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高台を駆け降り、西の市街地へ向かう途中のことだった。
右側上空、宿舎の方で信号光が輝く。
「どうなってんだ?二箇所?」
先頭を行く先輩たちは混乱した。
すると、無線から突如声が響いた。
『死体が起き上がった!! 緊急要請!! すぐに応援を頼む!!』
先輩の顔が強張る。
「……急ごう。宿舎の方が近い」
目視できる距離まで来ると、騎士達の状況がはっきりと見えた。
仲間同士で剣を交え、魔法を打ち合っている。
団服は裂け、血で赤黒く染まっていた。
体の半分以上を損傷し、地面に横たわっていた亡骸であっても、青白い光を帯び動き出して魔法を放つ。
まだ息のある騎士達に襲いかかっていた。
「まじ……なんだよこれ……!」
「ヤバいヤバ…」
後退した一人が、正面から斬られる。
表情の無い“ソレ“に、ついさっきまで共に戦っていた仲間の面影が、少し。
動けなかった騎士はそのまま倒され、数分後には怪物として動き出す。
皆がたじろぐ中、団長の声が響き渡る。
「躊躇うな! 殺られるぞ!!」
ノア達の前にも、複数の怪物が襲いかかってくる
「わぁぁぁぁぁ!」
隣のグリムが声を上げて後退し……吐いちゃった。
「俺だってー…」
吐き気を抑え、雷を纏わせた大剣を振り抜いた。
躊躇はしない。
「お、おい……お前……!」
呆然とする先輩たち。
「いいんだよ。王族には手をかけずに済んだんだから。最後までちゃんと騎士で死なせてやれば」
ノアは冷静に言った。
……そういうところ、ちゃんと王子なんだなぁ。
騎士の使い方わかってんだなぁ。と思い、
「おい! 新人ばっかにやらせんな!さっさと終わらせるぞ!!」
団長は怒号を飛ばしながら、広範囲の氷魔法を放つ。
副団長への無線も…
『そっちも死体が動いてるなら、躊躇わずに殺れ! これ以上死者を出すなよ!』
『分かってる!』
グランニールだったものに、火の魔法を叩きつけるように唱える。
皆、数時間前まで部下だった、異形と化した騎士に襲われていた。
「一気に焼き払うぞ!」
号令で周囲の団員が、一斉に魔法を放つ。
炎の中から黒い影が飛び出した。
焼け爛れた体で、なお剣を振るい魔法を放つ怪物たち。
「もう、いいから…」
「これ以上仲間同士で殺させんな!早く終わらすぞ!!」
副団長も現場で怒鳴り声を上げる。
ノアは背後から伸びた手に、腰を掴まれた。
内臓を押し潰されるような圧迫に息が詰まる。
とっさに大剣を振り抜き、魔物の手首を斬り飛ばす。
「痛ってぇなぁもう!!」
焼ける様な激痛が全身に広がってゆく。
今は気にしたら負けだ。
朝日が昇るころ宿舎前や市街地には、斬られ、焼け焦げ、動かなくなった残骸があちらこちらに散らばっていた。
生き残った騎士たちは皆、深手を負っていた。
外なのに、血の匂いが充満している。
それでもすべて片付いた。
ノアは草むらの方でうずくまって吐いていた。
グリムが背中をさすってくれる。
「あ、ごめ……そこ傷…痛ぁ……気持ち悪……うっ……」
早朝、第三騎士団の三班と四班が応援に駆けつけたが、結局大して役に立つことはなかった為、清掃を任せることとなった。
最終的に、第四騎士団の死者は四十名を超え、負傷者は百五十名ほど。
その結果、騎士団はほぼ機能不全に陥ってしまった。
団長はデスクに戻り、頭を抱えた。
「ねぇねぇ、これってマジで始末書になる? 初めてなんだけど何かテンプレ的なやつとか……。
それにさ、絶対ニュースに取り上げられるよね?
何着たらいいかな?あとさ、殉職だし国王様に申し出て葬儀もしなきゃだよね……申請ってFAXでいいかな?俺、いつ寝れそ?
風呂入りたいんだけど……」
いつもは丁寧な口調で冷静に指揮を執る団長が、
この時ばかりは泣きそうな顔で完全に混乱していた。
副団長は……
ついさっきまで目の前で第三の班長達に指示を飛ばしていたはずなのに、床で寝落ちしていた。
「もーー!……裏切り者!!」




