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グランニールが左手を高く掲げた。
次の瞬間、空から鋭い氷柱が雨のように降り注ぐ。
「ハル、強化を!皆、建物に逃げろ!ユウカも急いで!」
父エリックの怒号が響く。
「お母さん!危ないから早く!」
お母さんは魔法が使えない。ハルは焦りながらも地面に両手をつき、周囲一帯――およそ三十棟に土属性で強化を施した。
首から下げた魔石を通じ、アキの魔力を引き込む。
……自力じゃ、一棟くらいかなぁ。
轟音と共に氷柱が突き刺さる。だが建物は崩れない。
「よし……!」
ハルは拳を握った。
エリックは斧を振り回し、迫る氷柱を粉砕しながら突進してゆく。
グランニールは軽やかに後方へ跳び退き、斧を避ける。
「わたくし、丸腰なんですよ?急に襲ってくるなんて酷いじゃないですか」
「知るか!」
黄土色に光る魔法陣が地面を隆起させ、グランニールの足場を崩す。
ハルは父へ火と風の魔法での強化。
そして、父の斧には雷を纏わせた。
「ハル、大丈夫か」
「うん、まだ動けるから!」
訓練の成果で四属性までは維持できる。
だが五つ目以上を同時発動すれば体は重くなり、動けなくなってゆく。
「生け捕りは……難しいな」
駆けだし、大きな斧で軽々と連撃を繰り出していく。
直撃すれば即死だろう。
グランニールはギリギリでかわしていく。
「……これ、直撃は一溜まりもありませんね。お前、何者だ?」
初めとは違い、険しい顔になってゆく。
「答える必要はない」
足場はガタガタにされ、雷を纏った斧はグランニールを狙いながら地面をも抉った。
かわすので精一杯。
「チッ…反撃の隙がないじゃないか。なんなんだコイツは」
グランニールの着地地点。エリックの魔法で地面から無数の岩の手が伸び、彼の右足を掴みとらえた。
「っ……クソが!」
地面に叩きつけられる。
エリックは斧を振りかぶり、一撃を叩き込もうとした瞬間……
グランニールは、自らの足元に魔法の札を叩きつける。
すると、まばゆい光を放ち彼の姿は煙のように掻き消えた。
岩に掴まれた右足だけが、そこには残されていた。
「チッ……!」
エリックの斧は空を切り、地面に突き刺さった。




