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時は遡り夕方、ハル達が森へ入る少し前のこと。
山の中腹にある宿に向かう途中、二人が乗った馬車が襲われ、崖下へ突き落とされた。
青年は急いで風魔法を使い、同乗していた少年と自分を包んでわずかに浮かせ、衝撃を和らげた。だが馬車内から脱出するまでには至らず。
馬車の破片が全身に降りかかりながらも、なんとか一命を取り留めた。
「おい、無事か?…なんとか助かったな」
「まったく…さすがにこれはやりすぎだろ…30メートルはあるじゃん」
崖上を見上げながら呆れる少年。
目の前には原型を留めない馬と御者と馬車。
自分たちは傷だらけ。
騒ぎと血の匂いに誘われ、魔物達が集まってくる。
「救助が来るのか来ねぇのか、どこまで持つかねぇ」青年は剣を構える。
「救助が来たら殺されるだけだろ。ムカつくけど逃げたいところだね」
「俺が惹きつけておくからお前はさっさと逃げろ。死んだら意味ねぇだろ」
「それはお前も同じ」
長い髪を一つにまとめた少年は、そばに落ちていた大剣を手に取り構える。
「ヒスイ、いくぞ!」
そう叫ぶと魔物に斬りかかっていった。
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魔物に取り囲まれながら必死に護符で結界を張り、守りに徹するヒスイ。
(属性が合ってない札は弱ぇな。まぁ背後が岩肌で後ろからは来ねぇけど…あいつ抱えて逃げれねぇしな。クソ、ここまでか…)
胸元をざっくり切られた少年が、元馬車の近くでしゃがみ込み動けなくなっていた。
(配下を庇う奴があるか。バカかよ…)
結界内に入り込んできた魔物の鋭い爪が、ヒスイの左腕を吹き飛ばした。
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アキの光で照らされた先、少し開けた場所にバラバラになった元馬車らしきものがあった。
「あれは……?」
青年の顔を見た途端、父エリックは青ざめた表情を浮かべ、魔物に斧を振り下ろす。
「あー…まじなやつじゃん…」アキは頭を抱える。
三人とも父を追い、駆け出した。
「いま助ける!ユキは俺と。アキとハルは救護と支援を!」
斧を振り回し、巨大な魔物を次々と両断していくエリック。
ユキは素早く剣を生成し、魔物へ斬り込む。大きな魔物には木を蹴って高く飛び、脳天に剣を突き刺す。
着地し再び地面から剣を生成し、熊ほどの魔物に勢いよく切り込んでいく。
「おっしゃー!どんどんいくぜーー!!」
気合いは十分。
二人で魔物を蹴散らし、ハルとアキが通れるよう一直線に結界までの道を作っていった。
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アキは青年のもとに着くなり治療を始めようとしたが、
「あーすまん、馬車の側にいる方から先に頼むわ」
「ん??」
アキが馬車の残骸に目を向けると、ぐったりとした銀髪?の少年?がしゃがみ込んでいた。
全身は血まみれ、腕も不自然な角度に折れ曲がっている。相当数の魔物と交戦したようで、そばには大剣と真っ黒な短刀が落ちていた。
(僕と同じくらいの子かな…てゆーか出血やば!大丈夫かな…)
アキは不安になりながら近づく。
(よかった、息はある…)
ほっとしつつ声をかけた。
「ちょっとごめんね」
急いで光の魔法を展開し、傷を治していく。
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ハルは魔石を右手に握りしめ、左手を地面に当てる。すぐさま火の魔法陣を広範囲に展開(3人の体力強化)。
続いて土の魔法陣で結界を張り直す。
さらに汚れを洗い流すために水の魔法陣を展開し、大量の水を生成。アキが瓶に詰めて魔力を込め、即席の回復薬をつくる。
それを飲ませたり傷口に当てて消毒。少年の腕の角度を直し、回復魔法をかける。
頭から回復薬をじゃぶじゃぶかける――かなり雑だが、一番効率がいいらしい。
瞬く間に傷が癒えていくが、彼の意識はまだ微妙だった。
ハルはぼんやり眺めながら(アキの魔法って綺麗だなぁー)なんて思い、アキの手元を見つめていた。
ちょこちょこお直ししています。