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ひととま  作者: 珈琲
第一章
24/106

23

グランニールが左手を高く掲げた。

次の瞬間、空から鋭い氷柱が雨のように降り注ぐ。


「ハル、強化を!皆、建物に逃げろ!ユウカも急いで!」

父エリックの怒号が響く。


「お母さん!危ないから早く!」

お母さんは魔法が使えない。ハルは焦りながらも地面に両手をつき、周囲一帯――およそ三十棟に土属性で強化を施した。

首から下げた魔石を通じ、アキの魔力を引き込む。

……自力じゃ、一棟くらいかなぁ。



轟音と共に氷柱が突き刺さる。だが建物は崩れない。

「よし……!」

ハルは拳を握った。


エリックは斧を振り回し、迫る氷柱を粉砕しながら突進してゆく。

グランニールは軽やかに後方へ跳び退き、斧を避ける。


「わたくし、丸腰なんですよ?急に襲ってくるなんて酷いじゃないですか」

「知るか!」

黄土色に光る魔法陣が地面を隆起させ、グランニールの足場を崩す。


ハルは父へ火と風の魔法での強化。

そして、父の斧には雷を纏わせた。


「ハル、大丈夫か」

「うん、まだ動けるから!」

訓練の成果で四属性までは維持できる。

だが五つ目以上を同時発動すれば体は重くなり、動けなくなってゆく。


「生け捕りは……難しいな」

駆けだし、大きな斧で軽々と連撃を繰り出していく。

直撃すれば即死だろう。

グランニールはギリギリでかわしていく。


「……これ、直撃は一溜まりもありませんね。お前、何者だ?」

初めとは違い、険しい顔になってゆく。

「答える必要はない」

足場はガタガタにされ、雷を纏った斧はグランニールを狙いながら地面をも抉った。


かわすので精一杯。

「チッ…反撃の隙がないじゃないか。なんなんだコイツは」


グランニールの着地地点。エリックの魔法で地面から無数の岩の手が伸び、彼の右足を掴みとらえた。

「っ……クソが!」

地面に叩きつけられる。

エリックは斧を振りかぶり、一撃を叩き込もうとした瞬間……


グランニールは、自らの足元に魔法の札を叩きつける。

すると、まばゆい光を放ち彼の姿は煙のように掻き消えた。

岩に掴まれた右足だけが、そこには残されていた。


「チッ……!」

エリックの斧は空を切り、地面に突き刺さった。

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