世話になっている人も多い。


着くなり「いつも弟がすみません」と挨拶をする。

先輩やグリムも「いやいやいや、こちらこそいつもお世話になっています……」

よくある定型の挨拶を交わした。

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