2
少し遡り夕方。
ハル達が森へ入る少し前のこと。
山の中腹にある住居エリアに向かう途中、二人が乗った馬車が襲われ、崖下へ突き落とされた。
青年は急いで風魔法を使い、同乗していた少年と自分を包んでわずかに浮かせ、衝撃を和らげた。
だが、馬車内から脱出するまでには至らず、そのまま地面に衝突。
馬車の破片が全身に降りそそぎながらも、なんとか一命を取り留めた。
「おい、無事か?…なんとか助かったな」
「まったく…さすがにこれはやりすぎだろ…三十メートルはあるじゃん」
崖上を見上げながら呆れる少年。
目の前には原型を留めない馬と御者と馬車。
自分たちは傷だらけ。
騒ぎと血の匂いに誘われ、魔物達が徐々に集まってくる。
「救助が来るのか来ねぇのか、どこまで持つかねぇ?」
青年は剣を構える。
「救助が来たら殺されるだけだろ。ムカつくけど逃げないと」
「俺が惹きつけておくからお前はさっさと逃げろ。死んだら意味ねぇから」
「それはお前も同じだよ」
長い髪を一つにまとめた少年は、そばに落ちていた大剣を手に取り構える。
「ヒスイ、いくぞ!」
そう叫ぶと魔物に斬りかかっていった。
ーーー
魔物に取り囲まれながらも、必死に護符で結界を張り、守りに徹するヒスイ。
「クソ、ここまでか…」
属性が合ってない札は弱ぇなぁ。
まぁ背後が岩肌で後ろからは来ねぇけど…あいつ抱えて逃げれねぇしなぁ。
そう思いながら、横目で大怪我を負った少年を見た。
元馬車の近くでしゃがみ込み動けなくなっている。
「臣下を庇う奴があるか。バカかよ…」
「だって仕方ないじゃん。お前がよそ見なんかしてるから。
俺一人じゃ生きてけないしー」
二人の体力も限界に近くなり、ぼろぼろの結界内に入り込んできた魔物。
ヒスイに向けて鋭い爪が襲いかかり、腕を斬り飛ばされた。
ーーー
アキの光で照らされた先、少し開けた場所にバラバラになった何かの残骸があった。車輪があるから乗り物かな?
「あれは……?なんだ??」
青年の顔を見た途端、父は青ざめた表情を浮かべ、魔物に斧を振り下ろす。
「あー…まじなやつー…」
アキは頭を抱えた。
三人とも父を追い、駆け出した。
「いま助ける!ユキは俺と。アキとハルは救護と支援を!」
斧を振り回し、巨大な魔物を次々と両断していく父。
ユキも勢いよく踏み込み、自身より何倍も大きな魔物を斬り刻んでいく。
「なかなか大物じゃん」
ユキは楽しそうに言った。
二人が魔物を蹴散らし、ハルとアキが通れるよう一直線に結界までの道を作っていった。
「大丈夫ですか!?なんでこんな所に…」
アキは青年のもとに駆け寄り、治療を始めようとしたが…。
「腕の出血が酷いから…もう使えないかも…」
「まぁいいさ……。申し訳ないが、そっちの馬車の側にいる方から頼むよ」
と声をかけられた。
「これ馬車だったの??」
馬車の方を見ると…
ぐったりと、銀髪?の少年?がしゃがみ込んでいた。
胸元からはぼたぼたと血が流れており、腕は不自然な角度に曲がっていた。
側には大きな剣と真っ黒な短刀が落ちている。
僕と同じくらいの子かな…てゆーか大丈夫かなこれ……。
アキはちょっと不安になりながら、近づいた。
「ちょっとごめんね」
急いで光の魔法を展開し、傷を治してゆく。
ハルは魔石を右手に握りしめ、左手を地面に当てた。
火の魔法を広範囲に展開し、みんなの力が強くなるように魔法をかけた。
続いて、土の魔法で結界を張り直す。
さらに汚れを洗い流すために、水の魔法で大量の水を創り出す。
アキが瓶に詰めて魔力を込め、即席の回復薬をつくった。
飲ませたり傷口にかけて消毒。少年の腕の角度を直し、回復魔法をかける。
頭から回復薬をじゃぶじゃぶかける。
かなり雑だが、一番効率がいいらしい。
すぐに傷は癒えていくが、彼の意識はまだ薄っすら程度だった。
ハルはぼんやり眺めながら、魔法を使うアキの手元を見つめていた。
魔法ってほんと、綺麗だよねぇ…




